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竜の娘  作者: ゆのみ
6/11

初依頼はシルバーランク

「まだ横になってろ」


食べ過ぎて動けなくなったユフィは、レグルスに抱えられて宿に運ばれた。

苦しそうに顔を歪めているくせに幸せそうなその顔は、レグルスを呆れさせたが、笑えもした。


「うー。食べ過ぎた」


宿の主に消化薬を貰い飲ませたが、二時間経ってもこの様子を見るに、よく嘔吐しなかったものだと思う。

あれは子供の食べる量ではない。


「だからやめとけって言ったろうが」


篭に盛られた十個、レグルスが見たときには既に七個になっていた、は、全てユフィの胃の中に消えた。

途中、レグルスは何度か止めたのだが、ユフィは食べると言って聞かず、食べきったと同時に動けなくなったのである。


「でも後悔はしてないっ!」


にへらと笑って答えるユフィだが、反省は一応している。

白米が目の前に出されたら同じことを繰り返す自信があるが、パンについては過大な欲求は落ち着いた。


「また動けなくなるぞ」


呆れたように言うレグルスに、ユフィは笑って答える。


「レグルスが運んでくれるでしょ?」


ユフィにとって五十年ぶりに会った人間である二人は、過ごした期間こそ数日であるものの、その気質は信頼に価する。

厄介な事情を抱えていることがわかっているだろうに、ユフィを受け入れてくれたことは、ユフィに全幅とまではいかないまでも、安心感を与え、それが甘えになる。


「ったく。少しくらい反省しねえのか」


「ちょっとは反省してるって!ありがとね」


えへへと笑っていると、ノックとともにマキアスが戻ってきた。


「ただいま。どう、少しは楽になった?」



あれからショックが抜けきれなかったマキアスは、レグルスに「それだけ落ち着いた、いい男に見えたってことだろ」とフォローされたことで持ち直した。

そして遅まきながら昼食兼夕食を食べに行ったところだ。

ちなみにレグルスはしっかり昼食を取っているので、後で酒を飲みに降りるらしい。


この宿は、一階に食堂兼酒場があり、二階が客室となっている。

少し古びた建物であるが、掃除は行き届いており、何より食事がいい。

主が元冒険者であるために、つてで魔獣の肉なども入り易いのがその理由である。


ちなみに今晩のメインは亜竜の煮込み。

これは特別メニューとして、一人前3Sで供されるが、それでも破格である。


肉屋に卸せばいい値段になるが、二人が懇意にしているため宿の主に渡したのだ。

おかげで本来1Sの宿泊費が十日間不要だ。




「うん。もう動けるよー」


ユフィが答えて起き上がろうとするのを、やはり止めるレグルス。

それを見て父親はこっちだろうと思うマキアスである。


「そういえば依頼書まだ見てないよね?」


むぅと唸るユフィだが、それに反応して飛び起きると懐から依頼書を取り出し、読んで満面の笑みで答える。


「依頼内容、深海の森付近にて魔獣三体の討伐及び素材の採取。期間は次の無月まで、報酬は素材により考慮、だって!あの辺の魔獣なら何でもいいってことだよね?」




この世界に置いての一年は、空に輝く二つの月のうち、大きな月であるカジャにより示される。

一年は、土の月(春)、火の月(夏)、風の月(秋)、水の月(冬)に分けられる。

その一月は、月が三度、新月と満月を繰り返すことにより数えられ、一月は九十日となる。

新月と満月の間は十五日。新月を始まりとし、土の月の一、二、三と数えられる。

新月は無月、満月は覇月と呼ばれ、数年に一度だけ、二つの月は共に新月、満月を迎える。それを双無月、双覇月と呼ぶ。


今は土の月の一の無月を過ぎた時期なので、三十日近くの期間である。




「深海の森付近だと?!」


レグルスは驚きに目を見開き、マキアスは額に手を当てる。

ユフィは「ん?」と首を傾げているが、これは新人には無謀以上の依頼である。



冒険者は見習い、ブロンズ、アイアン、シルバー、ゴールドとランクが上がっていくシステムである。

基本的に見習いは、町中でできる雑用や、町の近くの安全な場所から初め、町の近辺に出てくる弱い魔獣を倒せることを目指す。

それが出来て、ブロンズに上がることが可能になり、冒険者と呼ばれる。


ブロンズは危険地域と言われる、この辺りでは深海の森方面以外の街道近辺への討伐や薬草の採取を主とし、このランクから商人たちの護衛も出来る。


アイアンに上がるには、中級の魔獣を狩る実力を求められ、ベテランと言われる程の経験が求められる。深海の森方面の街道から外れなければ、討伐も可能だ。


シルバーは一流と言われ、強力な魔獣も討伐出来る実力が求められ、深海の森方面の街道付近の魔獣でさえ討伐出来る者がなる。


ゴールドは、冒険者の中でも一握りしかいない、深海の森でさえ入ることが出来る強者である。


その上にプラチナランクと呼ばれる存在がいるが、世界でも十指に届かない人数しかおらず、その詳細は不明である。


つまりユフィは、最初からシルバーランクの依頼をされたことになる。



マキアスが説明するが、ユフィは実感が持てないのか、「ふーん?」と流すだけである。


「あのジジイ…!!」


拳を握り締めるレグルスであるが、溜め息を吐いたマキアスが宥める。


「落ち着けって。ユフィちゃんなら、帰らずの森で生活してたんだから大丈夫なはずだ。それよりも新人がいきなりシルバーだと回りがどう出るか…。ましてユフィちゃんはこの外見だし」


「ジジイに聞いてくる!」


立ち上がり扉に向かうレグルスをマキアスが止めようとするが、ユフィの声の方が早かった。


「レグルス!まず私の意見くらい聞きなさい!!」


ぴょんとベッドから飛び降り、振り向いたレグルスの袖を掴んで、ユフィは心配ないと笑う。


「マキアスも座って。とりあえず話そ?」

ベッドに腰かけるように指示し、ユフィは二人の前に立つ。


「いい?先ず依頼のことだけど、これは私にとっては危険でもなんでもない。亜竜だろうが黒龍だろうが、負けることはありえないから」


レグルスの目をじっと見て言う。


「逆に弱すぎる魔獣の方が手加減しなきゃいけない分大変かもしれないわ」


くすりと笑うユフィに、レグルスも苦笑する。


「で、ランクのことなんだけど、私には実感ないし、あまり興味もないんだけど、新人がいきなりシルバーなんてのは有り得ないことくらい想像付くわ。でも多分、ギルドマスターもシルバーランクにはしないでしょうね。」


ギルドマスターの顔を思い浮かべながら、ユフィはその意図を想像する。

あの老人は回りの人間をよく観察していた。

なら、この程度のことは予想済みであることは間違いない。

ならどうするのか。


「多分、アイアンランクかしら?にして、レグルスとマキアスと組んで依頼を受けさせるつもりだと思うの。私もそのつもりだし。…二人が嫌じゃなければ」


少し不安を感じながら、上目遣いに見上げる。

しかし、その不安は杞憂だったようで、レグルスは頭をぐちゃぐちゃに撫で、マキアスは笑っていた。


「嫌なわけないっしょ?」


「ああ。逆に俺たちの方が足を引っ張っちまうが、いいのか?」


「ありがとう!」


言いながらユフィは二人に飛び付く。

それをしっかりと受け止めて、三人顔を見合わせて笑った。








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