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暴力という名の彫刻

 言葉は魂を震わせるが、頭蓋骨を砕くことはできない。政敵の集会を解散させ、我々を妨害する野次馬を黙らせ、物理的に空間を制圧するためには、精神論だけでは不十分だ。私には、忠実で、強靭で、そして美しい「拳」が必要だった。


 一九二一年、秋。私の周りには、戦場から戻っても社会に馴染めず、酒と鬱屈した怒りを持て余している男たちが集まり始めていた。彼らは粗暴で、教養がなく、ビール瓶で人を殴ることを躊躇わない荒くれ者たちだ。党のインテリ幹部たちは、彼らを「恥ずべきゴロツキ」と呼び、眉をひそめた。だが、私の審美眼は違っていた。


(……素晴らしい素材だ。これほどの原石は、美術館にも転がっていない)


 私は彼らの濁った瞳の奥に、かつてフランドルの泥の中で見たものと同じ、純粋な「破壊への渇望」を見ていた。彼らは社会から弾き出されたのではない。平和という退屈な枠組みに収まりきらなかった、エネルギーの塊なのだ。彫刻家が粗削りな岩塊を見て興奮するように、私はこの無秩序な暴力の塊を、私のデザインで「秩序ある軍隊」へと彫り上げることに熱中した。


 私は、エルンスト・レーム大尉という男と手を組んだ。彼は現役の軍人でありながら、裏社会にも通じ、武器と兵隊を調達する能力に長けた「暴力のブローカー」だった。顔に深い銃創の傷跡を持つこの男は、私に言った。


「アドルフ、兵隊は用意できる。だが、どうするつもりだ? ただの用心棒か?」

「違う、エルンスト。用心棒などというケチなものではない」

 

 私は、テーブルに拳を置いた。「私は、彼らを『政治的な兵士』にする。国家というキャンバスの汚れを、物理的に削ぎ落とすための(のみ)にするのだ」


 私はまず、彼らに「名前」を与えた。最初は「体育スポーツ局」などという欺瞞的な名称でカモフラージュしていたが、もはや隠す必要はない。「突撃隊(SA:Sturmabteilung)」。嵐のように敵陣を突破し、すべてをなぎ倒す部隊。その響きだけで、敵が恐怖に震えるような名前が必要だった。


 次に、「制服(ユニフォーム)」だ。これが最も重要である。ただの暴漢が集まって暴れれば、それは犯罪だ。だが、全員が同じ服を着て、同じ帽子を被り、整然と列を組んで暴力を振るえば、それは「公的な制裁」に見える。人間は、制服を着た集団に対して、本能的な畏怖と服従を感じる生き物だからだ。


 資金不足の我々が手に入れたのは、かつてドイツ植民地軍がアフリカで使用するはずだった、倉庫に眠る在庫品のシャツだった。色は、褐色ブラウン。一部の者は「汚い土の色だ」と不満を漏らしたが、私は即座にその意味を書き換えた。「これぞドイツの大地の色だ! 農民の土、労働者の汗、そして我々の根源たる大地の色だ!」


 褐色のシャツ、赤い腕章、黒い鉤十字、そして革のベルトと長靴。私がデザインしたこの装束を纏った男たちは、もはや昨日のゴロツキではなかった。彼らは鏡の中に、社会の底辺で喘ぐ自分ではなく、歴史を動かす英雄としての自分を見たのだ。制服は、個人の人格を消し去り、集団としての「機能」だけを残す魔法のマントだ。彼らは自尊心を取り戻し、その代償として、私への絶対的な服従を捧げた。


 私は彼らに、徹底的な「演出としての暴力」を教え込んだ。喧嘩をするな、と私は言ったのではない。「美しく殴れ」と教えたのだ。


「いいか、諸君。我々の暴力は、単なる衝動ではない。それはプロパガンダだ。敵を殴るときは、隠れてやるな。衆人環視の中で、堂々と、圧倒的な力で粉砕しろ。大衆は、強い者が勝つ光景を見るのが好きなのだ」


 私は、突撃隊の行進を演出した。太鼓の音、規則正しい軍靴の響き、そして褐色の波。ミュンヘンの狭い路地を彼らが埋め尽くして歩くとき、そこには一種の「動的な建築物」が出現した。市民たちは、恐怖し、道を開ける。だが、その恐怖の裏側には、無秩序なワイマール共和国には存在しない「強力な規律」への憧れが含まれていた。


 ある夜、私はレーム大尉と共に、整列した突撃隊を閲兵した。数百人の男たちが、私の姿を見て、右手を高く掲げる。「ハイル・ヒトラー!」その声は、物理的な風圧となって私の肌を叩いた。


 私は震えた。これは、絵筆では描けない。これは、言葉では語れない。これこそが、私が求めていた「生きた彫刻」だ。


 私の命令一つで、この筋肉と骨の塊が動き出し、敵を排除し、空間を支配する。私は、彼らの熱狂的な瞳の中に、自分自身の意志が無限に増殖しているのを見た。


「総統、彼らは飢えています」

レームがニヤリと笑って囁いた。

「早く、彼らに獲物を与えてやってください。血を見なければ、この猛獣たちは飼い主を噛みかねない」


「心配するな、エルンスト」

私は、褐色の隊列を見渡しながら、静かに答えた。

「獲物なら、そこら中にいる。ユダヤ人、共産主義者、裏切り者の政治家たち……。この街はゴミだらけだ。掃除の時間は、すぐそこまで来ている」


 私は知っていた。この暴力装置が完成した今、もはや我慢する必要はない。次の集会――ホフブロイハウスでの演説会。そこには、我々を潰そうと企む社会民主党や共産党の連中が大挙して押し寄せてくるだろう。それは、ただの演説会ではない。この「彫刻」の切れ味を試す、最初の実験場となるはずだ。私はポケットの中で、固く拳を握りしめた。言葉の時代は終わった。これからは、鉄と血と、そして砕ける骨の音が、我々の音楽となるのだ。

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