『縁、失われしプリン(後編)』
前回:悪縁が断たれた世界で、穏やかな日常を取り戻したあかり。
しかし、彼女の前に訪れたのは――まさかの“プリンとの縁切れ”!?
今回、日常に潜む“縁”の可笑しさと尊さを描きます。
不動明王の炎も、甘いプリンには勝てない――!?
「ふふふ……万事解決!
さぁ、私は、めだか堂のジャンボプリンを――頂くのだッ!!」
「ジャンボプリンってなんだ?」
「ふふふ。くりゅうには、関係ないのだよ。」
勢いよく冷蔵庫を開ける。
バンッ。
……何もない。
「……あれ? お母さん? プリン、どこ?」
「プリン? 買ってないわよ?」
――ピシャーン!⚡️
あかりの背後で、雷鳴が落ちた幻聴が響いた。
「な、なるほど……今日“プリンを食べる縁”は、失われたのね……」
くりゅうは、笑っていた。
蓮華姫の戦いは、縁を失う。
「これか…。これの事か…。」
項垂れたまま、肩をプルプル震わせるあかり。
しかし、次の瞬間には顔を上げた。
「…覆水盆に返らず! だがあかり、聞け!
こぼれた水は――また汲めばいいッ!!」
「おお! あかり前向きだな!」
台所で、謎のポエムを放つ中二病モード全開のあかり。
母がため息をつく。
「何かしら? アニメのセリフ?」
「お母さん、ちょっとプリン買ってくるね!」
「こんな時間に? ……気をつけてね?」
ーーその夜。
めだか堂――閉店。完売御礼。
「そ、そっか……人気商品だもんね……」
目のハイライトが消える。
「残念だな、あかり。」
ーー翌日、放課後。
めだか堂前には、すでに長蛇の列。
「うぅ……人類みんなプリン好きなの!?」
そして――
「本日のジャンボプリン、ここで完売でーす!」
「ぎゃーーー!! あと三人だったのにィ!!」
「あはは! ついねぇな! あかり!」
ーー三日目。
もはや禁断症状。
「プリン食べたい……プリンの幻が見える……」
放課後ダッシュ。今日こそは。
「買えたーっ!! 勝ったぞ世界ぃぃぃ!!」
「おお! やったな、あかり!」
だがその瞬間、青信号を渡るあかりの前に――
信号無視のチャリ。
「きゃっ!」
手から飛んだ箱。
スローモーションで宙を舞うジャンボプリン。
ドシャッ。
地面に落ちたプリンは、転がって――
――ブチュ。
車に踏まれて、儚く消えた。
「……」
世界が灰色になった。
あかりと、くりゅうは目が点だ。
「ご、ごめんなさいね、お嬢ちゃん! 弁償するから!」
「お金じゃないんです……
あの縁は、お金じゃ買えないんです……」
あかりは、悟った。
「これは、私じゃ無理だ。お母さんに買ってもらおう。」
ーー翌日。
放課後、あかりはLINEを打った。
あかり:お母さん、プリン買ってくれた?_:(´ཀ`」 ∠):
母:冷蔵庫に入ってるよー d( ̄  ̄)
あかり:ありがとうー!!( ^∀^)
「やっと……やっと食べられる……! あたしのジャンボプリン……!」
「あるのか? あかり!」
玄関を開けると、祖母がいた。
「あっ! おばあちゃん来てたんだ!」
「ふふ、ちょっと寄っただけよ。はい、お小遣いね。」
「わーい、ありがとー!」
母と話す祖母が、帰り際に一言。
「恵理子さん、あのプリン美味しかったわ〜。」
時が止まった。
「…………なんですと?」
冷蔵庫を開ける。――空。
「お母さぁぁぁぁん……」
情けない声が廊下に響く。
母は苦笑しながら言った。
「他に出せるものが無かったのよ。
お小遣いもらったんでしょ?また買ってきなさい。」
「それが出来ないから苦労してるんだよぅ……!」
母はクスッと笑って、言った。
「あなた、ほんと――
めだか堂のジャンボプリンとは“縁がない”のね。」
あかりは項垂れたまま、冷蔵庫のドアを閉めた。
光る庫内灯が、ほんの少しだけ彼女の横顔を照らす。
「……これが、“縁を失う”ってこと、なのかな。」
その言葉に、自分でも少し笑ってしまう。
たかがプリン、されどプリン。
けれど――彼女の中では、何かが確かに変わっていた。
――“縁を失うこと”は、痛みではなく、静けさに似ている。
あかりは振り返り、仏壇の小さな大日如来像に目を向けた。
「……おじいちゃん。この仏さま、ずっとここにいたんだよね。」
灯明がかすかに揺れる。
まるで何かを伝えようとするように――。
あかりは気づかない。
その大日如来像の瞳の奥に、一瞬だけ金色の光が宿ったことを。
⸻
次回予告
次回『鎌倉、眠れる炎』
――時を超え、伝説の戦場が再び開く。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
戦いの余韻から一転、コメディタッチで描かれた“縁の寓話”。
たかがプリン、されどプリン。
日常の中にも、確かに“縁の試練”はあるのだと、あかりが教えてくれました。
ラストに灯る大日如来像の光は、次章への伏線。
――千年前の“祈り”が、再び現代へとつながります。
次回『鎌倉に咲く白蓮〈前編〉』では、
新たな蓮華姫“大日如来の蓮香”が登場。
祈りと慈悲の源流を描く“鎌倉編”が開幕します!
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※この作品はフィクションです。宗教・団体・人物等は実在しません。




