『鎌倉に咲く白蓮〈前編〉』
前回:あかりが“縁を失う”という代償を知り、物語は静かに幕を閉じた。
しかし、その祈りの炎は消えていなかった――。
今回、舞台は千年前の鎌倉へ。
大日如来の蓮華姫・蓮香が、“悪縁に囚われた武将”を救うため、
白蓮の光を灯す。
それは、蓮華姫たちの原点にして、永遠の祈り。
―千年前の祈り、今に咲く―
――祈りは、時を超える。
たとえ人がそれを忘れても、
縁の糸は絶えず続いている。
千年前の鎌倉。
一人の蓮華姫が、ただ一つの願いを胸に、
夜空の炎へと歩み出した。
鎌倉時代末期、足利氏の精神世界――
夜空が燃えていた。
けれど、それは現実の炎ではない。
ここは――ひとりの男の心の内。
足利の武将の魂が形づくった、閉ざされた精神の屋敷。
白砂が敷き詰められ、灯籠が並ぶ広い庭。
池には枯れた蓮が浮かび、風は冷たく、月は沈んでいた。
静寂の中、一輪の光が空から降りる。
白衣の裾が風に舞い、黒髪が夜気に溶ける。
大日如来の蓮華姫――彼女は祈りの化身だった。
背の輪光が淡く庭を照らす。
足元から白蓮が咲き、瞬く間に荒れた庭を覆っていく。
「……ここが、あなたの心ですか。」
その声は静かで、湖面のように澄んでいた。
「大日如来、蓮香。悪縁を正します。」
白砂の庭に影が蠢く。
地を這う黒煙が形を取り、数十の念鬼の分体となる。
怨嗟が空気を歪ませ、灯籠が音もなく崩れた。
蓮香は一歩も退かず、掌を合わせる。
「迷える魂よ。あなたたちの苦は、私が受け止めましょう。」
光が掌に集い、風が止む。
「光蓮閃――闇よ、散りなさい。」
指先から放たれた白光が花弁のように舞い、
分体を切り裂くたびに黒煙が弾けた。
庭の奥。
主殿の影から立ち上る黒い靄――武士の怨念そのもの。
鎧を纏い、血濡れの刀を握るその姿は、まさに“悪縁の具現”。
「足利殿……その心が、あなたを喰らおうとしています。」
蓮香は両手を胸の前に。
光が広がり、池が鏡のように静まり返る。
「縁は悪縁の鬼によって歪められました。
ならば今ここで、慈悲によって鎮めましょう。」
白い光が庭を満たし、枯れ蓮が一斉に花を開く。
香が満ち、闇がざわめいた。
だが、念鬼は吠える。
地を割るような咆哮。刀を振り上げ、夜が軋む。
蓮香は静かに、一歩前へ出た。
その一歩は、乱世そのものへの歩み。
「縁は滅せず。ゆえに、私がここにいる。」
⸻
つづく
→ 次回『鎌倉に咲く白蓮〈中編〉』
白蓮の光が闇を裂くとき、千年の“縁”が動き出す。
お読みいただきありがとうございます!
鎌倉編では、蓮華姫という存在の起源――“祈りの系譜”が描かれます。
蓮香の穏やかな強さ、慈悲の光が闇を裂く瞬間。
それが、現代のあかりたちへと受け継がれる“縁”の始まりです。
次回『鎌倉に咲く白蓮〈中編〉』では、
乱世の炎の中で蓮香が“鏡”の真実に辿り着き、
やがて“恐怖”の悪縁鬼が姿を現します。
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※この作品はフィクションです。実在の宗教・人物・団体とは関係ありません。




