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【70】皇帝の弟妹たち 前



――――夕食の時間はアレックス兄さまから食堂に集まるようにと呼ばれた。


お父さまは病床だから同席はできないがお父さまのためにも帝国のこれからを話したいと言われれば行かないわけにも行くまい。


姉さまやラシャたちも共に食堂に向かっていた時のことである。


「ちょっと……何でこの私が晩餐会に参加できないの!?」

そう騒いでいるのはビビアンだ。それを止めているのは近衛騎士たちだ。


「晩餐会……なの?」

「いや、そんな大層なものでもないと思うけど」

とジル兄さま。イェンナさんやキアーラ姉さまの旦那さん、ラシャは皇女皇子の伴侶として参加はするが……。


「晩餐会なら普段の食事を取る食堂ではしないのでは?むしろ専用の場所を準備するだろう」

そうだよね。私は参加したことはないけど。


「むしろお父さまが病床で戴冠も簡略してお父さまの部屋でになったのに、晩餐会はないわよ」

キアーラ姉さまがビビアンの装いを見ながら告げる。


「まるで宮中晩餐会でも行くような豪華さだ。しかしさすがにそのような不謹慎な装いを貫いたことで出入り禁止になったのだろう」

メリッサ姉さまが言う。


「アレックス陛下より城を退出し国に帰るようにと」

近衛騎士が言うがビビアンは聞く耳を持たない。


「いやよあんな貧乏な国!もう私のドレスや宝石を買うお金もないとかあり得ない!やっと帝都に戻ってきたのに!私は帝都でドレスや宝石をたくさん買って美味しいものを食べて、帝国の皇女さまとして過ごすんだから!」

彼女は皇女を何だと思っているのか。そして私たちはもう皇女ではなく皇帝の妹。皇女として暮らせるとしたらアレックス兄さまの子どもたちだ。


「いい加減にしなさいよ!」

キアーラ姉さまの言葉にビビアンはキッとこちらを睨む。


「その貧乏な国っての、アンタの母親の生国じゃない」

ビビアンは母親の国を引き継いだのか。


「確か……属国の序列もたいしたことがない小国の王女なのに皇帝のお手付きを名乗って無理矢理帝国城に転がり込んだのよね」

「そうだな……父上は半信半疑ではあったが小国の財政危機もあり王女が皇帝に嫁ぐことで支援をして一時的に危機を繋いだはずだな。そもそもの財政危機は王女のせいだったと言うが」

つまりその浪費癖は遺伝だったのだ。そして自国の王女かしでかしたことの責任を取るべく王女の娘を引き取った。


「うるさいうるさい!私は女王さまになって贅沢をするつもりだったのに、私は国を継げないってなんで!?皇女でも国を継げるんでしょ!?」

「継げるかどうかは宗主国の帝国皇帝の許可が必要だ。属国の国王も元よりそうだろう?私もアリーシャも父上とアレックス陛下の許可を得てその地位に就く」

メリッサ姉さまは私のために先に女王陛下になったわけだが。


「な……なんでよぉっ!なんでそんな薄汚いアリーシャが女王になれるのに私はなれないのよ!」


「アリーシャのどこが薄汚いんだ!」

ジル兄さまが声をあらげる。


「その通りだ。アリーシャはこんなにかわいいのにな」

ラシャったらこんな時に惚気ちゃダメっ。ジル兄さまがラシャをキッと睨んだのが分かった。


「私の方がかわいいわよ!そしてもっとおしゃれして、贅沢をすべきだわ!だって私は皇女なんだから!」


「ふぅん、では自分で稼ぐといいよ」

その時しれっと現れたのはアレックス兄さまとフィリップ皇子……いやもう皇弟殿下なんだよね。


「は……?」

ビビアンがぽかんとしている。


「君の小国の負債は限界を超えた。帝国は君が皇女として浪費してきた全てを君の身体で返すことで債務の軽減を申し出たら是非にと回答があった」

「は……?身体でって……私はまだ12歳で子どもで……」


「そんな言い訳が皇族に通るはずがない。皇族は国民の血税で生かされている。つまり生まれた時からずっとその血税の責務を果たす義務がある。だからこそ、君は自分自身で返さねばなるまい」


「し……知らないわよ!そうだ……お母さまが言ってたのよ!私は先代皇帝の子じゃないんだって!なら、責務を果たす義務なんてないじゃない!」

やっぱり嘘をついて皇帝の妃に潜り込み、娘にもそれを話したのか。


「分かった」

アレックス兄さまの言葉にビビアンがホッと安堵する。


「君がそれを知って皇族を謀ったのならもう容赦はいらない」

アレックス兄さまが命じると近衛騎士たちがビビアンを容赦なく絞めあげる。


「い……痛い痛いいっ!私は皇族じゃないんだからお金なんて返さなくていいのよ!」

そんなわけあるか。もっと重い罪でしょうに。


「陛下はそれでも君が母親に利用され哀れだと養女にしたのだがね」

そう言えばビビアンの母親って妃にいない……?側妃はキアーラ姉さまの母・第4妃までである。つまりビビアンの母親はその責任を取らされた。お父さまはビビアンが皇帝を謀った罪深い娘とならぬよう秘密裏にそうしたのだ。


「それを知って、さらに責任を取らない、皇族ではないと言うのなら平民用の監獄で過ごすことになる。ま、成人までは修道院に預けるがその後は一般向けの監獄行きだ。平民が一生懸けても返せる額ではないから今後自由はないと思いなさい」

アレックス兄さまの言葉は重たいものだ。


彼女が養女であることを知っていたとして少しでも皇女としての責任を果たし真面目に過ごしていればこんなことにはならなかったのに。


ビビアンは泣き叫びながらも罪を許されることはなかった。

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