『炎王覇焔斬(後編)』
前回:不動明王の力を宿した円城あかりが、
紅蓮の炎で悪縁鬼を圧倒。だが“鏡”が壊れない限り、絶望は終わらない。
今回――真言が唱えられ、炎は青く染まる。
それは“怒り”ではなく、“慈悲”の炎。
不動の名を継ぐ少女が、ついに“神仏との同化”を果たす。
大剣を地に突き立て、両手で印を結ぶ。
口が静かに開き、真言を唱える。
「のうまく さんまんだ まかろしゃだ
そわたや うんたらた かんまん……」
言霊が響いた瞬間、背の炎が唸りを上げて燃え上がる。
風が止み、世界が熱の色に染まった。
唱えるたびに炎が濃くなり
――赤が、朱に、朱が蒼に変わる。
「なっ……炎の色が……青くなっていく……!」
文殊が息をのむ。
青い炎――それは神仏の怒りを象徴する、
“真火”。
高熱を超え、魂すら焼く浄火。
触手が襲いかかる。
しかし――届かない。
あかりの身体を中心に、青い炎の壁が立ち上がっていた。
刃が触れるたび、音もなく蒸発し、焦げた風だけが残る。
死角からの念鬼の攻撃も、くりゅうが払いのける。
あかりは微動だにしない。背中を守る、くりゅうを信頼していた。
「う、嘘みたいです……。念鬼の攻撃が、届かないのです……。」
地蔵が声を失う。
「同化率・仏心融合度30から40%へ上昇なのです!」
「正気か?心を神に持って行かれるぞ。」
あかりは目を閉じたまま、静かに呟いた。
「これが――不動明王の力。」
包丁触手が次々に焦げ落ちる。
念鬼が苦しみ、咆哮を上げる。
だが、あかりは一歩も動かない。
それはまさに“動かざる壁”、不動そのもの。
千手観音が小さく呟いた。
「……不動。これが、あなたの祈りなのね。」
あかりは炎の中で微笑んだ。
「大丈夫。もう誰も、傷つけさせない。」
念鬼が最後の力を振り絞り、空間を歪ませる。
あかりは、絶望の悪縁鬼を睨む。
「おまえが、優子さんを!」
「ふはは。あいつの恋心に隠れた絶望を、
炙り出してやったのさ。」
「くりゅう、私、わかったんだ。」
「何がだい?」
「私、今、全然怖くない。これって…」
「不動明王が、私に力をくれたら。」
「そうだなぁ。普通の女の子じゃ無理だよな。」
「これも縁なんだ。私、不動明王と出逢わなければ…」
「こんな風に戦えない。縁は、何も無いところから、
何かを生む、創造のエネルギーなんだ。」
「よくわかったじゃないか、あかり」
「だから、こんな風に、横取りするなんて。」
「絶対許さない!」
「ああ!やってやろうぜ!」
不動明王の蓮華姫、あかりの炎を見るや、
絶望の悪縁鬼は、苦々しく笑った。
「……フン、だが、これは分が悪いな。
また会おう、蓮華姫の諸君。
君達の希望が、熟す頃に。」
黒いもやが渦を巻き、姿を消す。
残されたのは、焦げた大地と、
蒼炎の蓮が咲き誇る戦場。
千手観音の瞳に、再び光が戻った。
「……希望、見えたわ。地蔵、虚空蔵、索敵再開!」
「了解!」
「了解!」
地蔵の小さな指が数珠端末を走り、
虚空蔵の瞳が輝く。
「心界潜行…、開始。」
⸻
次回予告
次回『鏡を撃ち抜く光』
“未来の鏡”をめぐる最終局面へ。
――運命の縁が、試される。
青炎――“真火”の顕現。
不動明王との心の融合が描かれた本章では、
あかりが“動かざる壁”として仲間を守る姿が印象的でした。
悪縁鬼は退いたものの、戦いは終わりません。
次回『鏡を撃ち抜く光(前編)』では、
いよいよ“未来の鏡”をめぐる最終局面。
文殊・韋駄天・地蔵たちの連携が試されます!
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※この作品はフィクションです。実在の宗教・人物・団体とは関係ありません。




