『紅蓮、咲き誇る(前編)』
絶望の悪縁鬼が姿を現し、六人の蓮華姫たちは窮地に追い込まれた。
圧倒的な縁力を誇る“菩薩級”の念鬼を前に、希望は薄れる。
今回、戦場はさらに激化。
千手観音の決意、毘沙門の奮戦、そして――上空から迫る“紅蓮の光”。
運命を変える新たな炎が、ついに降臨する。
「りん! 大丈夫かしら!?」
「……怖いけど……皆んながいるから、大丈夫なのです!」
地蔵が歯を食いしばりながら通信を飛ばす。
「虚空蔵さん! 何かわかったのです!?」
「待って……感情の奥に“恋慕の糸”がある……。
この娘、鎌倉西高校二年生。名前は……ゆうすけ?」
「了解、照会開始――鎌倉西高校、該当者三名。
運動系……サッカー部の伊藤裕介が有力なのです!」
「鏡の存在確率、サッカー部室――20%なのです。」
「二割じゃ低すぎる!」
文殊が嘆く。
「こっちの戦況、長く持たないよ!」
「私が行く!」
声とともに、風が走った。
韋駄天だ。
次の瞬間には、もう姿が消えていた。
「……フットワーク早すぎなのです。」
地蔵が苦笑する。
千手観音は、なおも触手を受け止めながら声を張り上げた。
「毘沙門! 今から弾く! その隙に懐へ入って!」
「了解、突撃する!」
光腕がすべての触手をはじき、空間に一瞬の隙が生まれる。
毘沙門天が咆哮し、金色の槍を突き立てた。
「破ッ!!」
轟音とともに念鬼の体を貫く――が、黒煙が瞬時に再生する。
「なにぃ!? 効かん!」
次の瞬間、別の触手が生え、毘沙門天を弾き飛ばした。
「毘沙門、ダメージ大ですっ!」
地蔵の悲鳴。
「こちら韋駄天! サッカー部室に鏡は無し! 繰り返す、鏡無し!」
絶望の悪縁鬼が笑った。
「ふふ……どうした? 辛そうじゃないか?」
包丁の触手が蠢き、空間を切り裂くたびに、光が弾ける。
千手観音の腕が一本、また一本と消えていく。
「……くっ、持たない……!」
地蔵は祈りの印を結ぶ。
「縁結印、再生の加護を――!」
だが、回復の光は刃の雨に遮られた。
「どういう事なの?これ程の強さ、今までは……地蔵!」
「はい、念鬼の縁力を測定。縁カウンター作動!
これは!エンゲージ9万6千EN!菩薩級なのです!」
縁力――それは過去から未来へつながる、万物を創造するエネルギー。
鬼と神は、同じエネルギーを有している。
「そんな、この千手観音菩薩を上回るというの?」
「感じるかい? これが“絶望”だよ。」
悪縁鬼の声が冷たく響く。
「希望を持つほど、縁は深く、
そして――断たれたときの苦痛も深くなる。」
千手観音の額に汗が流れた。
分かっていた。このままでは、全員が――消える。
「……毘沙門、文殊、地蔵、虚空蔵、韋駄天……。
ごめん、私がもう少し強ければ……!」
光腕が砕け、念鬼が咆哮を上げる。
黒い波が押し寄せる。
⸻
つづく
→ 次回『紅蓮、咲き誇る(後編)』
ここまで読んでくださりありがとうございます!
絶望の悪縁鬼の強さ、そして“9万6千EN”という菩薩級の縁力。
六人の蓮華姫たちが束になっても苦戦する中、
空に現れた“紅蓮の蕾”は、まさに運命の救いでした。
次回『紅蓮、咲き誇る(後編)』では、
不動明王の蓮華姫――円城あかりがついに戦場へ降臨。
その炎が、絶望の夜を照らし出す――!
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※この作品はフィクションです。宗教・団体・人物等は実在しません。




