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【75】カエルム




――――10年後。


18歳になった私は遂に女王としてラシャから王冠を継承する。


ラシャは世界の管理者代行としての職名は相変わらず魔王だが、王配となり共に国を治めてくれる。


ジェームス、ジェシー、クレアやレキ、アズール、キハダたちに祝福されながら女王となった私は各階層にも顔を出し他の六神たちや共に戦ってくれたかつての仲間たち、新たに移住してくれた民に挨拶をして回った。


「みんな喜んでくれたね」

「ああ。むしろみんな待ち望んでいた。それに帝国では2人目の女王だ」


「うん。1人目はメリッサ姉さまが切り開いてくれたから」

各国からの反発も少なく、むしろ歓迎ムードだ。ジル兄さまとキアーラ姉さまは共に南部を盛り上げ、最近は採れる作物も増えブランド化も進めているようだ。


メリッサ姉さまのグラキエスは相変わらず帝国の序列上位。カエルムも頑張って3位まで上れたことは国を豊かにとみんなで頑張ったからだろう。


それからフィリップ兄さまの北部ニクスとは季節労働者の募集や地底種同士の交流もあって相変わらず仲良くしてもらっている。ラシャの故郷と言うのはあちらでも広く知られており、ラシャが最後のニクス王家の末裔と知ったのは最近だ。つまり出自も間違いなく王子。けれどフィリップ兄さまが正しく国を治めてくれているから自分は戻るつもりはないし魔王の責務を全うするらしい。


それからフィリップ兄さまやアレックス兄さまも何年か前に結婚し甥っ子姪っ子も生まれていてまた会いに行くのが楽しみかも。


ジル兄さまのところにも甥っ子がおり相変わらず妹に心配性を爆発させイェンナ姉さまに怒られるのだが。兄弟とは今も仲良く交流できている。


ダミアン兄さまはあまり親しくはなかったけどキアーラ姉さまを通して商談などもさせてもらったからなあ。


今後はカエルムの特産品の野菜や果物などの販路も相談したいところだ。


「アリーシャ」

最上層に戻ろうと思っていれば、シルワが呼んでいる。


「世界樹の階層に行こうか」

「うん!」

この大陸は世界樹でできている。本来の姿を取り戻してからはアズールとシルワの声はどこからでも届く。


早速世界樹の階層に向かえば。


「いらっしゃいなのれす」

「ろりこんそつぎょーなのれすー」

「おめでとなのれすー」

独特の口調で森の精たちが歓迎してくれる。


「だからロリコンじゃないって」

ラシャがそう反論すればきゃっきゃとキハダとアミナスのところへ駆けていく。相変わらずイタズラ好きなのは変わらないなあ。


「主、奥でお待ちです」

「……」

そして世界樹の作り出した道へシルワとアズールが導いてくれる。

一体誰が待っているのだろう?


ラシャと共にどきどきしながらも進めば、そこで待っていたのはダリアだった。


「ダリア……どうして」

「本来の魔王の伴侶の宿命」

「……へ?」


「それは世界の管理者代行と言う任を得る魔王のため、世界が用意したもうひとつの特典。アリーシャ、アリーシャは魔王と寿命を同じくし共に伴侶として歩むことができる」

「そんなこと……聞いたことがっ」

ラシャが息を飲む。


「前は伝える前に消滅してしまったから。けれど今回は……アリーシャが成人を向かえたタイミングで伝えることにした。アリーシャは選べる」

ラシャと寿命を同じくすることを……?ラシャが静かに私を見つめる。しかしその瞳は不安げな色を見せる。



「……私ね、ラシャ」

「……アリーシャ?」


「ずっと思ってた。ラシャの方が私よりもずっと長生きで、私が子孫を繋いで女王を代替わりしてもひとりで生きていくのかなって」

「……」


「それでもアズールや六神たちは側にいてくれる。けど、それでラシャは寂しくないのかなって」

ラシャをひとり世界の管理者代行として残していくこと。それがどうしても悲しかった。私はラシャに寂しい思いをさせてしまうのだって。


「だが俺と生きれば、長命種たちはともかく……」

ジェームスやジェシーたちを先に見送ることになる。ジル兄さまもメリッサ姉さまも……アレックス兄さまだって。


「大好きなひとたちとの別れはきっと、とても悲しいことだと思う。けど……私はラシャが一番大好きなんだよ」

「……っ」


「だから一番大好きなラシャをひとりにしたくない。だから……一緒に同じ時を生きよう、ラシャ」

ラシャの身体をふわりと抱き締めれば、ラシャが抱き締め返してくれた。


「ああ……アリーシャ……ありがとう」

まるでそれは1000年分の涙のように温かく、優しく降り注いだ。



――――その後、娘に女王位を引き継いだアリーシャは天空大陸のどこかでひっそりと魔王と共に世界を見守り続けたと言われている。



【完】

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