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パンミナト  作者: tokage
4/5

苦みは




漁港の昼時は、シンとしている。


漁師もせりびとも、魚たちを運ぶおじさんおばさんも、遅い朝ご飯を食べ終わって

今頃はぐっすり夢の中。



このパンが苦くなるって

どんな時だろう


学校が休みの日、ママからもらったお昼ご飯のお金を持って、またあのパン屋に向かった。

港を見渡せる階段に腰を下ろし、レモンクリームパンをじっと見つめ考えている。



でも何も思い浮かばない。食べたいがまさって、大きくひと口齧った。甘くて、少し酸っぱいような、いい匂いがする。

でも苦くはない...。


「ふう。」


ため息をつく。顔をあげると、桟橋が目に入った。ミヌの面影を感じて

ミヌに会いたいと思った。


そのまま時を過ごしていると、誰かが桟橋に近づいてきた。不思議な雰囲気の、あの子だ。

いつか、あの桟橋でミヌと遊んでいるのを見かけたことがあった。


少年は桟橋の柱に寄りかかり、手に持っていたふくろを開けると、何かを食べ始めた。


「あれ。私と同じ、レモンクリームパンだ。」


思わず声を出した。幸い彼には聞こえていないよう。安心したけれど、恥ずかしくなり、顔を伏せた。  


なんで?

もしかして、あの時、同じパンを選んだ子?



ぐるぐると考えが巡る。


結局、彼が立ち上がって姿が見えなくなるまでやりすごした。

周りを見渡し、誰もいないことを確認するとようやく鼓動が緩んだ。


胸に抱えていたパンをうらめしく眺めたのち、

立て続けにひとくち、ふたくち、みくち。

レモンクリームパンで口の中をいっぱいにした。かじりつくたびに、細かなしっとり甘いクッキー生地が、口の端からお気に入りのチェックのスカートへ、ほろほろとこぼれた。

のどに張り付く甘いかたまりを、どうにか飲み込んで一息ついたとき、口の中に微かな違和感を覚えた。


いつもと同じで美味しい…でも、なぜかあと味が違う気がする。

「うーん。」

首を傾げて半分になったパンを見る。

何かわかりそうだけど、

なにも知りたくない気もした。

ポツン ポツン

いつの間にか薄曇りになった空から雨粒が落ちてきた。

冷たい。雨だ。

帰らなきゃ。

急いでパンをしまい、スカートに落ちたパンくずをはらうと、小走りで駆け出した。


このパン食べてる時のあの子、

うれしそうだったな。

もし、苦くなっても、わたしのパンだよ。雨に濡れる桟橋の木目を踏みしめながら、パンの袋をぎゅっと抱きかかえた。







─── ─── ─── ───




港に違う香りを運んできたあのパン屋は、

気づけばもう、なくなっていた。 


その噂を耳にした町の人たちは

さみしげな表情を浮かべ、

しかし、どこかやさしい微笑みを交わした。

 

そして、あの懐かしい香りと、

ほんの少しの不思議は

またどこかに届く。

潮風に乗って───。

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