【57】砂漠の国
――――さて、砂漠の国への出発の時だ。私とラシャはクレアとジェシーと共に夕暮れの地にやって来た。そして今回はシャムス、アズールが一緒である。アズールには砂漠に森の種を蒔くという役目がある。
「けどシャムスも来てくれたんだね」
正確にはアズールがシャムスの手を引っ張ってきたのだが……シャムスも特に抵抗はしていな……諦めたみたいに俯いている。
「……」
いつもの通りにこりと微笑むアズール。因縁のある地ではあるがだからこそと言うことだろうか。
「私も交渉頑張るからね、シャムス!みんなにシャムスを好きになってもらおうね」
「……っ」
そう言うとシャムスが照れたように顔を背ける。やっぱり嬉しいんだよね?
夕暮れの地ではアーベンやアテナたちが見送りに来てくれた。
「そうだ、あのねアーベン」
「ええ」
「ずっと聞きたいことがあったの」
罪に関してはアーベンが一番詳しい。何たって罪をはかる裁神だ。
「何でしょうか」
「子どもが母親の命と引き換えに生まれることは罪になる?」
「否。生命の誕生を祝福することは創世神が創造した世界の輪廻のひとつ。その理の通り生命の営みを巡らせる母娘に罪などない」
「……うん、ありがとうアーベン!大好きだよ!」
アーベンも魔王に従う六神だが、絶対にそのようなことはしない。今後カエルムの王族が子孫を繋いでも。
ぎゅむとアーベンに抱き付けば、頭を優しく撫でてくれる手がある。
「今のって……」
「どう言うことだ?」
「クレア、ジェシー。俺たちがアリーシャを守ってやればいいと言う話だ。アーベンもああ言ってるし容赦はなし」
「もちろんよ」
「アリーシャを虐めたら許さないからな」
「……ぼくも」
クレア、ジェシー、それにシャムスまで!?アズールはそれを見て嬉しそうに微笑んでいる。
そして心配したアテナたちにたくさんなでなでしてもらい、砂漠の国へ向けて出発するのだった。
※※※
砦に到着すれば同じく砂漠の国に向かうメリッサ姉さまと従者たちが待っていた。
「帝国は広いからな。時折こう言った転移システムを使うんだ。もしかしたらカエルムのゲートも……」
「この装置の元となったのかもしれない」
ラシャが答えてくれる。初代勇者もゲートをカエルムで見てるはずだもんね。取り入れていたとしても不思議じゃない。
私たちは今度は護送用の馬車ではなく砂漠の地でも丈夫な馬車に乗り込み、一度帝都を経由して南部に向かった。
「ではアリーシャ、私は先にメリディエスに向かう」
「はい、メリッサ姉さま。私もジル兄さまとお会いしてきます!」
砂漠地帯へ到着すれば、ここからは私たちカエルム組は別行動である。
馬車はグラキエスからメリッサ姉さまが貸してくださった。
そちらに再び乗り込み出発だ。
「……いいのか、外は結構照っているぞ」
シャムスは心配してくれているのだろうか。
「ジェシーが教えてくれた日除けを被るよ」
今回は服装も南部の気候に合ったものを用意している。これらの用意に関してはジェシーの意見をメリッサ姉さまが参考にして一緒に揃えてくれた。
「シャムスはいいの?」
「元々は同じ性質のものだ。平気」
あ、思えばそうか。太陽神が太陽の熱にへばるはずがない。
馬車を降りれば、その先で出迎えてくれるひとびとの姿が見える。人間もいるけど、やはり獣人も多い。そしてその中央には……。
「ジル兄さま!」
帝都を離れて以来久々に見る兄の顔である。
ジル兄さまに駆けていこうとすれば案の定ジル兄さまの前を塞ぐ臣下たちの顔は……見覚えがある。特に最側近の騎士は……グレッグだったかな。私に敵意を向けてくる代表格だ。
「国同士の会談の前に兄妹の再会を邪魔するなんてなんて野暮なの?」
「そうだぞ。アリーシャがシャムスのようなヤンデレじゃないことを感謝しろ」
「……代わりにヤる?」
クレアとジェシーはともかくしれっと混ざっているシャムスを止めつつも、不意に身体がふわりと浮き上がればラシャに抱き抱えられていた。
「ラシャ?」
「アリーシャは将来の夫の俺がいるからな」
「……うん!」
みんなが一緒だから大丈夫。恐くない。
「さて、それが貴殿らの歓迎か?」
ラシャが真剣な面持ちで告げれば、ジル兄さまは臣下たちを下がらせる。
「うちのものが失礼をした。ソレイユへの訪問、歓迎しよう」
ジル兄さまは既に国主の顔だ。
「ああ、よろしく」
妙に笑顔を浮かべるラシャに周囲がびく付いた気がするのは気のせいだろうか。
とにもかくにも、私たちはソレイユ側での歓迎を受けることになった。




