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パンミナト  作者: tokage
2/5

魚屋のおばさん



漁港には昔からの魚屋さんがある

そこのおばさんは、大きな口でよく笑う。

たっぷりとしたからだにビニールのエプロンを巻き付けて、忙しく働いている。


朝どれの魚を並べ終え、店を開けるまでのほんのひととき。

身なりを整えて、

少し歩いた先のまだ新しいパン屋へ向かう。今朝はまた、店の奥までパンの匂いがよく香って、待ち遠しかったのだ。

魚臭くて嫌な顔をされないか不安に思い、ためらいながらも扉をそっと開けた。


ひと足踏み入れると、外のざわめきはすっと消え、体がふわりと軽くなった。やさしいひかりと空気を感じた。



「待っていましたよ。いらっしゃいませ」

おばあさんがにっこり微笑む。


棚には色とりどりのパンが並び、黄金色に輝いている。

「今日はどれにしようかな…」

胸が少し高鳴り、トングの先がパンに触れそうになるたびに、心がふわり




「すぐ選んで帰りますので。」



「そんな そんな


ゆっくりと、お好きなものを選んでくださいね。」


おばあさんは答える


はにかんだ顔をしながら

彼女は並べられたパンひとつひとつをじっと見つめる。


ひとつ頷くと

お盆にひとつ、またひとつとパンを載せはじめた。

焼きそばパンは長男の好物。

次男にはそう、ソーセージドーナツ。

チョコレートのパンは次女にで、と。

パパにはサンドイッチと、夜のおつまみ用のガーリックラスク。


よし。


あぁ、もういっぱいで、

わたしのが乗らない。


「あらあら、こちらにお盆を置いてください。包んでおきますからね」

おばあさんの申し出に

すみませんと会釈しながらも彼女は笑みをこぼした。

いそいそと

次のお盆を手に取る。


お目当てのデニッシュの前に立つと、大きく息を吸い込む。

甘酸っぱいラズベリーが濃厚なカスタードクリームとよく合い、バターの香りがちょうどよく、サクサクの生地がたまらない。


「……あら、声に出てた?」

ちらりとおばあさんを見ると、嬉しそうにうなずいてくれた。


恥ずかしさに頬が少し熱くなる。

でも、早くしなくちゃ。次はカレーパン。ごろごろとしたお肉が、優しい辛さのルーにたっぷり入って、贅沢な一品なの。

あ、パパにもひとつかな。


シナモンロールに、チーズのとろけるパンもお盆に加える。

ようやく満足を得たときには、二つ目のお盆もいっぱいになっていた。


最後のデニッシュを丁寧に包みながら、

「ラズベリーはやっぱり、あなたの色なのね。お似合いですよ」

おばあさんは優しくそう言った。


彼女は目を丸くした。そう、彼女はラズベリーピンクが大好きだ。年甲斐もないからと隠してきたのに。


「ありがとうございました。

帰り道、気をつけてくださいね」

おばあさんはそう送り出してくれた。


お店を出た彼女は、不思議な気持ちになっていた。いつもなら大きなパンの袋を2つ抱え、小走りで家路を急ぐところだが、今日は違っていた。


その夜、ガーリックラスクをおつまみにしてビールを飲む夫の横で、彼女はラズベリーデニッシュの袋をだいじそうに開けた。

ひとくち夫にも分けてあげると


「うん。これも美味しいな」

「でしょう? ねぇ、

わたし、明日美容院に行ってくるわね」


次の日の午後、

漁港近くの魚屋さんには、

ラズベリーピンク色に髪を染めたおばさんが、

輝く笑顔で働いていた。


「お母さん、すごい色だね」

子どもたちが笑う。


「ミヌが見たらびっくりしただろうなぁ」

夫がつぶやくと、彼女は一瞬手を止めて、ふふっと笑った。


「きっと、気に入ってくれてるわ」


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