地上32階の怪人
ご訪問いただきありがとうございます!
今回は「悪の美学」と「身体の衰え」の間で苦悩する怪人のお話です。
どれだけ過酷な状況でも階段を登り続ける彼の生き様(?)を、どうぞあたたかい目で見守ってやってください。
少しでもクスッと笑っていただけたら幸いです!
地上32階のタワーマンションの屋上には、夜な夜な奇怪な叫び声をあげる怪人が出没するという噂があった。
その正体は、怪人「デス・シャドウ」。漆黒のレザースーツに身を包み、鋭い爪を持ち、世界を恐怖に陥れるはずの悪の幹部である。
しかし、彼にはひとつ大きな問題があった。
「……ハァ、ハァ……足が……膝が笑っておる……」
デス・シャドウは32階の非常階段の踊り場で、膝に手をついて絶望していた。
怪人たるもの、エレベーターを使って颯爽と登場するなどプライドが許さない。「闇より来たりて高所に君臨する」のが彼のポリシーであり、当然階段で登るのが怪人の美学だった。
だが、築浅タワーマンションの非常階段は過酷を極めた。
「くそっ、ヒーローめ……! なぜこんな、1フロアの天井が無駄に高い高級タワーマンションをアジトに選んだのだ……!」
ゼェゼェと肩を上下させながら、彼はなんとか屋上のドアを押し開けた。強烈な夜風がなびき、漆黒のマントがカッコよく翻る。完璧なオープニングだ。屋上の中央には、夜景をバックに缶コーヒーを飲んでいる宿敵「ジャスティス・ライザー」の背中があった。
「フハハハ! 待たせたなジャスティス・ライザー! 地上32階の風は心地よいだろう! だがここが貴様の墓場となるのだーっ!」
デス・シャドウは渾身の力で叫んだ。
ジャスティス・ライザーはゆっくりと振り返った。ヒーローのマスク越しでもわかるほど、彼は困惑した表情を浮かべていた。
「……デス・シャドウ? お前、なんでそんな汗だくなんだ? あと、めちゃくちゃ息上がってるぞ」
「黙れ! 悪の帝王に休息など不要! いざ、勝負――」
言いかけた瞬間、デス・シャドウの太ももが猛烈なこむら返りを起こした。
「グアッ!?」
怪人は悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちて悶絶した。右足のつま先が異常な角度でピーンと伸びている。
「おい、大丈夫か!?」
ジャスティス・ライザーが慌てて駆け寄ってきた。
「触るな! 伸ばすな! 今、伸ばすと余計痛いヤツだこれ! 痛たたた!」
「落ち着け! 足の指を手前に引っ張るんだ! ほら、力を抜け!」
夜の帳が下りた地上32階の屋上で、ヒーローが怪人の足を必死にストレッチするシュールな時間が流れた。
「……ふぅ、落ち着いたか?」
「う、うむ……かたじけない」
冷たいコンクリートの上に座り込んだ怪人に、ヒーローは温かい缶コーヒーを差し出した。怪人は「すまん」と受け取り、プルプルと震える手でプルタブを開けた。
「お前、まさか今日も階段で登ってきたのか?」
ジャスティス・ライザーがあきれ顔で尋ねる。
「当たり前だ! 悪の美学に関わる問題だぞ! エレベーターの防犯カメラに映りながら昇降する怪人がどこにいる!」
「いや、ここオートロックだし、お前が非常階段のドアをピッキングして登ってくる音、15階あたりからずっと響いてたぞ。『ギィィ…ハァハァ…』って」
「聞こえてたのか……」
デス・シャドウは缶コーヒーを一口飲み、遠い目で東京の夜景を眺めた。
「なぁ、ジャスティス・ライザー……」
「なんだ?」
「次から……決闘の場所、せめて5階建ての雑居ビルとかにしないか? 32階は、正直もう限界だ。最近は前日の夜からグルコサミンを飲んで挑んでいるのだぞ」
「わかったよ。じゃあ次は高架下の公園な」
「かたじけない……」
こうして、地球の平和と怪人の膝の皿は守られたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
どれだけ悪の美学を貫こうとしても、身体の衰えと膝のこむら返りには勝てないデス・シャドウ……。
ヒーローのジャスティス・ライザーの思わぬ優しさと、二人のシュールなやり取りを楽しんでいただけていましたら幸いです。
「クスッと笑えた」「膝をお大事に!」と思っていただけましたら、評価やブックマークで応援していただけると大変励みになります!
また次回作でお会いしましょう




