0. ある朝のミヌ
漁港の朝の喧騒が、僕は好きだ。
船の警笛、沖で働く漁師たち、波の音とカモメの群れ。全部が一緒になって、町じゅうが生き生きとしている。
昼を過ぎれば静かになってしまうから、活気の詰まったこの朝は、ごちそう時でもあるんだ。
桟橋を歩くと、白く染まった尾の先がぴんと立ち、小気味よく揺れる。光を拾う緑色の目には気品が漂い、黒の毛並みが風に揺れて、白い耳の内がちらりとのぞいた。
胸の奥がふわりと弾む。もうすぐ、あのおじいさんが来る時間だ。
遠くに桶を抱えた老人の姿を捉えた。その足取りを素早く追う。前脚を揃え、じっと見上げると….
銀にかがやく、おいしそうな小魚が差し出された。
ああ、これが楽しみだったんだ。
「ニャア」――お礼のひと鳴き。
おじいさんは「ん。」とだけこたえる。
ようし。魚を咥えて桟橋の特等席へと急ぐと、いよいよ僕のごはん時間。
うーん。口の中に広がる味の喜びが、体の隅々まで染み渡る。尾をゆらしながら、幸せを噛みしめた。
十分に満たされたお腹と満足感にまかせ、柱のそばに寝そべる。
風が気持ちいいな。今日は海もご機嫌だ。
その上の空もみずいろになって、遠くの方までずっとずっと広がっている。
あれ、あの雲、ふわふわ白くてまるくて、
僕の好きな…
わぁ、不思議、パンの香りがしてきたよ。
鼻をヒクヒクさせながらも目を閉じると
まぶたの裏がやさしくて、あたたかい。
会いたいみんなの顔も浮かんだ。
港の光と潮風に毛並みをなでられながら
しあわせを胸にしまいこみ
小さく丸くなった。




