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【61】砂漠の国の夜



――――南部の砂漠は寒暖差の激しい地。夜はそれなりに冷えるらしくラシャから羽織ものを渡された。


「それでも、夫婦のお部屋をもらえたね」

「ああ。夫婦だから一緒の部屋でと言ったら苦渋の表情で認めたな」

「あはは……」

一応国賓として来ているお陰かジル兄さまも礼儀は通したようだ。


「でも変なことしたら叩き出すわよ」

「そうだな。私も獣人族の側仕えたちから頼まれたことだしな」

「するかっ!」

クレアとジェシーの言葉にすかさずラシャが反論する。

クレアとジェシーも従者として出入りを許可された。ジェシーは地元枠だからか結構馴染んだようだ。


「そう言えばアズールとシャムスは……」

「アイツらは寝る必要ないからな。さっきアズールがシャムスを引っ張ってどこか散策に向かったぞ」

神さまだからそもそもひとの行動サイクルとは違うんだよね。しかし2人で仲良く散策かあ。何だか微笑ましいなあ。


「さて、この後は晩餐だったか……」

「そっ、そうだね」

この情勢下ではあまり豪勢なものをジル兄さまは無理に用意しないだろう。できれば私もやめて欲しい。しかし砂漠の国での料理はどんなものなのか少し気になる。


「こちらの料理もきっと現代じゃ変わっているわよね」

「うーん……貴族や王族ならパンが食べられるかもな。一般の民衆は外から入ってくる安いトウモロコシの粉とか、クスクスって言うパスタみたいなものだ。あと野菜よりも肉多め」

野菜は輸入に頼るから高いのか。しかしさすがに主食として入ってくるものは民にも手が出るのだ。


「肉多めなら超慣れてるな、俺ら」

「あ……それは確かにっ」

今はシルワが開墾する土地にオッケーをくれたので果樹園や畑も作っているから野菜も獲れるが。むしろ懐かしい思い出である。

しかし……パスタ。パスタが食べられるの?


部屋で和んでいれば、獣人族の側仕えが焦ったように呼びに来た。


「大変です!今すぐ王の執務室へ!」

一体何が起こったの!?


急いでジル兄さまの執務室へ向かえば、獣人族の騎士たちの他にも人間の姿が見える。


「これは確実に反乱です!」

告げたのは人間の女性だが、装いはどこか騎士のようにも見える。

「ああ……なんてことを。やつらは人間の貴族やその手勢を手当たり次第に集めてますよ」

他にも人間の臣下たちは頭を抱えているが、肌はよく日に当たっているようでどこか帝都の貴族とは違うようだしあちらでは見たことがないかも。


そして私たちの姿に気が付いたジル兄さまが呼んでくれる。


「ジル兄さま、一体何が起こったの!?」

「昼間に追い出したグレッグたちが人間の貴族を集めて反乱を起こした。元より俺の方針に反発していたやつらだ。今回の緑化事業ですら自分たちの手柄にして横取りしようとしている」

「そんなっ」

ジル兄さまは国民のためにやろうとしているのに。


「だがなりふりかまっていられなかったのだろう。やつら、国中の人間の貴族を集めようとした。あいつらは普段領地じゃなく王都に住む。王都にすらいないものもいるが……」

帝国本土にでもいるのだろうか?この国の貴族なのに。

「じゃぁ彼女たちは……」

集まっている人間の貴族と見られる彼女たちを見る。


「数少ない賛同者たちで集まれたものたちだ」


「私はここの生まれです。多くの民が獣人族だと言うのに人間だけ優遇するのはおかしな話でしょう」

「反乱に加わる貴族たちは南部の民と言うにはね。元はこちらに派遣される皇族について帝国本土から派遣されて帝国の貴族を伴侶に選ぶ。どこの国の貴族だか分かりゃしない。あ、王の悪口じゃないです」


「事実には代わりない。だがアリーシャ。最悪城は戦闘になるかもしれない。アリーシャたちは安全な場所へ避難してくれ」

「そ……それは嫌です!」


「……え……?」


「私、聖女だから!私にもできることがあるよ!私だってジル兄さまの役に立てるもん!」

「それはその……聖女の件は今でも信じられないが……危険でっ」


「危険なことなら暗闇大陸で嫌と言うほど体験したもんっ!」

「そうだな、アリーシャ。俺なんて魔王だしな」

あれ、そう言えば。魔王と聖女だなんて最強コンビなのでは?


「だが、私たちはカエルムの国民だぞ。むげに他国の内乱に荷担したら過干渉になる」

とジェシー。そっか……帝国は属国同士の戦争を禁止している。


「そうだ、だからアリーシャは」


「本国に許可を取りましょう、王」

女性騎士が告げる。

「しかしイェンナ。アリーシャはまだ8歳で……」

彼女はイェンナと言うのか。


「目を見れば分かります。彼女の目は覚悟の出来ている目。ヒーラーである聖女を守るのは我々騎士の務め。我々が守ればいい。それに彼女はイェシアをここにまた連れてきてくれた」

イェンナがジェシーを見る。思えば歳は同じくらい。同じ貴族であり獣人族に偏見を持たない彼女なら知り合いでもおかしくはない。


「……その名は既に捨てている」

「それでも旧友との再会ほど嬉しいものはない」

イェンナがにこりと笑みを向けてくれる。しかしすぐに表情を戻しジル兄さまに向き直る。


「さあ、早く本国に許可を。それとも王は妹御を守る覚悟もなくソレイユの王になられたのですか。それで貧困に苦しむ多くの民が救えるとでも?」

「……分かった。イェンナ。俺も半端な覚悟で王になった訳じゃない」

ジル兄さまは急ぎアレックス兄さまに通信を繋いでくれた。




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