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【71】皇帝の弟妹たち 後



――――皇城の食堂


ここは皇族が普段の食事を取る場である。とは言え私は自分の部屋で取っていたし主に皇后の子女たちが集まる場だった。

食堂には既にダミアンとロンが待っていた。


「ここは父上母上とアレックス兄上とメリッサ姉上との場所だったのに、何でそいつらが来るんだ!」

ロンが癇癪を起こしていた。年齢は14歳くらいだったかな。地球では中学生くらいだがそうとは思えぬほど子どもっぽいな。私の方が年下なのにそう思う。


「控えなさい、ロン。皇帝は私であり、弟妹たちを招待したのは私だ」

アレックス兄さまが凛として告げる。


「そんな……そいつらは卑しい側妃たちの子どもではないですか!」

卑しいって……皇帝の妃になるのならば高貴な身分であっただろうに。

それに今は全員王や王妃の立場である。私は次期だけども。


「皇太后にそう言われたか」

アレックス兄さまが皇位を継いだから、皇后は皇太后となったのだ。


「そうです!兄上!母上に言い付けましょう!そうしたらアイツらもっ!」

ロンは母親を通せば何でも思い通りになると思っているのだろうか。……なって来たんだろうな、今までは。


「母上には隠居していただいた」

「は……?」

「もう今後一切帝国の政治に口出しはさせない」

「そんな……どうして」

ロンが震えだす。自分の最強の後ろだてを失って放心状態だ。


「帝国のためにならぬからだ。確かニクスへの支援を一番反対したのは母上の派閥だ」

フィリップとも禍根がある。


「私も皇女だから大人しく妃の椅子に座れと言われたな」

メリッサ姉さままで!?


「その他、現天空大陸にも更なる流刑地としての改革案を出してきた」

そんな……ひどい!もしかしてロンが罪人を連れて押し掛けてきたのはその影響!?


「父上が命懸けで繋いだ世界を、私が何代もに渡って果たそうとする悲願をも私利私欲で手を出してきた」

「何代もって……何の話を……」

ロンはその話を教えてすらもらえなかったんだね。


「だから隠居していただいた。……それからロン、お前はここに招待していない」

え……?


「でもぼくは兄上の弟で……」

「国に帰るようにと伝えたはずだ」

「ぼくの国はここです!」

「いいや……父上から与えられたろう?国籍を」

国籍……?ロンには国が与えられなかったの?


「私はね、実の弟で母上が甘やかしたせいでそうなったことに慈悲を与えたつもりだよ。今回も息子として父上に挨拶をさせたつもりだ。けれど君は変わらなかった。……残念だ」

「い……意味が分からないです、兄上!」


「お前は修道院に入りなさい。お前は皇族には相応しくない。皇族の籍から抜けさせよう」

ビビアンやイレーヌのような決定的なものはなかったけれどロンもまたその責務を果たすことをしなかった。


「母親の影響だとしてもそれで許されないのが皇族だ。育てられた血税の重みはそれでは許されない」

ロンが連れ出される瞬間私を睨む。


「きっとアイツのっ」


「ほう……?お前も一番年下のアリーシャのせいにしていい気になろうと言うことか」

ラシャが魔力を身体に宿す。

「言っとくがアリーシャはおめぇなんかよりも何百倍も強ぇぞ」

ジェームスの迫力もすごい。子どもが一発で泣きそうなレベル。


「その通り。年下の女の子だからとナメるのも大概にしろ」

「そうよ!女をナメんじゃないわよ!」

メリッサ姉さま、キアーラ姉さま!


「アリーシャは俺の妹だ!手を出すのなら許さない」

ジル兄さまも!うん……そうだよ。


「私、あなたに下に見られる筋合いなんてないよ!私はみんなと暗闇大陸を切り開いて天空大陸に戻したんだもん!これからも天空大陸カエルムを立派な国にして見せる!立派な女王になるんだから!」


「な……生意気だ!あ、アリーシャのくせにっ」

「うるせえよ」

ら……ラシャ!?


「俺のアリーシャの名前を勝手に呼ぶな。魔王の妻をナメるなら魔王が容赦しねえぞ」

まさに魔王の凄みである。


「ひぃっい……ゆ、ゆるじでぇ……」

ロンは完全に涙目であった。しかし許されるはずもなく食堂を追い出されていく。


「さぁて、これでよし」

「ラシャ……ありがとう!みんなも!」


「もちろんだ」

「当然よ」

みんなも頷いてくれる……が。


「アリーシャはまだ子どもだからお前のじゃない」

「いい加減諦めろシスコン!」

再び再燃した魔王と勇者の争いにアレックス兄さまがクスクスと苦笑する。


「さてと、夕食にしよう」

アレックス兄さまが告げれば、華美ではないものの美味しい夕飯が振る舞われた。


「それで、メロンのことだけど」

「もうちょっと関税安くしない?」

「育てる手間と輸送費!」

キアーラ姉さまとダミアンの貿易の話も盛り上がっており、ジル兄さまたち南部勢も南部の資源についての話を提案している。


アレックス兄さまはメリッサ姉さまと今後の帝国運営のこと。私は……フィリップと目が合う。ええと……何を話せばと思っていればラシャが口を開く。


「実は天空大陸は自然資源はたくさんあるが人手が足りない」

「……北部の労働力を借りたいと」

フィリップが答える。


「その通り。特にそちらの冬もこちらはあまり関係なくてな。階層によって季節が違うからな」

そう言えば……雪明かりの地はいつも冬や寒冷地なのだっけ。


「そちらは属国の中で一番早く冬が来る。隣国グラキエスを頼るにしてもグラキエスだけではニクスは支援できない。グラキエスを頼る国は多いからな。しかしそちらの冬に労働力を貸してくれればその分礼にカエルムが支援できる理由になると思わないか」

「……よく知っているな」

「俺の生まれ故郷だからな」

「……え、ラシャの!?そう言えばニクスには魔族がいるって……」


「正確には違うものが多い」

フィリップが私を見る。彼は少なくとも私を幼女だからと下に見ることはなく対等に話そうとしてくれてる。


「たいていは魔族、人間、獣人の混ざりもので角を持つ獣人が多い。人間の血が濃いと魔王のようになるものもいる」

「そうだなあ。でも俺は転生体だったから魔族100%で両親には似ていないよ」

初めて知るラシャの出生。思えば外で魔族がいなければ、ラシャが外で生まれることはない。つまり魔族の血を受け継ぐニクスの民の間に生まれた。歴代の皇帝はラシャを暗闇大陸に返さず閉じ込めてしまった。さらには聖女も揃わず帰れなかったんだもんね。


「魔王がニクスの……初耳だが。しかしそれなら説明が通る。その角や耳はよく見かける」

ダークエルフ源流の耳か。獣人よりではない魔族の末裔はやはりラシャに似ているのかも。


「後は……地底種だな」

「え、北部にも地底種がいるの!?」

「アイツら日光の少ない場所を好むから」

普段地底に暮らすし苦手なんだっけ。一般的には魔族とされる彼らだが正確には魔族の祖先である。


「へぇ、どんな風に暮らしてるのかな。レキたちと同じかな?」

「さてどうかな?北部のことをアイツらが知っていても700年前だ」

「あ……確かに」


「……やはり、魔族は地底種とはいい関係を築いているのか」

フィリップはどこか意外そうである。


「魔族だけじゃなくて、人間や獣人とも……ダークエルフとも仲良いよ」

クレアとレキも互いに認め合っているような気がする。


「……何故」

ろ……ロリコン思想から来ただなんて言えない。


「一度、ニクスを訪問してもいいか」

「ニクスを?」


「久々の故郷だしなあ。アリーシャも来るか?」

「もちろん!ラシャの故郷、私も見たいよ!」


「……ニクスに進んで来たがるとは。……しかしニクスは……」

どうしたのだろう?


「地底種との人質交渉が難航化している……」

人質ってどう言うこと?


「ラシャ」

「……うーん……レキやキアヴェを連れていけば少なくとも何か分かるかもしれない」


「……協力してくれるのか」


「まあな。久々の故国だし」

「困ってるならお互いさまだよ!」


「……感謝しよう」

フィリップとはあまり話したことがなかったけれど、しかしながら姉さまたちとのようにこうして協力関係を築けたことは何よりもの進歩である。


――――翌朝、帝都を後にした皇帝の弟妹たち。私もラシャとジェームスとカエルムに帰国したものの、次の目的地ニクスに向けて動き出すことになった。


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