第三話 『不動明王の蓮華姫(前編)』
前回:炎の中で、不動明王と魂の契約を交わしたあかり。
その代償は“縁を失う”――しかし、彼女は迷わなかった。
今回、炎の化身“倶利伽羅龍王”が姿を現し、
新たな相棒とともに、“蓮華姫”としての第一歩を踏み出す!
闇の中で出会ったのは、怒りの炎を宿す仏・不動明王。
あかりは“縁を失う”という代償を承知で、その力を受け入れる。
紅蓮の契約が結ばれるとき――彼女は“縁斬りの刃”を得て、運命の蓮華姫となる。
あかりは、手の甲の梵字をしげしげと見つめた。
「これが、不動明王の印……。」
すると、不動明王の光が、あかりの前に降り注いだ。
炎が静まり、その中に小さな影が舞い降りる。
「ふあぁ〜……久々に外の空気ぃ〜。
おい、あかり、オレだぜ!」
驚くあかりの前で、掌ほどの青い龍が尻尾をくゆらせていた。
「な、なにこれ!? ちっちゃいドラゴン!?」
不動明王の声が響く。
「そやつは――倶利伽羅龍王。我が化身なり。
汝の炎を導く“相”として連れて行け。」
「……我の化身……?」
「うむ。汝の怒りも悲しみも、こやつが燃やし、導くであろう。」
その小さな龍は胸を張った。
「ふっふーん、聞いたか?
オレ様は本物なんだぞ、あかり!」
「呼び捨て!? ていうか偉そうすぎない!?」
「おいおい、神様が丁寧語使ってたら威厳ねぇだろ!」
不動明王はわずかに笑んだ。
「……悪くない。炎に命が宿るとは、そういうことだ。」
あかりは呆れながらも微笑んだ。
「倶利伽羅龍王……。ん〜。じゃあ、くりゅうね!」
「くりゅうか、まっいいぜ!」
「よろしくねっ! くりゅう!」
「おう! 任せとけ、あかり!」
不動明王の声が雷鳴のように響く。
「――行け、あかり。
悪縁を斬り、光の縁を繋ぎ直せ!」
眩い閃光が炸裂し、世界が白に染まった。
──
「どうだ、円城あかり。神仏には会えたか?」
目を開けると、そこは再び本堂。
炎の光の中で、慈孝和尚が穏やかに微笑んでいた。
「はい……逢えました。」
胸に当てた左拳から、梵字の光が淡く脈動する。
その輝きを見た慈孝が息をのんだ。
「なんと……! これは、不動明王の印……!
まさか、ここまで強い仏縁を持っておったとは!」
和尚のあまりの驚きに、あかりは思わず引き気味になる。
「……不動明王との“結びつき”が深いな。
普通の者なら、光を浴びただけで魂が焼かれる。
だが、おぬしは炎を受け入れた。
……同化率、三割を超えておるやもしれぬ。」
「え、そんなにすごい事なんですか……?」
⸻
つづく
→ 次回『不動明王の蓮華姫(後編)』
読了ありがとうございます!
あかりの前に現れた小さな龍・くりゅう。
その存在は、彼女の戦いにおける“心の導き”でもあります。
次回『不動明王の蓮華姫(後編)』では、
慈孝和尚の導きのもと、あかりが初めて“戦場”へと降り立ちます。
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※この作品はフィクションです。宗教・団体・人物等は実在しません。




