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風の家紋(かぜのかもん)—僕が日本へ向かうまで—  作者: 和泉發仙


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第30話「桔梗の道標」

朝の空気は少しひんやりしていて、潮と土の匂いが混ざっていた。ノアは、ユウタに呼ばれて家の外に出た。

 「今日は…イサムさんの…ハウス、行く。」

 片言の英語でも、意味はすぐに分かった。胸の奥がざわめく。



古い家


 小道を抜け、木々の影を通り抜けると、そこに古い木造の家があった。壁は色褪せ、瓦屋根には苔が生えている。それでも、庭は綺麗に整えられていて、桔梗の花が静かに揺れていた。


 ユウタが鍵を開けると、軋む音とともに扉が開く。

 薄暗い室内には、古い柱時計、桐の箪笥、そして木の匂いが残っていた。

 ノアはゆっくりと足を踏み入れた。――曽祖父の息遣いが、まだここに残っているような気がした。



桔梗の風呂敷


 座敷の奥、古い棚の上に布が置かれていた。桔梗の模様――ノアがアメリカから持ってきた風呂敷と、まったく同じものだった。


 手が震える。指でその布をなぞった瞬間、胸の奥で何かがほどけるように熱くなった。

 「イサム…same…family…」

 ユウタがゆっくりとした英語で説明してくれる。その言葉が、じんわりと心に染みていく。



神社への道


 その日の午後、ユウタに案内されて古い神社へ向かった。小さな鳥居をくぐると、境内には古い木がそびえ立ち、風鈴の音が静かに響いていた。


 「イサムさん…young…man…here…pray…」

 ユウタがそう言いながら石段を指さした。ノアはゆっくりとその場所に近づき、目を閉じた。

 ――百年以上前、ここで何を願ったのだろう。


 潮の香りと木の匂いの中で、曽祖父の声が遠くで響いた気がした。



町の人たち


 夕方、町を歩いていると、近所の人たちが声をかけてきた。

 「アメリカの子か?」「イサムさんのひ孫やろ?」

 言葉は分からない。それでも、笑顔と拍手、肩を軽く叩く温かさで、歓迎されていることが分かった。


 子どもたちは「ノア!ノア!」と名前を呼びながら駆け寄り、カタコトの英語で「Hello!」と笑う。その素朴な明るさに、ノアも自然と笑顔になる。



ノートのページ


 その夜、客間でノートを開き、今日の出来事をまとめた。

•Step Twenty-Six: Found the house. Visited the shrine. Met the people.


 ページの隅には、小さな文字でこう書き添えた。


「ここに、答えが眠っている」


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