【66】父娘になった日
――――帝都
今日は久々の帝都である。もう戻ることはないと思っていたのに。
「帝都を旅立ったメンバーで来るとはなー」
ラシャが苦笑する。
「でも俺で良かったのか?ジェシーやクレアの方が……」
今回はジェームスが一緒。ジェシーやクレアも誰が付いていくかで迷っていたのだが。
「ジェームス、ここは帝都。舞台は帝国城。今回は他の皇女や皇子も集まるんだ」
うん。そうなのだ。正確にはアレックス兄さまが集めたのだが。
「俺たちのアリーシャにナメてかかるやつを容赦なく牽制する。適任はジェームスかレキのどちらかだろう」
「なるほど……それなら納得した」
頷くジェームス。
しかしレキが候補に上がったのは最強の捕食者とロリコン狂、どちらでだろう。
……どっちもかもしれない。
帝国城にはメリッサ姉さまも一緒に来てくれた。しばらくするとキアーラ姉さまとジル兄さまも合流する。ジル兄さまの隣にはイェンナさん、キアーラ姉さまの隣にいる獣人の青年は夫だそうで初めてお会いする。
簡単に自己紹介を終えれば、メリッサ姉さまがアレックス兄さまのいる場所へと移動すると招いてくれる。
本日私たちはアレックス兄さまに招かれた。そこは大きなベッドのある寝室であった。
「やあ、来たようだ」
ベッドの脇にはアレックス兄さまや高官たちが控えている。
ベッドに近付けば一人の男性が横になっている。あの時から見ればずいぶんとやつれたが……この方はあの時見た陛下だ。
「陛下、アリーシャたちが来た」
アレックス兄さまが告げれば陛下はうっすらと瞼を上げる。
「……アリーシャ……」
かすれるような声。しかし名を呼んでもらえるとは思わなかった。父娘らしいこなどまるでなかったと言うのに。
「……すまなかった……おまえを……くらやみ、たいりくに……わたしは、きづくのがおそすぎた……」
もう私は行くしかなかったのだ。崩壊しかかっていた世界は限界を迎えていた。
「いいえ……そんなこと、ないです!」
遅すぎただなんて。
「私は暗闇大陸にラシャやジェームスと言う仲間と赴くことができました。暗闇大陸でたくさんの仲間と出会いました。今は暗闇は晴れカエルムと言う国のある天空大陸になりました。陛下に与えていただいたからこそ、多くの仲間やカエルムと出会えたんです。だから……ありがとうございます」
「……」
陛下は今にも消えてしまいそうな瞳でゆっくりと私を見る。
「アリーシャ……お前は、帝国の皇女だ。わたしの……娘だ。きっと立派なカエルムの……女王となろう」
「はい!メリッサ姉さまのような立派な女王になります!」
そう告げると後ろから微笑ましそうな声が聞こえてくる。
「さいごに……話せて良かった……娘よ」
「はい、陛下」
「アリーシャ、そこは」
キアーラ姉さま?
「たまには父と呼んでもバチはあたらんよ」
メリッサ姉さまの言葉に陛下が優しく微笑んだのが分かった。
「そんなこと、考えもしなかったが……アリーシャ」
「……ジル兄さま!」
私たちは末端の皇子と皇女。しかし陛下はちゃんと私たちのことまで見てくれていた。
「はい。お父さま」
この世界で最後にこんなにも安堵してくれる父の顔を見られるとは思っても見なかった。
お父さまは私たちに順に言葉を駆けてくださった。そしてやがて他の皇子や皇女が登場する。
「来たか、お前たちも」
アレックス兄さまが彼らを招く。
第2皇子フィリップ、第3皇子ダミアン、第5皇子のロン。皇女は第2皇女のイレーヌと第4皇女のビビアンだ。本当に久々に見る。ジル兄さま以外はメリッサ姉さまやキアーラ姉さまとも帝都を出てからの方が親しくなったもの。
「全員揃ったようだから、これから陛下より皇位継承の儀を簡略的に執り行う」
え……?あれ?陛下と事前に話せたのは私たちだけ?それとも彼らは先に挨拶を済ませていたのだろうか。
「ちょっと」
その時声を上げたのはビビアンだ。私の苦手な皇女のひとりである。
「せっかくお父さまに呼ばれたから帝都まで出向いたって言うのに、何でそいつの方がお父さまの近くに控えているわけ?」
ビビアンが私を指差す。
「私の方が愛されているのに!」
すぐに自分の方が優れていると自慢したがるのが彼女だ。彼女ではメリッサ姉さまやキアーラ姉さま、イレーヌ皇女にはかなわないから。年下の私を狙うのだ。
「そうでしょう!?メリッサお姉さま!」
ビビアンがキラキラとした目でメリッサ姉さまを見る。
「さてな。私は知らん。父の病床にそのような格好で来るとは」
ビビアンは明らかに購入したての煌びやかなドレス、キラキラとした宝石を身に付けている。
メリッサ姉さまたちは動きやすそうな騎士風の装いだし私もメリッサ姉さまが用意してくれたワンピースだ。とてもじゃないがドレスで来たいとは思わない。
「アリーシャは立派にカエルムの次期女王としての務めを果たしている。だがお前はどうだ?任された国は」
「じょ……女王ですって!?わ、私だって女王になるのよ!」
ビビアンは12歳のはずだから……なるとしても成人後だろうか。
「それは本当か?陛下と私の御前で嘘は通らないぞ」
その時アレックス兄さまが口を開きビビアンが畏縮する。
「と……とうぜん……じゃなぃ……私は多くの民衆から支持を受けて毎日宝石やドレスも与えられっ」
「もういい」
その時口を開いたのはフィリップ皇子だ。確かこの人ってアレックス兄さまたちとは母親が違って第2妃の皇子だったよね。
昔は顔が恐かったのだけど……ジェームスと張り合える強面だからか、そこまで恐怖心はない。
「黙っていろ」
ひぃっ。やっぱり恐っ!この人!
「ひっ」
空気も読まずに自慢ばかりするビビアンまで思わず黙りこくる。
同母の皇女イレーヌは平気そうにしてるけどね。
「では、早速皇位の継承を……」
「お待ちください!」
その時アレックス兄さまの言葉を遮ったのはだんまりを貫いていたイレーヌ皇女だった。




