表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/76

【5】暗闇の大陸


――――翌朝


「……ん……ここ、は」

「目が覚めたか」

ぱちりと目を開けば、柔らかい。暫く横になっていたようだ。しかし座席は固いはずなのに何故。くるりと上を見上げれば先程の声の主の顔がある。


「わっ、ジェームス!?ごめん、私っ」

「別にいい。まだガキなんだから。寝れる時に寝てろ」

う……うん。まさかジェームスの足を枕がわりに使っていたとは。


「2人とも、一応飯は出るみたい。もらってきた」

通常の護送ではないからか、私がいるからか。ラシャがもらってきたのは3人分のサンドイッチと水筒である。


気が付けば護送馬車の扉は開かれており、外には騎士たちの姿が見える。


「朝食を食べれば早速出発だ。水筒はもらっていっていいそうだから、持っていこう」

「うん。ラシャ。けど食べ物は?」


「生態系がさほど変わってなければ、食べられるものとそうでないものは分かる」

あちらはあちらで生態系が違うのだろう。だがそれでも暗闇に閉ざされて変わっているかもしれない。


「俺は暫く食べなくても魔素があれば生きられる」

エルフなのに、魔素?魔素って魔力のもとになる物質だよね。

私は魔力なんてないからよく分からない。


「でも人間は分からない」

「俺がまず食べて、平気なら姫さんに渡せばいい」

「暫くはそうなりそうだ」

私……足を引っ張ってしまっているかな。普通に考えて幼女連れって負担……だよね?


「何考えてんだ?姫さん」

「……そのっ、私が、ジェームスに無理を……」


「そんなんじゃねぇよ。こんなこと無理でも何でもねぇ。姫さんがこんな俺に役目をくれたんだ。これくらい当然だ」

「……ジェームス」


「そうだね。アリーシャがいなければ俺は……暗闇大陸に戻れたかどうか分からない」

「ラシャ……」

ラシャは暗闇大陸から来た。誰もが行きたくないと首を振る中、ラシャは戻りたがっている。ひょっとしてあの時の涙は……。


「だからアリーシャには感謝しているんだ。アリーシャ、暗闇大陸に国を作るんだろう?」

「……っ!そうだよ!作るの!」


「ならその意気だ。アリーシャが元気でいてくれれば俺も嬉しいよ」

「うん」

頷けば、ジェームスもぽふぽふと私の頭を撫でてくれる。


朝食を食べ終えれば、馬車の荷台から降り外へと足を踏み出す。ここは帝都からどのくらい離れているんだろうか。知らぬ空、知らぬ空気、見知らぬ土地。

けれどこの先にラシャの故郷がある。それは少しだけ私の緊張を和らげてくれる。


「この門の先に暗闇大陸へ渡るための橋があります。橋を抜ければ、こちらには戻って来られません」

最後の門の責任者が告げる。彼はここを管轄する砦の長だ。


「あちらから橋を渡ってこちらに来られないの?」

「誰も帰ってきたものはおりません」

どう言うことだろうか?


「あちら側に渡れば、まるで神隠しのように姿が見えなくなる。門を開けばその理由が分かるでしょう」

彼が告げれば重厚な門が開かれる。

その先には大橋が伸びているがそのさらに先を見て息を飲む。


「真っ暗だ」

何も見えない。朝だと言うのに暗闇に閉ざされて何も見えないのだ。


「中がどうなっているか、まるで分からねぇな」

ジェームスの言う通りだ。


「けど、間違いなくあそこだ」

ラシャにはそれが分かるようだ。その向こうを懐かしそうに、そして悲しそうに眺める。


そして砦の長が不意にジェームスに剣を差し出す。


「本当なら、お前のような大罪人に持たせたくはなかった。下手をすれば皇女殿下の身に危険が及ぶだろう。だが……お前のやったことを知らないものばかりではないと言うことだ」

今の、どういう意味?ジェームスの罪を知っているから剣を差し出したと言うこと?うーん、矛盾しているような気がするのは何故?


「ここは最果ての地。こんな僻地に派遣されるのはどこにも行きようのない平民が多い」

「……さてな。斬り落とした顔なんていちいち覚えていない」

そう言うとジェームスは剣を受け取り腰に帯びる。


「そう言うことにしておこう」

「それでいい」

ジェームスはそう言うと砦の長から視線を外し橋の向こうを見やる。


「……暗闇大陸に行くんだろ」

「そうだな」

「うん、行こう!」

まずは行ってみなければ始まらない。静まりかえる砦の見送りは暗闇大陸への恐怖故か。

砦の騎士たちが静かに騎士の礼を向けるなか、私たちは暗闇大陸へ向かう橋を行く。


周りは海だ。しかし色のない生気のない海。橋は丈夫で落ちる気配などないがその静けさが不気味なほどだ。


暗闇に歩いていけば、僅かに海岸のようなものが見える。


「……アリーシャ。後ろを見て」

ラシャの言葉に振り返れば、そこには対岸がない。いや、橋すらも。


「……どう言うこと?」

そこにあったのは色のない海とまるで壁のような暗い闇。なのに不思議と周囲の海岸は映る。対岸に繋がるものが全て闇の中に消えたのだ。


「戻ってこられないと言うのはこう言うことだったんだ」

「でもどうして橋が消えたの……?」

橋が消えてしまえば海を渡ることはできない。船があれば……いや、戻る必要はない。私はこの暗闇大陸に国を作るのだから。戻ってどうする。進まなきゃ。

海とは逆方向の鬱蒼とした森の闇の先へ。


「……考えられるとしたら……六神」

ろく……ろくしん……どこかで聞いたような。そうだ……護送馬車の中で……!


「彼らが関わっている可能性が高い。いや……それ以外他に考えようがない」

「ねえ、ラシャ。六神って何?」


「六神は……この大陸の守り神。彼らがこの事態を引き起こしている可能性がある」

「ならどうすれば」


「探すしかない。彼らを探して真相を確かめる。それが一番建設的だ」

「だがどこにいるか分かるのか?」

ジェームスの言う通り、どのくらい広大かも分からない。この大陸の地理が分かるとすればラシャだけである。


「対岸の太陽の位置を参考にするなら」

空を見上げれば暗黒雲。陽光を遮られたここには道しるべがないから。先程までは朝だったのにここではとてもそうは思えない。


「最初の六神の位置はだいたい分かる。俺の予想が正しければ最初に会う六神としては妥当な相手だ。方向は多分……こちらだ」

私たちには現状、ラシャの勘に頼るしかない。早速その六神とやらに会いに行こうと歩を踏み出した時、大きな地鳴りが響く。


「地震!?」

「いや、違う。姫さん、空を」

「え?」

私の小さな身体を支えてくれるジェームスの視線の先を追う。

そこには全長3~4メートルはあろう黒い巨大なものがいた。例えるのならば……土偶のようだ。身体には光る金色の紋様が浮き出ている。


「あれ……何?」

「ゴーレムだ」

ラシャが告げる。あれが……ゴーレム!?しかしこの状況はかなり不味いのでは?暗闇大陸に上陸し早速のピンチである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ