【49】皇太子の秘密
――――天空大陸・最上層
夕暮れの地の夜は最上層はちょうど陽が沈みかけている。
「この時差はいつも不思議だな」
皇太子はそれをよく知っているかのように頷く。
魔王城の中にゲートを開きクレアたちの出迎えを受ける。そして一緒にいるのが皇太子だと知った時、みなずっこけたのは言うまでもない。
本当に……こんな急に来る立場のひとではないから。
「確か応接間があったはずだな」
「ええ。もしもの時のために片付けは済ませてあるわ」
クレアが教えてくれる。
「ご案内いたします」
「ありがとう」
クレアの案内にすんなりと頷く皇太子。
皇太子はダークエルフに良くない感情を持っていなくて本当に良かった。
応接間では私とラシャ、皇太子が腰かける。
クレアは控えているからと遠慮していた。でもそう言うもんなんだと言うジェームス。
「そうだな。アリーシャも国主になるのなら慣れねばなるまい。それがアリーシャの側で君を支える彼女たちの誇りにもなる」
「わ、分かりました。皇太子殿下」
皇太子に答えを返して頷けば、クレアも微笑んでくれる。
そしてジェシーがお茶を入れて出してくれる。さすがは元貴族令嬢。所作が丁寧である。
「それでは準備ができたところで、早速本題に入ろう」
皇太子と向かい合う。ここからが本番だ。
「まずアリーシャ。無事に領主就任、おめでとう」
「ありがとうございます。でも、私は……ここ天空大陸にかつてあった国……カエルムを再興したいです」
「そうだね。アリーシャならそう思うだろうこと、分かっていた」
「……どうして」
「君が聖女で魔王と共にここに帰還したのなら、きっとそうなると思っていたよ」
「私が聖女であること……知っていたんですか?」
「私はね。しかし他のみなは誰も知らない。皇帝ですらも。ただ私は壊してしまった世界を元に戻す方法としてアリーシャに暗闇大陸を与えることを進言しただけだ」
『壊してしまった』……?
「皇太子殿下……あなたは」
「ありがとう、アリーシャ。天空大陸を元に戻してくれたね。純血のエルフたちに唆されたとはいえ、私が壊してしまったことに代わりはない」
「……はい。あなたは、勇者なんですね」
「そうだ。罪深き勇者の記憶は私の中にある。そうやって何代もに渡り記憶だけを踏襲したが……ついに魔王を暗闇大陸に戻すことはかなわなかった。私が皇太子として生まれるまでは」
「記憶だけ……ですか?」
「そう。記憶だけ。勇者の力などないよ。勇者の魂はいつでも中途半端に欠けている」
確か長さんが欠けさせたんだよね。けれど2つに分けたと言っていた。なら欠けていて力を扱えなくとも勇者の力を受け継ぐ魂はある。世界を壊さないよう、皇太子たちが代々世界を元通りにしようとしてきたように。
「だが勇者の記憶を持つものたちは初代勇者が興したこの帝国を少しでもその願い通りに戻そうと試みた。しかし代々の皇帝は初代勇者が残した記憶や世界の真実を権力ほしさや魔王の力を監獄に封じることでその力すらも手に入れようとした」
世界の管理者代行……その力は帝国の覇者にとっては何よりも欲しいものだったのだろう。
「皇太子殿下の代でようやっと……」
「ああ。魔王を本来の管理者代行の座に戻せる。しかし足りなかった。必要なのは……聖女だったんだ」
「どうしてそんなにも聖女が必要だったんですか?」
「その答えはアリーシャもよく知っている」
ええと……最後に世界樹の成れの果てたちを浄化したから?
「でも成人するまではダメだよ、魔王。これは兄として言わせてもらう」
へ……?
「ふざけるな、当たり前だ」
ラシャがこめかみをぴくんと震わせる。
「しかしアリーシャが聖女と広まればいろいろな連中がアリーシャの伴侶の座を狙う」
「えっと……でも私は慣例通りなら現地の王族……つまりラシャと婚姻するのでは?」
「現状魔王の一族がなく、魔王が転生体として蘇ったのならそうなる。彼しかいないが……聖女を理由にあれやこれや言ってくるものもいるからね。なに、皇女が10歳を前に婚姻を結ぶことは珍しいことじゃない。皇女を守るためだ」
「それなら……その、ラシャ」
「俺は構わない」
「ではここに婚姻を承認するけれど、夫婦のあれやこれやはアリーシャが成人するまでね」
「当然だ!俺はロリコンじゃない!」
真正のロリコンは幼女を聖なる存在って言ってるからそもそも手を出さないだろうけどね。手を出したら世界最強の捕食者に狙われるだろう。




