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【6】ゴーレム



――――こちらに迫り来る巨大なゴーレムに息を呑む。あのゴーレムは一体何者なのか。敵なのか味方なのか分からない。


「おい、ラシャ。どうすんだ!あんなの剣だけじゃどうにもならねえぞ!できるとしたらお前の魔法くらいしかっ」

それでもジェームスは剣を構えて私を後ろに庇ってくれる。


そしてゴーレムがゆっくりと前かがみになり私たちに向けて腕を伸ばす。どう言うこと?あのゴーレムは何をしようとしているの?

その時、ラシャがゆっくりとゴーレムに歩み寄る。


「ラシャ、大丈夫なのか?」

「問題ない。彼らは迎えに来ただけだ。俺が……帰ってきたから」

ラシャはゴーレムの腕に手を伸ばす。

ゴーレムの腕の先端にそっと掌を合わせたその時驚くべきことが起こる。ラシャの頭に黒い角が現れたのだ。


「この世界のエルフって、角あるの!?」

「いや、姫さん。ラシャはエルフじゃねぇぞ」

「え……?」


「よく似ちゃいるが、瞳孔は縦長だし髪の色も暗い。角を出せば魔力がみなぎる故に、監獄ではしまっていたようだが」

「え……じゃぁラシャは……」


「暗闇大陸から来た……それはすなわち【魔族】だよ」

「ええええぇっ!?」

まさかのラシャが伝説の種族!?そして暗闇大陸から来たら魔族と言うことはここは元々魔族の土地と言うことにならないだろうか。


「アリーシャは知らなかった?」

「……うん」

魔族なんて伝説の存在だと思っていた。せっかく異世界転生したのにお馴染みの魔族に会えないのはちょっと残念ではあったのだが。


「あのね、ラシャ!暗闇大陸は元々魔族の土地だったなら……私もっと魔族のこと知りたい!それからラシャのことも!」

国を作るのならまずは現地のことや種族のことを知り、現地民との友好的な関係を築くべきだ。


「……そこなの?」

「え?」

魔族に対し何か失礼なことを言ってしまったろうか。


「ふふっ。アリーシャは面白い子だ」

それ、皇太子にも言われたような。やはり転生者と言うのはちょっとした言動でそう思われてしまうのだろうか。


「普通は恐れる。昔魔族は人間にとって脅威でしかなかった。このような角を持ち、強力な魔力を操り、さらにはこのようなゴーレムだ。普通は看守たちのように恐れる。ジェームスのように肝の据わった人間は珍しいし、俺たちのことを知りたいと言ってくれる人間も稀だ」

もしかして看守たちがラシャを異様に恐れていたのは魔族だから……?


「けどラシャは優しいし、こうして一緒に来てくれたよ。恐がるなんて……しないよ?」

「……そうだね。そんなアリーシャだからこそ共に来られて良かったと思うよ」

「うん!」

私もラシャと一緒で良かった!


「……でもその、ゴーレムさんとはどうなったの?」

ゴーレムはまるで跪くようにラシャを見下ろしている。

「ゴーレムかい?大丈夫。これらは魔族が作った魔動機械だから俺の言うことを聞く。ここで出会えたのは運がいい」


「とは言え……でけえな。連れて歩くのか?」

「……そうだね。震動でアリーシャが転んだら大変だ」

うぅ……悔しいが今は幼女。成人したところでゴーレムの震動でよろけそうだ。


「それなら大丈夫」

そうラシャが告げれば、次の瞬間ゴーレムがすうぅっと小さくなり体長30cmほどの土偶になる。


「わぁ、かわいい!抱っこできるかな」

「多分重いよ」

「そうかな」

試しに持ち上げようとしてみたのだがものすごく……重い。


「魔法で凝縮しただけで本来の質量や重さはそのままだ。でもこの大きさなら魔力で浮かんで移動できる」

ラシャの言う通りゴーレムは少し地表から浮くとすいすいと空中を動き回る。


「俺たちが歩けば付いてくる」

その言葉の通りゴーレムも付いて来てくれるようだ。


「ねぇ、ラシャ。この子の名前は?」

薄暗い森に入るのは勇気がいるが、ゴーレムの模様が光ることで少しだけ気持ちが落ち着く気がする。


「……考えたことがなかったな。ゴーレムはゴーレムでしかなかったから。けど、アリーシャなら好きに付けていいよ」

私が……?


「うーん、そうだなぁ」

ゴーレム……見た目は光る土偶。

「ぐぅちゃん」

安直すぎだろうか。


「ぐぅちゃんね。光るセンスだね」

え……そう?安直すぎたことを自分でも心配していたのだが。

「ま、子どもの付ける名前としちゃぁいいんじゃねぇの?」

うぅ……ジェームスの評価は子ども判定。しかしながら子どもなのだから許されるはずだ。……例え成人した前世の記憶を持っていたとしても、だ。


「しかし……暗くなる前と言うか暗いか。せめて疲れる前に食料や水を補充したいな」

「そうだね。そう言えば見たことのある植物は相変わらずあるようだ。例えば……これ」

ラシャが木の葉を一枚摘まむ。大葉みたいに食べられる葉っぱと言うことだろうか。


「ジェームス、これを」

「ん?何だ?」


「食べると腹を下す葉だ」

「何てもん渡しやがる!いるかっ!」

ジェームスが葉っぱをぽいっと捨て去る。


「アリーシャは間違って食べないようにね」

「あ……う、うん」


「確かにそれは大切だが、食わせようとしたろ。お前」

「ひとの生とは失敗から多くの学びを得るものだ」

「もう分かってんならいらねぇよ!それより、姫さんが腹空かせるだろ!食えるもん!食えるもんを教えろ!」

「分かった、分かった」

ラシャは森を分け入りながら食べられる木の実を教えてくれる。そして高いところにある木の実はぐぅちゃんが採ってきてくれる。


そうして順調に森を進んでいる時だった。


「おい、ラシャ。何が来る」

ジェームスが剣を構える。ぐぅちゃんは私の側に自然と寄り添ってくれる。


「……単純に考えれば魔物と、ひと。だがあんな魔物は知らない」

その時草むらを掻き分け誰かが飛び出してきた。そう、ラシャはひとと言っていた。そしてその後ろから大きな闇のような何かがこちらに向かってくる……っ!


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