【7】闇の魔物
――――突如飛び込んできた人影を追い掛けるように迫る影。
「魔物!?」
「そうらしいが、何だあれは!見たことがねえ!」
ジェームスが私を庇いながら叫ぶ。あれは魔物のデフォルトではない……?だとしたら、一体。
「想像通りのことが起きてる。多分俺がいるから警戒してるんだ」
その通り、飛び込んできた魔物はラシャをじっと見たまま動かない。この大陸で暮らしてきたのは魔族。魔族はあんな恐ろしい魔物がいる地で暮らしてきた。しかし魔物が魔族を恐れるのなら魔族が絶滅寸前になったのは彼らが原因ではない。
「魔法が効くのか」
「分からない。嫌な予感がする」
ラシャは魔物に向けて魔法を放つ。しかし効いた様子はない。何かに吸い取られるように消えて行くのだ。
「闇属性だな。本来闇属性の魔物は救いはずなんだが」
「はぁ!?そりゃそうだ。そんなのがいたら……っ」
闇属性に効果的なのは光だ。光属性なんて……帝国建国史に残る聖女とか……?
「ならどうする!お前の魔法が効かないとなると向かってくるぞ!」
その通り、魔物はラシャの魔法ではダメージを受けないと感じたのかこちらにじりじりと歩を詰めてくる。
「全ての魔物に効果的な攻撃がある」
「それは……?」
「魔物の中には核がある。いわゆる魔石の核、魔核。それを破壊すればいい」
「だが場所なんてスライムくらいじゃねぇと分かんねぇぞ」
スライムは半透明だから……!けどあの魔物は。
「平気。あれよりも強い闇属性なら探れる。魔族には闇属性が多い」
だからあの魔物はラシャを未だ警戒しているのだ。
「探知」
ラシャが唱えると何もない空間に青白い魔方陣が展開される。
「ジェームス、魔核の場所を共有する」
そう言うとラシャの瞳が怪しく光り、ジェームスの左目に何かが入ったのが分かる。
「おい、こう言うのは事前に……」
「来るぞ」
魔物が狙いを定めたのは私たちの方だ……!ジェームスの左目が……銀色になってる!?
「あそこか!」
しかしジェームスもまた魔物を恐れることなく立ち向かう。
「アリーシャ、もう目を瞑っていていい」
とラシャ。子どもの見るものではないと思われたのか。
「いいえ、見ます。私は皇女だから。この暗闇大陸を任されたんだから!」
「アリーシャ……」
「くらえっ!この……っ!」
ジェームスが魔物の魔核を貫き、魔物が絶叫する。それと同時に魔物から不気味な影が抜け、ただの獣のようにパタリと崩れた。
「魔物は魔核がなければただの獣。逆を言えば獣が魔核をもって魔物になる。ジェームス、解体はできる?」
「それくらいならな。……その、食うのか」
ラシャの言葉に振り返ったジェームスの目は元に戻っている。
「毒探知に反応はない。肉は貴重だ。海から魚が採れるとは限らない」
「分かった」
ジェームスは獣の肉を捌いていく。
「アリーシャはああ言うのは苦手かい?」
前世の感覚で言えば……分からなくもないけれど。
「現地のものを食べるのは大事!私も食べる!」
確か前世の旅番組でも言ってた気がする。
「アリーシャは肝が据わってるね」
うん!私は皇女でここで国を興すんだからしっかりしないとね!
「それと……彼女も」
ラシャが見たのは先ほど飛び込んできた人影……見れば女性で淡い茶のショートヘアにグリーンの瞳。肌は褐色。犬耳に尻尾が生えている。彼女は獣人族であろう。
「ここにはポーションなんて大層なものはないからね」
ラシャは彼女の傷を確かめる。
「致命傷のようなものはないね。恐らくは疲労や栄養不足だろう。少し寝かせてやろう」
「うん!」
ラシャと草を集めて、ラシャが彼女をその上に寝かせる。
「彼女が起きたら教えて、ぐぅちゃん」
そうぐぅちゃんに声をかければこくんと頷いてくれる。
「ところでラシャ、火はどうする」
「俺の魔法を使おうか。光以外なら任せてくれ」
そう言うとラシャの掌の上にポウッと火が灯る。
「ならいいか。そこら辺にある石やら木の葉で囲炉裏を作るぞ」
「うん!」
私も木の葉や枝を集め、ジェームスが石で囲ってくれた囲炉裏の中に撒いていく。前世では何となくイメージがあるものの、火を付けるのはなにげに大変だと聞いたことがある。ラシャの炎魔法で簡単に火を灯せるのはありがたい。
そしてジェームスが肉を焼いてくれる。美味しそうな肉の匂いが漂い始めた時、『うぅ……』っと呻き声がした。彼女が意識を取り戻したようだ。しかし目を覚ました彼女が悲鳴を上げた。
「うわぁっ!ゴーレム!?でも……ちっちゃい……?」
「ぐぅちゃんだよ!ぐぅちゃんはおとなしくていいこだから恐くないよ!」
「子ども……?」
彼女は私を見てさらに驚ききょとんとしていた。