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【60】砂漠の国の未来



――――ジル兄さまに全てがバレたグレッグは項垂れながらも帝都への帰国の準備をするしかなかった。次は侍女たちである。


「その……ジルさま。私たちは、誠心誠意アリーシャさまにお仕えしてっ」

「そうですわ!今だってお世話のために参上しただけですわ!」


「アリーシャに『忌み子』と言ったな」

「……っ」

その言葉を聞いていないはずがなかったのに。


「俺はアリーシャをそんな風に思ったことなど一度もない。アリーシャは母上が命懸けで残してくれた大切な忘れ形見だ」

「そんな……っ」

「ジルさまだって妃殿下がお亡くなりになってとても悲しまれたはず!」


「そうだな。それは悲しかった。だがアリーシャが生きていてくれたから俺はここまでやってこれた。希望を捨てずに済んだ。暗闇大陸に行かされたことで絶望感に囚われたが、こうして……生きて帰ってきてくれた。こんなに嬉しいことはない」

「……ジル兄さま」

それは初めて聞くジル兄さまのお母さまと私を巡る気持ちだ。ずっと聞くことができなかった。私はジル兄さまにまで怨まれたと知ったらきっと生きては行けなかったから。


「お前たちもグレッグと共に帝都へ帰るように。以降は暇を出す」

「そんな……何故っ!」

「私たちはジルさまのためにっ」


それでもジル兄さまに固執しようとする侍女たちが突如悲鳴を上げる。

「熱いっ」

「ひいぃっ」

どうしてか彼女たちの手が一瞬熱を帯びたように見えた。


「……シャムス?」

ラシャやクレアも炎の魔法くらいは使えると思うのだが、何となくあれはシャムスのような気がしたのだ。


「お前も充分嫉妬深いからな」

ラシャがクツクツと苦笑する。

「ふん」

シャムスがしれっと顔を背けた。


侍女たちが退散すればジル兄さまが私に向き直る。


「アリーシャ」

「ジル兄さま」

ジル兄さまの元に歩む私をラシャも止めない。ジル兄さまに改めて向き直る私をジル兄さまが優しく抱き締める。


「よく……戻ってきてくれた」

「うん、ジル兄さま」

兄妹の再会はやっと果たされた……そんな気がした。

私の抱擁を解けばジル兄さまが真剣な表情を向ける。


「アリーシャ。この国はずっと……いやメリディエスもずっと貧しかった。メリディエスは獣人の王族だが代々帝国の皇族や人間の貴族を娶らなくてはならない。皇子が派遣されればメリディエスは人間に優位な統治になる」

属国である以上はそれを受け入れるしかない。これからは皇女も王になる。キアーラ皇女はそう言ったことを許しそうにないひとだが今後はどうなるか分からない。


「ソレイユは元より人間の王族。メリディエス以上に人間の貴族が優遇され、その反発を抑えるために獣人族の貴族も多少はあれど強くは出られない。国民の多くは獣人族だ。みな貧しく食料だってろくに手に入らない。諸外国からの数少ない食料は人間の貴族が独占する。そんな国だったんだ」

「でも……ジル兄さまは」

ここには獣人族の騎士や側仕えもいるようだ。


「ああ、変えていかないとならない。国民のことを鑑みずに私欲に走る貴族はその資格を剥奪せねばならないが、帝国本土の貴族との繋がりで強くは出られない。警備や人手不足で彼らを雇ってはいるが、そうするならば帝国本土から人員を確保するように圧力がかかる」

そうして職も減り、失業者まで溢れてしまう。


「アリーシャに教えてもらったメロンや、他にも砂漠で育てられる作物を試験的に導入しているがまだまだその作物も貴族の懐に入ることの方が多い。それを必要としている民に行き渡らない。だから少しでも……森の恵みを受けられれば少しでも民を飢えさせないですむはずだ。それも独占されてしまえばもともこうもないが」

「それでも……ジル兄さまが協力してくれてるなら、私は嬉しいよ」

ジル兄さまは正しいことをしようとしてくれている。


「私も、アレックス兄さまもメリッサ姉さまもきっと協力してくれるはずだよ」

「……お前はいつの間に……」

あの2人と関係のある貴族は多い……と言うかアレックス兄さまが味方ならば最強過ぎないか?


「だからね、メリディエスとの会談で絶対に森を復活させようね。枯らせたら絶対にダメだからね!」

「……もちろん。同じ間違いは二度と」

少なくともジル兄さまはソレイユのダークエルフの森のことを知っているのだ。


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