『鎌倉に咲く白蓮〈中編〉』
前回:蓮香は足利の悪縁を断つため、精神世界に降り立った。
白蓮の光が闇を裂くなか、“鏡”の存在を察知する。
今回、蓮香が辿るのは――乱世の魂たちの記憶。
祈りの連打、白蓮の封印、そして“鏡”に映る最悪の未来。
時を越えた慈悲が、静かに燃え始める。
―祈りは、乱世を渡る―
同時刻、鎌倉。
古寺の本堂で、僧侶たちが炎の前に座して経を唱える。
「……足利氏は、すでに幕府に刃を向けました。」
武将の声が震えていた。
老僧が目を開け、炎を見つめる。
「――すでに“蓮華姫”に命じております。」
「蓮華姫……?」
「神仏の力を顕現し、縁を司る者。
足利殿を覆う悪縁を断ち、乱世の鎖を鎮めるために。」
「そんな者が、本当にいると?」
老僧は微笑み、炎の中に咲く一輪の蓮を見た。
「ええ――あの方は、不生不滅の蓮華姫。
滅びを超え、慈悲の花として在り続ける存在です。」
ーー再び、精神世界。
蓮香は瞳を細め、掌を前に。
「祈閃華――祈りの数だけ、光は舞う。」
光を帯びた拳が静かに連打を放つ。
打撃のたび、音ではなく“祈り”が響く。
花弁が散り、念鬼の顔が歪み、薄れていく。
それでも怨念は、なお立ち上がる。
蓮香が低く呟いた。
「――蓮華封。」
白い花弁が宙に舞い、空気が凍る。
念鬼の動きが止まり、炎のような怒りが静かに消えていく。
「縁の流れを止めました。
あなたは、もう“怒る理由”すら思い出せない。」
しかし次の瞬間、念鬼は自ら砕け散り、再生する。
「……鏡、か。」
悪縁鬼が作り出す念鬼は、
どこかにある“未来の鏡”と繋がっている。
鏡を壊さねば、討伐は叶わない。
蓮香は、迫りくる黒影を見据え、祈るように息を吸った。
夜風が止み、白蓮の光が世界を包む。
夜空は裂け、炎のような記憶が渦を巻いていた。
「ならば、鏡ごと――救いましょう。」
大日如来の蓮華姫は、静かに息を整える。
白砂の庭を一瞥し、囁くように言った。
「……やはり、この庭園には在らずか。」
念鬼と距離を取りながら、気配を探る。
「屋敷の内部……念鬼の分体が多い。――そこか。」
バンッ。
障子が音を立てて弾け飛ぶ。
蓮香は迷いなく屋敷に踏み込んだ。
「やはり、ここね。――光蓮閃!」
掌から放たれた無数の光弾が、闇を切り裂く。
念鬼の分体達が悲鳴を上げ、煙となって消えた。
だが、その瞬間。
予想外の方向から――本体が現れる。
「っ……!」
黒い奔流が鏡へと突進する。
その鏡には“最悪の未来”が、赤い月のように映っていた。
「まずい、鏡に触れられると――未来が確定する!」
蓮香は瞬時に鏡の前へと躍り出る。
⸻
つづく
→ 次回『鎌倉に咲く白蓮〈後編〉』
白蓮の祈りが試される。――“恐怖”の名を持つ悪縁鬼、出現。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
“祈り”を武器とする蓮香の戦いが、本格化しました。
乱世の悪縁を断つため、彼女は未来さえも見据える。
しかし、現れた“鏡”は、新たな試練の前触れでした。
次回『鎌倉に咲く白蓮〈後編〉』では、
“恐怖”を名乗る悪縁鬼が出現し、
大日如来の最終奥義『色即是空』が発動――。
千年の祈りが、時を超えて現代へと繋がります。
「ブックマーク」「チアー」「感想」で応援してもらえると嬉しいです!
※この作品はフィクションです。実在の宗教・団体・人物等とは関係ありません。




