『不動明王の蓮華姫(後編)』
前回:不動明王の印を授かり、“炎の契約者”となったあかり。
その力が、彼女の魂と完全に結ばれる時――運命の扉が開く。
今回、慈孝和尚の導きによって、あかりは初めての戦場へ。
“縁斬りの刃”を手に、炎の蓮華がいま咲き誇る――。
「しかし、これで合点が行った。悪縁鬼の狙いは、おぬしだ。
不動明王を宿すほどの縁力を欲したのだろう。」
「私の縁力ですか?」
くりゅうが口を挟む。
「あいつら、人を無かったはずの最悪の未来に引きずり込んで、人の縁を奪うんだぜ。」
「左様、おぬしを直接狙うには、心に隙が必要なのだ。」
「あかり、悩み無さそうだからな。」
「ちょ、くりゅう!」
(他の人には見えないのかな?)
「姉の友の心の隙を狙われたのだ。」
「見るのだ、円城あかり。」
和尚が再び炎に印を切ると、燃え上がる火の中に――
一つの映像が浮かび上がった。
歪んだ空間。崩れた校舎。戦う光の影たち。
「優子の心を利用されてできた“精神世界”と呼ぶ、平行世界じゃ。
すでに他の蓮華姫たちが戦っておる。だが、形勢はよくない。」
あかりの目が鋭くなる。
「行って、仲間たちと協力し、悪縁鬼とその念鬼を斬り伏せてこい。
忘れるな――おぬしは一人ではない。」
「はい!」
慈孝は手を掲げ、声を放った。
「では、行け。不動明王の蓮華姫――!」
あかりは迷わず、炎の中へ飛び込んだ。
熱さはない。むしろ、懐かしい温もりを感じる。
髪がなびき、黒髪が桜色と紅蓮のグラデーションに染まっていく。
瞳が赤く燃え、衣服が光に包まれ――その姿が変わり始めた。
白い制服の布が溶け、紅蓮の光が形を織る。
軽やかなスカート。胸元と手足には薄い装甲。
その意匠はまさに不動明王の化身。
背には、火焔を象った翼のような光が揺らめいた。
炎が髪を撫で、心の奥の悲しみまでも燃やし尽くしていく。
足元に蓮が咲く。
その花弁が風に舞い、あかりの身体を包み込む。
「――行きます。不動明王。」
膝をつくあかりの姿を中心に、蓮の花が大輪となって閉じた。
焦げるような熱の中で、あかりはただ一つの想いを胸に抱いていた。
「ゆかり姉、待ってて――。」
炎の中で蕾が光り、そして――
爆ぜるように、流星のごとく、戦場へ飛び去っていった。
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次回予告
次回『絶望の悪縁』
六つの光の花が咲くとき、蓮華姫たちは運命の縁で繋がる――。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
あかりの変身――それは、ただの力の覚醒ではなく、
不動明王と一心同体になる“魂の同化”でもありました。
次回『絶望の悪縁(前編)』では、
ついに他の蓮華姫たちが登場し、六華の縁が交錯します。
物語は、いよいよ“チーム蓮華姫”の章へ。
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※この作品はフィクションです。宗教・団体・人物等は実在しません。




