第二話 『炎に映る影(前編)』
前回:虚空竜宮寺へ導かれたあかり。
炎の本堂で出会ったのは、白衣の僧――慈孝。
今回、彼女の“魂の宿命”が明かされます。
金色の光に包まれた大日如来像。
《大日如来
(密教における最高神仏。宇宙の真理そのもの。名は「偉大な太陽」の意味。
太陽の光のように全てを照らし、一切の生命の根源であるとされている。)
その前で、白衣の僧が静かに祈りを捧げていた。
「……!」
僧はゆっくりと手を止め、顔を上げる。
深い眼差しが、あかりをまっすぐに射抜いた。
「円城あかり。よく来たな。
わしは慈孝、虚空竜宮寺の住職である。」
「ど、どうして私の名前を……?
私、さっき大変なことがあって……お姉ちゃんが――」
慈孝は静かに微笑んだ。
「心配いらぬ。この寺は外界とは時間の流れが違う。
まだ、すべては終わっておらぬのだ。」
「……どういうことですか?」
「おぬしは“仏縁”の持ち主。
神仏より力を授かり、悪縁の鬼と戦う宿命を持っておる。」
「鬼と戦う!? いやいやいや、無理ですって!
中学2年の女子ですよ!? 剣道はやってますけど、
炭焼きの息子でも勇者でもないし!」
慈孝は苦笑した。
「中二なら、そういう展開は好きではないのかのう?」
「好きとできるは別問題ですって!」
「断るというなら――おぬしは“死ぬ”。」
「し、死ぬ!? ちょっと! 私を殺す気!?」
「慌てるでない、あかり。見せよう。」
慈孝が印を結ぶと、炎が高く燃え上がった。
そこに、赤い幻影が揺らめく。
――あの夜の部屋。
優子が姉・ゆかりを刺す光景。
そして逃げるあかりの背中に、包丁の刃が突き立つ。
返り血を浴びた優子は階段から転落し、刃で自らの首を貫いた。
「あ……あれ……私……死んでる……?」
慈孝の声が、炎の向こうから響く。
「これが悪縁が導く最悪の未来。
このままでは、おぬしら三人、皆死ぬ。」
「じゃあ……あなた達、私を助けてくれたの?」
「一時的にな。悪縁を断たねば、真の救いはない。」
「……私が、それをしなきゃいけないんですね。」
「うむ。おぬしの中に眠る“光”――それが縁を断つ刃となる。」
大好きなゆかり姉が、あんなに血を流していた。
優子さんは、おっとりして優しくて、絶対あんな事する人じゃない。
こんなの、ほっといていい訳がない。
あかりは唇を噛みしめた。
恐怖も、涙も、怒りもすべて飲み込んで、
小さく、しかしはっきりと頷く。
「わかりました。やります。
ゆかり姉と優子さん……私たちの未来を取り戻すために!」
慈孝は深く頷いた。
「よくぞ申した。――ならば、心を鎮めよ。
おぬしを守護する神仏に、会う時が来た。」
あかりは言われるまま、座して目を閉じた。
呼吸が静まり、周囲の音が遠ざかっていく。
炎の光がゆらぎ、世界が暗転する。
⸻
つづく
→ 次回『炎に映る影(後編)』
ここまで読んでくださりありがとうございます!
不動明王の啓示、そして“縁を失う”という代償。
次回『炎に映る影(後編)』で、あかりはその誓いを立てます。
「いいね」「チアー」「ブックマーク」で応援してもらえると励みになります!
※この作品はフィクションです。宗教・団体・人物等は実在しません。




