【69】姉妹の絆
――――本日は皇城で宿泊してから明日それぞれの国に帰ることになっている。
フィリップ皇子たちは私たちが部屋に案内された後も残ったから陛下とお話できただろうか?しかし……うーん。
「どうした、アリーシャ。何か懸念でも?」
「その、何でもないんだよ。ラシャ」
「そう言う顔じゃないぞ、アリーシャ」
ラシャの顔が近い。
「そういやさっき生意気な皇女がいたな」
「その……それは」
「心配するな、魔王」
メリッサ姉さま?
「さすがのアレックスも病床の陛下の前であんな格好をした来たビビアンをそのまま城には置いておくまい。それに私たちもいるのだからな」
当時とは何もかも変わっている。もう孤独で無力な皇女じゃないのだ。
「うん、だから大丈夫だよ!」
もう恐くなんてないもん!
「でもよ、アリーシャ。そいつひとりじゃないだろ」
「……ジェームス」
「誰がそんなことを……?フィリップ皇子のはずはないよな」
とジル兄さま。
「ダミアン兄さまなら私がぶっ叩くけど!ついでにメロンの関税をぼったくる!」
そう言えばキアーラ姉さまとは同母か……!関税をぼったくる件については旦那さんに即座に却下されていたが。
「だとしたら残りはひとり」
メリッサ姉さまがはぁ……と頭を抱える。
「……第5皇子のロン」
メリッサ姉さまにとっては実の弟だ。
「ジェームス、お前は相変わらずどこでそんな情報を仕入れてくるのやら」
「さあ」
メリッサ姉さまの迫力に動じないジェームスも相変わらずだが、その正体を考えれば情報交換も可能なのでは。
「しかし助かった、ジェームス。それにアリーシャ」
「は、はい!メリッサ姉さま」
「心配するな、私はアリーシャの味方だ」
「けど……」
フィリップ皇子とイレーヌは完全にすれ違っていたが、2人の方は……?
「今まで言ってこなかったが、天空大陸が開かれた後ロンは私に会いに来た」
「メリッサ姉さまに……」
同母の皇子女なら不思議なことでもない。フィリップ皇子はイレーヌを歓迎することはないだろうが。
「それも自国で捕らえたと言う罪人を連れ、元暗闇大陸に流刑に回す便宜をと顔を輝かせてな」
「……っ。何のために」
元々は流刑地として利用されたがこれからはそんなことはさせない。募集するとしても正式な移民たちだ。
グラキエスからカエルムに移住する人間側のエルフとの混血のものたちや、アテナたちと離ればなれになっていたエルフたち。砦からも移住者は来るし、アテナやアーベンたちの面接の上許可を出してもらっているところだ。なのに……ロンはまだカエルムを流刑地扱いする。
「元暗闇大陸に罪人を差し出すことで父上から褒賞を得たかったそうだ」
それは暗闇大陸では意味を成すことではあったが、それを止めたかったアレックス兄さまに賛同したお父さまが褒賞なんて出すわけがない。それも天空大陸に戻ったカエルムに罪人を押し付けるだなんて。
「もちろんそんなバカな便宜をはからないと追い返したが……あれは母上に甘やかされすぎた。アレックスがどういうつもりであるかは分からないが……私も姉として果たすべき責務を果たす。だから安心してるといい」
「……姉さま。うん、ありがとう!」
「そうよ。同母の皇女と皇子は確かに結び付きが強いけど、それ以上の姉妹の絆もあるんだから」
「キアーラ姉さま!」
「た……確かにそうだが、俺とアリーシャは強い絆で結ばれてるからな」
だがその時ジル兄さまが私を抱き寄せてくる。
「いやお前は妹離れしろシスコン」
瞬時にラシャが私を兄さまの腕から奪い取り抱き寄せる。
「確かにアンタ……シスコンよね」
キアーラ姉さまが物言いたげにジル兄さまを見る。
「まあそこも可愛らしいんだけど」
イェンナさんまで!!?
「いや……そのっ、妹を大事に思ったっていいだろう」
「嫁にまで飽きられてるんだ、諦めろシスコン」
「ま……魔王っ」
ど……どうしよう……。異世界でもテンプレな好敵手魔王と勇者が嫁と妹を巡ってバチバチし始めたんだけど~~っ。
「お前ら喧嘩すんなよ。喧嘩すんなら姉さんたちの間に座らせるが?」
ジェームスのひと言に、それは回避したい2人は……大人しくなった。




