【72】北部ニクス
――――私たちが暮らすカエルム、メリッサ姉さまのグラキエスは帝国本土の西にある。
「ジル兄さまのソレイユとキアーラ姉さまのメリディエスは南部。東部はハーフェン。北部はニクス」
「そうそう、その調子」
ラシャが世界地図片手に教えてくれる。
外にもまだまだ知らない国があるが皇帝の弟妹たちが任された国は覚えてきた。
「クレアが言っていたがラ・モンタニアは廃国となり国の指導者たちは処刑や投獄となり領地は周辺国に分割されたそうだ」
その中にはハーフェンもあるのだろうな。
因みに帝国東北部はジェームスの一件で領地は帝国に返還されておりアレックス兄さまが相応しいものに与えると言っていた。
これでジェームスや砦のみんなも浮かばれるだろうか。
「それから……今度行くニクスの地図ももらってきた」
次なる訪問に向けて、フィリップ兄さまが送ってくれたのだ。因みにフィリップさまと呼んだら小さく『俺は兄さまじゃないのか』と仰ってたのでお言葉に甘えさせてもらった。
「ニクスの西半分が居住区、東半分が地底種の縄張りとされる」
「え……っ、半分も!?」
そんな規模とは思わなかった。
「まあでもこちらでも雪明かりの階層は我々の住み処ですし」
ニクスに一緒に向かうことになっているレキが来てくれた。
「地面の繋がるところは我々の住み処ですよ。それでも住み分けしているのですね。北部は太陽があまり昇らないとはいえ東に暮らしているとは」
この世界の太陽は地球の自転の仕組みとは違う。天空大陸では階層によって時差が起こる。
しかし朝陽は東、夕陽は西で間違いないのだ。
「陽の光が苦手なのにどうして?」
「そこに巣くう意味があったとしたらどうでしょうか」
「どう言うことだ?」
ラシャが首を傾げる。現地出身のラシャも、フィリップ兄さまも分からないのだ。
「例えば今回の訪問で解決するべき問題です」
「……人質交渉?」
「そうです」
あの後通信装置でフィリップ兄さまの国と詳しい話を聞くことができた。
「北部では貧しさゆえに身売りが横行している。その多くは奴隷商人と言う非合法の闇商人が手配しているが昨今の帝国北東部の件やラ・モンタニアが奴隷として仕入れるために故意に拐っていた」
「それを防ぐためにフィリップ兄さまは公道の整備にかこつけて潰したんだよね」
それに反発する闇商人や第2妃派もあったが整備で得る利益の方が多かったからそれに反対し続ければさすがに周辺国だって可笑しいと気付くから。
「そうしたら闇商人たちはあろうことか立ち入り禁止の地底種の縄張りを輸送路にした」
「そうしたら運ばれていたひとたちだけが消えて闇商人だけが心神喪失で捕らえられたんだっけ。けど心神喪失って……」
「うーん……我々催眠もできますが少なくとも私たちは……幼女に手を出したら間違いなく最強の捕食者による恐怖を植え付けます」
レキの目が本気である。幼女だけどぶるっと来たんだけど。
「お前の幼女趣味はともかく彼らを怒らせたってことだな」
「そうでしょうね。そしてニクス側が運ばれていた民を返してほしいと言っても地底種は応じなかったと」
「交渉の場にすら出てこない」
「出不精ですからね」
出不精すぎない?
「やむ無く禁止区域にはいるかいなかを考えあぐねていたが、当時はラ・モンタニアの問題もありなかなか手が出せなかった。万が一地底種と徹底抗戦などとなれば勝ち目はない」
「催眠でまず無力化しますからねっ」
ほんと最強である。レキたちが味方で良かった。




