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【56】天空大陸の夜



――――砂漠の国々との交渉を進め、アレックス兄さまやメリッサ姉さまのお陰で遂に訪国の日程が組まれた。


最上層は雲海の上だが相変わらず星は美しく、そわそわして眠れない私はあのバルコニーに来ていた。


「……だから兄さまも確実に知ってると思うけど……」

未だ国主同士の会談が成されていない。いや、それは実際に顔を合わせてからだと思うし、クレアやジェシー、南部が地元の獣人たちも協力して交渉を進めてくれたんだけど。


「……別の理由があるのかな」

その可能性を思案して落ち込んでしまう。


「アリーシャ」

しかしその時後ろから呼ぶ声にハッとする。


「ラシャ?」

「バルコニーに人影が見えたからな。だが夜はなかなかに冷えるぞ」

ラシャが私にケープをかけてくれる。


「ありがとう。でもラシャはまだ起きていたの?」

「ちょっと資料の整理をな」

「私も手伝うよ?」

「子どもは夜は寝ないと。背、伸びないぞ」

「それはっ」

ちょっと困るかも。


「でも……寝れなくて」

「さっきの『別の理由』ってやつか?」


「……うん。ジル兄さまのこと。正確にはジル兄さまの臣下たちのこと」

「ふうん。アリーシャが兄ちゃんのことが好きなのは充分伝わってくるのに、訪国の予定が決まってきても妙に落ち込んでいたな」


「……」

「その臣下たちに何かされたのか?」


「……あのね……ジル兄さまには私たちのお母さまから引き継いだ侍女や騎士がいた。だからジル兄さまは侍女も騎士もいない私のためにお母さまから引き継いだ臣下の一部を私に付けてくれたんだ」

「……そのアリーシャの母親って言うのは」

「もうお空のお星さまだよ。私を産んでから、すぐに……」


「そうだったか。辛いことを思い出させたな」

「ううん。私は何も覚えてないもの。辛かったのはジル兄さまの方だよ。けど、ジル兄さまはそれでも私をかわいがってくれたんだ」


「アリーシャが兄ちゃんのことを語る様子を見ていたら、何だか伝わってくる。けど……ひとつ疑問がある」

「……なあに?」


「アリーシャもその兄ちゃんも同じ妃の子だ。なのに何故その臣下たちはアリーシャには付かず、兄ちゃんのところに行ったんだ?」

「……ジル兄さまはひとを惹き付ける素質が多分あるんだと思う。だからジル兄さまのもとには他にもたくさんの臣下が集まったよ。でも私は……私のせいでお母さまが……っ」

臣下たちから尊敬を集めるジル兄さまからお母さまを奪った私を……怨んでいる。


「……それ以上はいい」

ラシャの手が私の頭にぽすんと乗る。


「アリーシャの母ちゃんが死んだことを子どものアリーシャのせいにするなんて常軌を逸してる。アリーシャの母ちゃんは命懸けで命を繋いだんだろ」

そんな風に言ってもらえるだなんて思ってもみなかった。ずっとずっと責められた。お母さまが私のせいで死んだのだと。そのお陰でジル兄さまはお母さまと死に別れたのだと。


「そのお陰でアレックスは勇者の贖罪を果たした。俺はこのカエルムに戻れた。ジェームスやジェシー、クレアたちとも出会えた。世界も、六神も世界樹たちも救われた。女神たちもいつの間にか仲良くなってるし。全部アリーシャがこの世に誕生したからこそ成し得たことだ。だから俺は……」

「……ラシャ」


「この世界に命懸けでアリーシャを産み落としてくれたアリーシャの母君に感謝する」

「……」


「産まれてきてくれてありがとう、アリーシャ」

「……っ」

そんなことは初めて言われた。ずっとずっと責められた。怨まれた。生まれてきたことが……罪だと。ジル兄さまからお母さまを奪ったのは私だ。だからジル兄さまに助けを求めることなんてできなかった。


ぽろぽろと涙が溢れる私をラシャがそっと抱き締め頭を撫でてくれる。


「何があってもアリーシャを守る」

その言葉はジル兄さまがくれた言葉。しかしだからこそアリーシャにその臣下たちの怨みや妬みが集まった。それはお母さまのことにまで言及され責められた。怨まれた。


でも今回は違う。ラシャを慕う六神たちとも分かり合えたのだ。地底種のみんなも、魔族のひとたちも。だから……私はこの腕の中で本当の安堵と言うものを得たのだ。



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