【45】世界樹の願い
――――私たちの前に姿を現したのは長さんだった。
「心配いらない。天界の女神も同じ気持ちだ。拳で語り合った仲。今は何でも言い合える」
少年漫画セオリーが何故か女神さまコンビに適用されている。
「六神と共にこの暗闇を取り払おう。お前たちも納得しているだろう?」
長さんがそう言えば、その場にアーベン、アビス、アミナス、キアヴェが現れる。アミナスは大丈夫かな……そうだよね。今はもう現代なのだ。目を閉じ穏やかに微笑んでいる。
「では……この暗闇大陸の夜明けだ」
長さんが告げれば、暗闇大陸を覆っていた闇が剥がれていく。そこから眩しい朝陽が射し込む。
「これからは……本当の空を見ながら暮らせるんだね」
「そうだな。アリーシャ」
みな感慨深げにその光景を眺めている。朝陽と雲と、空と……。
「ここからやっと始まるんだ」
「うん」
ここまで辿り着くのは長かった。
「まずは……そうだな」
ラシャの言葉にみなが注目する。
「魔王城へ行こう。魔王城は無事なのだろう?アズール」
アズールがこくんと頷く。
「魔王城はオリハルコン製だから丈夫だし、魔神が神の力で保存してる……」
シャムスもそう教えてくれた。
「それなら行こうか。新領主さまの就任式だ」
「そうだよね!あ、でも……」
「ちゃんと国も作ろう」
「うん!もちろん!」
そのためにここまで来たのだ。ラシャに導かれ魔王城を訪れればまさに中世の古城だが見た目はぴかぴかでさすがはオリハルコンである。
中を進めばやがて謁見の間と思われる広間に通される。
「わあ、魔王の間だ!」
「魔王の……?確かに魔王と謁見する場だな」
こちらでは聞きなれない言葉だったろうか?しかしラシャは『今度からそう呼ぼうか』と告げ周囲からも苦笑が漏れる。
「アリーシャ」
「うん」
玉座は高く大きい。ラシャが私を抱っこして腰かければ、謁見の……魔王の間が見渡せる。玉座の周りに集う仲間たち。
下で待っていてくれているみんなにも早く伝えたい。
「これからアリーシャは領主として国を興す。国名は……どうする?」
「ここは元々何て言う国だったの?魔王国?」
「それは通称だな。本当の名はカエルム。この天空大陸の国の名だ」
「天空……それがこの大陸の本当の名前」
「そう言うことだ」
「なら、ここを天空大陸のカエルムにしようよ!それが私たちの国の名前」
「ああ……アリーシャ。ありがとう、俺をここに還してくれて」
魔王の帰還はまさに暗闇を祓う夜明けだ。朝陽が昇りきった暗闇大陸だが、夕暮れの地は今は夕暮れ前。
魔王城にもあった通信設備で大陸のみんなにもラシャと2人で本当の大陸と国の名を伝えることができた。
「アリーシャ、これからやることは山積みだ」
「うん。けれど六神も仲間たちもみんな楽しそう。私も楽しみだよ」
「ああ。それに……アリーシャ、おいで。見せたいものがある」
「見せたい……もの?」
ラシャが案内してくれたのはバルコニーである。そこからは……。
「雲海……?」
眼下に雲がある。
「そう。ここまで来るとまさに雲の上」
上下に伸びるとは言われていたけれど、まさに地上から地中を通って雲の上に出るのだ。
「でも呼吸は平気だよ。山や塔の上は空気が薄いんじゃないの?」
「そうだなぁ。本来はそうなんだがこの大陸は世界樹でできている」
それってもしかしてアズールが建てた杖から伸びた世界樹が大陸そのものまで成長したってこと?
私たちは最初から最後までシルワやアズールたちの中にいたわけである。




