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屈辱の色彩

ウィーンの冬は、私の指先から感覚を奪うだけでは飽き足らず、心の奥底にある最後の矜持までをも凍りつかせようとしていた。


 収容所で出会ったハニッシュという男は、実に如才ない男だった。彼が私の描いた建築画を街の画商へ持ち込み、現金化してくる。その日銭で私たちは、ようやく泥水のようなスープではない、本物のパンにありつくことができた。だが、そのパンの味は、私にとって砂を噛むような屈辱の味がした。


「おい、アドルフ。また売れたぞ。あそこの画商はあんたの『几帳面な線』がお気に入りだそうだ」


 ハニッシュが数枚の硬貨をテーブルに放り出す。彼が通い詰めているのは、レオポルドシュタットにあるユダヤ人画商の店だった。皮肉なことだ。アカデミーの高名な教授たちが「魂がない」と切り捨てた私の絵を、最も高く買い、その価値を認めているのが、私が生理的な嫌悪を抱き始めている「彼ら」なのだから。


(……汚されている。私の筆が、私の聖域が、彼らのかねという絵具で塗りつぶされていく)


 私は、彼らの店を訪れるたびに、言いようのない不快感に襲われた。彼らは私の絵を見て、芸術的な空間美を語るのではない。それがいくらで売れ、どれほどの利益を生むかという、極めて世俗的で算盤(そろばん)勘定な視線で私の「設計図」をなぞる。私にとっての祈りにも似た建築画が、彼らの手にかかれば、ただの「商品」という記号に成り下がるのだ。


 私の世界において、色彩は正しく配置されなければならない。しかし、このウィーンという街では、その配置が絶望的に狂っている。才能あるドイツの青年が路地裏で凍え、その日暮らしの絵を売り、それを「異邦の民」が値踏みして利益を得る。この構図そのものが、一枚の絵として致命的に破綻しているのではないか。


「ハニッシュ、次は別の店へ行け。……あの店はもういい」


「何を言ってるんだ。あそこが一番色をつけてくれるんだぞ? 背に腹は代えられないだろう」


 ハニッシュの言葉は正しい。正しすぎて、私の耳を刺す。私は黙って、新しい絵葉書に定規を当てた。描き出すのは、壮麗な宮殿の回廊だ。そこには、塵一つ落ちていない完璧な秩序がある。だが、今、私の目の前にある現実は、湿った壁紙と、男たちの体臭と、そしてユダヤ人画商からもらった汚れた硬貨だけだ。


 私の内側で、かつては漠然としていた「嫌悪」が、明確な「敵意」へと結晶化し始めていた。それは、私の才能を認めない世界への怒りであると同時に、そんな世界に依存しなければ生きられない自分自身の無力さへの、猛烈な裏返しでもあった。


 私は、パレットにある「赤」をじっと見つめる。いつか、この屈辱をすべて塗りつぶすために、もっと強烈な、もっと根源的な「色」が必要になるだろう。

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