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【43】帰還



――――アズールの本体が差し出す手を取れば、今度こそ白昼夢が明ける。


拓けたそこは古い聖堂のようだった。


「アリーシャ!」

今度こそ本物のラシャが私を呼ぶ。


「ラシャ!それにみんなも!」

無事なようだが……さっきの黒々とした成れの果てたちと応戦していたのだ。


「アズール!」

ラシャが呼ぶ声にアズールがこくんと頷いた。すぅっと開く瞼の下はやはり森の色。微笑みを絶やさない口が開く。


『……戻れ』

ラシャと瓜二つだと言うのに、声はまるで違う。地鳴りのようなそれは成れの果てたちを恐怖で震わせる。


アズールが再び杖をカツンと鳴らす。


『戻れ』

そう告げれば、成れの果てたちはアズールの杖に吸い込まれていく。そしてアズールは再び目と口を閉じれば今まで通りの笑みを浮かべている。


「成れの果てたちは……杖の中?」

「そうなる。世界樹の本体から切り離しずっとアズールが封印していたが700年は長い。俺がいない間にアイツらは憎悪で溢れかえっていたんだ。けどアリーシャを……聖女を白昼夢に引きずり込んだからその間アイツらを杖から出してアズールに探してもらうしかなかった」

あの記憶の中を。そして見てきた彼らの……世界樹たちの記憶。


「俺が戻ったとしてもアイツらは止まらなかったか」

それどころかシャムスまで憎悪の渦に巻き込んだ。あの中にシャムスの慕う兄神もいた。正確には信仰を失い朽ち果てて神になり損なった成れの果て。


「みんな……悲しかったんだよね」

打ち捨てられて、朽ちていった。

私はアズールの杖にそっと手を触れる。


「おい、アリーシャ!?」

「……?」

ラシャが止めるまもなく、そしてアズールも止めることはない。そしてゆっくりとカツンと杖を鳴らせば、アズールの言いたいことが分かったのだ。


「みんな、森に還りたいんだね」

「……」

アズールが静かに頷く。


すると杖が光を放つ。


「これは……」

「聖女の力の奇跡とも言えようか」

その声は彼女のものだ。


「ええと……」

何と呼べばいいのだろう?


「シルワ……と。キハダはそう呼ぶ」

「シルワ。聖女の力って……」


「浄化だろうな」

ラシャの言葉にシルワが頷く。


「ひょっとしたら神々はこれを願っていたのやも。アズール」

「……」

アズールはただ優しく微笑むだけだ。


「それにしても……これで終わったと言うこと?」

クレアが問う。そう言えばクレアはダークエルフのお姫さまでここに同胞を探しに来たのだ。


「そうなるわ、クレア。ここにならクレアがずっと探していた彼らもいる」

シルワはやはり全てを知っていたのだ。彼女もダークエルフの森の世界樹と繋がっているから。


「アズール」

アズールはこくんと頷くと、私たちを聖堂の外へと導く。その先には……意外なことに農園がある。いや……ダークエルフがいるのなら不思議ではないか。

私たちが農園に入ると、ここで暮らしていると思われるダークエルフたちが集まってくる。


「アズールさま」

「そちらは……」

「遂にお帰りになられて」

ダークエルフたちはラシャに深く頭を垂れる。そして私たちの中にクレアがいることに気が付いたようだ。


「本当に……生きてっ」

「外のダークエルフたちは……もう、いないんだもんね」


「アリーシャ……どうして」

「白昼夢の中でアビスが教えてくれたの。クレアがお姫さまの子孫だってことも、アズールやシルワたちが見せてくれたよ」

「そう……アビスさまも、世界樹たちも……」

クレアが感極まっている。


「ありがとう、アリーシャ。とてもとても昔のことだけど……でも、数百年会えなかった同胞を見付けられて嬉しいわ」

クレアの話を聞き、ダークエルフのみなさんも『苦労したね』とクレアを慰めていた。彼らも700年もここを守ってきたと言うのに。それでも……白昼の地はこんなにも優しい世界だ。



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