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竜の娘  作者: ゆのみ
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パンこそが至福です

ギルドを出た三人だが、まだユフィ以外の二人はくつくつと笑っている。

それにユフィは拗ねたように頬を染め、軽く睨む。


「先に飯にしようか。俺も腹へったー」


機嫌を取るようにマキアスが言えば、レグルスも頷く。


「屋台でいいんじゃねえか。早えし」


むう、と頬を膨らませ、一呼吸して、ユフィは二人の腕を掴むと歩き出す。


「もうっ!ご飯は嬉しいけど、いつまで笑ってるの!」


「うん。そこ右ね」


拗ねた表情は、幼い容姿もあり、むくれた子供そのもので笑いを誘う。


「で、何食いてえんだ?」


子供扱いしてしまうのは、二人が悪い訳ではない。


「白米かパン!!」





満面の笑顔で言うのは理由がある。

ユフィは人であるが、家族は人ではない。

神竜の食事は基本、魔力の素である魔素と呼ばれるもので、大気や大地から直接体の内に取り入れるものであり、人のように経口で何かを摂取する必要はない。

もちろん、食べることはできるし、味わうこともある。

だが、食べ物が必要かといえば否だ。

ユフィが住んでいた地は、魔素が多く存在する力の強い場所だ。

そのため、神竜の食事に事欠くことはなく、神竜が精霊を生み出したり、地に加護を与えたりすることで、場自体が力を持ち、より魔素が集まる。


ユフィはその地で過ごしながら、魔力に満ちた果物や花の蜜を主食として過ごした。

それこそがユフィの異常な魔力の底上げとなっているのだが、普通の人間はそんな形で魔力を摂取することはない。

そもそもが魔素と神竜の力を介して出来たものたちである。

赤子という、最も環境に適応する時期、それを拾った神竜自体の加護があったからこそ、無理なく体に取り入れ馴染むことが出来たのである。


ちなみに、ユフィが最初にレアリアースに与えられたものは、レアリアース自身の血を、加護する湖の水で薄めたものである。

これはあまりに脆弱なユフィに、レアリアース自身の魔力をほんの少し分け与える為であり、濃密過ぎる魔素へ適応できるようにと与えられた最初の加護である。


普通の人間が、その濃密な魔力を持った果物や蜜を食べたとしたら、拒絶反応を示すこともあるだろうし、もし取り入れることが出来たとしても、ユフィのように劇的に魔力が上がることもない。

多少以上の魔力の増大は見込めるが、それだけである。

何より、神竜の住む場所に入れる人間自体が稀である以上、それを手に入れることは不可能に近い。


ある意味神竜の欠片とも言えるかの地の実りであるが、それはあくまでも果物、花の蜜であって、白米やパンとは無縁のものである。

たまに獲物を狩って、その肉などを食べることはあったが、この五十年、ユフィは白米もパンも食べていない。


二人に会って、保存食であるパンを焼き固めたものは食べた。

だが、ユフィが渇望するのは、柔らかな湯気を立てる白米であり、焼きたての甘く香ばしいパンなのである。


そのため、答えた言葉には非常な執着が含まれていた。




「なら、あの角を曲がったら屋台があって、そこにパンも…」


マキアスの言葉を最後まで聞かず、ユフィは走り出す。

目指すはパン屋である。

肉や魚を焼く食欲をそそる匂いも無視して、ユフィは香ばしくも甘い香りに向かう。


そして、それはあった。


積み上げられたパンの山。

優しい茶色の皮の中はきっと白いのだろう。

もっちりとしてふわふわなのだろう。

柔らかな甘味は、口いっぱいに広がるだろう。

そう。目の前に夢にまで見たパンがあるのだ。


具を挟んだものが幾種類もある中、ユフィの視線は何も手が加えられていない純粋なパンに釘付けである。

念願のパンに余計な味付けは不用である。

今はただただパンを味わいたいのだから。



「お使いかい?お金を持ってないと渡してあげられないよ」


食い入るように見つめるユフィに、屋台の女将が声をかけた。


「あ…」


ユフィはお金は持っている。

ただし現在の通貨ではない。が、ユフィはまだそれを知らない。


「その子俺の連れだから。いくら?」


ユフィが荷物を探ろうとしたとき、マキアスが追い付いて声をかけた。

女将はユフィに向けていた視線をマキアスに移す。


「こっちの具入りが2C、何も挟んでないのが1Cさ」


「何も挟んでないの、十個ください!!」


間髪入れずに叫んだのはユフィである。

握り締めているのは千年以上前の金貨であり、長い時の中でほとんど失われてしまい幻となった、骨董価値の非常に高いものである。

もちろん両親から旅立ちに際しもらったものであり、ユフィは価値を知らない。


「あいよ。10Cだ」


握り締めた金貨を女将に渡そうとして、マキアスに止められる。


「ユフィちゃん十個も食べれないっしょ?」


それをきっと睨んで、ユフィは叫ぶ。


「ありったけって言いたいのを十個にしてるんだから、いいの!!食べる!絶対!!」


困り顔で、「でも」と言いかけたマキアスに、女将が割って入る。


「いいじゃないか、十個。食べ切れなかったら持って帰っても、あんたがが食べてもいいんだし。父親のいいところを見せておやりよ」


父親と言われたマキアスは呆然とし、ユフィはパンしか見えていない。


「これで足りますか?」


呆然とするマキアスを横にユフィは金貨を手渡すが、女将はそれを見て困った顔をする。


「ごめんねぇ。この金貨はお金じゃないから使えないよ。でもとっても大切なものだから、大事にしなさいね。お金はお父さんに払ってもらおうね」


お金が使えないことにショックを受けるユフィだが、パンを買えないのはそれ以上の衝撃である。


「マ、マキアス。お金貸してください」


くいくいと袖を引いて話しかけるが、マキアスは動揺している。


「違うから!俺の娘じゃないから!!」


「うん。わかってる。お金貸してください」


女将は生暖かい目で、ユフィは悲壮な顔で見上げているが、マキアスは気付いていない。


「父親じゃないのはわかったから、どうするんだい?」


「買います!」


ユフィが答え、なんとかマキアスに支払わせると、女将は屋台脇に置いてあるテーブルに篭に入ったパンを運んでくれ、「ここでお食べ」と目を輝かせるユフィに告げる。


「ありがとうございます!そしていただきます!!」


まだショックが抜けきれないマキアスを置いて、ユフィはパンにかじりつく。


それはまだ温かく、焼きたてであると主張していて、パリっと焼けた皮の中のもっちりとふわふわの食感が愛しい。

噛み締める程に広がっていく甘味は、果物や蜜とは違い、淡い。しかしそれは物足りないのではなく、香ばしさやほのかな塩分と調和し、穀物特有の優しさが広がる。


ユフィは目を閉じて幸せも噛み締める。


懐かしい人間の食事。

その基本的たるパン。


不覚にも流れそうになる涙を押さえ、ユフィはパンを貪る。

口いっぱいのパンはユフィの頬いっぱいに詰まり…


「…!!」


当然のように喉に詰まる。


ドンドンと胸を叩くユフィの前に差し出されたカップに注がれた水分を補給して、一息吐くと、そこには呆れた顔のレグルスがいた。


「何やってんだ」


レグルスからすると、エールと蜂蜜のメルエ(山羊にた動物である)の乳割りを買って来てみれば、ユフィはパンを喉に詰まらせて、マキアスは呆けているのだから出た言葉であるが、二人にしてみると。


「だって久々のパンなのよ?!がっつかなくてどうするの!」

「俺、子持ちに見えるんだって。何か色々とさ…」


となるのである。

ユフィはまたパンを口に運んでいるし、マキアスは落ち込んでいる。


レグルスは溜め息を押さえる代わりに眉間を押さえた。









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