【4】旅立ち
暗闇大陸へ向かう仲間を得て、私たちは牢屋の裏口へと向かう。さすがに表から……は無理なようだ。
そして出口を抜ければそこにいたのは。
「皇太子殿下」
「無事に同行者を見付けられたようで何よりだ」
2人を供にすることがまるで分かっていたかのように笑む。
「2人への恩赦についてはもう許可が降りている」
つまり同行する候補は最初からこの2人だったようだ。そもそもが暗闇大陸に行くことに恐れを抱いていないのはこの2人くらいだろう。看守たちでさえ恐れるその場所に。
少なくとも皇太子は私を暗闇大陸で殺そうだなどとは思っていないだろう。生きて、暗闇大陸に行くことを望んでいる。それはどうして?皇女として暗闇大陸を治める必要があるからだろうか。しかしそこには何か想像もできない理由があるようにも思えるのだ。
「護送馬車の準備ならできている。一応場所が場所だ。皇族用の豪華な馬車とはいかない」
さすがにそんなのは望んでいない。行きでさえ普通に王城でタクシー代わりに使われている馬車。高価なものでも何でもない。
「大丈夫です。安全第一ですから!」
「……ふぅん、そうか。やはりアリーシャは面白い」
そうかな……?前世では大事よ?安全第一。この世界でだって魔物との戦いや工事なんかも普通にある。むしろ前世以上に安全第一だ。
「護送馬車は囚人を逃がさないため……と言うのもあるが、その心配はなさそうだ」
皇太子は2人を見る。どうやらあれは2人以外のものが立候補しないようにと言う牽制だったようだ。いや、立候補したら本気を出したかもしれないが。
そうして案内された馬車は荷台部分が柵に覆われた頑丈なもので、外を見る窓もない。しかし中は椅子しかないが意外と広々としている。
3人なら余裕で座れるわね。
馬車に乗り込めば扉が閉ざされ馬車が走り出す。
「座席はちょっと固いけど、案外過ごしやすいかも」
「あのな、姫さん。普通は左右の長椅子に囚人がぎゅうぎゅう詰めで詰められんだぞ」
「……へっ!?」
確かに前世でもアニメや何かで見たかも!
ああいう感じなんだ。
「……俺はひとりだったが」
「ラシャ?」
「でも拘束具やらたくさんつけられたから窮屈だった」
ある意味……ね。てか拘束具って……。見た感じもしゃべった感じもラシャはまるで危険そうには見えないのだが。
「でも、暗闇大陸って結局どんなところ何だろう。ラシャは暗闇大陸から来たんでしょう?」
「さて……俺が大陸を離れてからはどうなったのか見当もつかない」
「どう言うこと……?」
「監獄にいる間も、ジェームスのような酔狂な人間はいくつかいた。彼らが言うにはあそこは暗闇に閉ざされ恐ろしい魔物が跋扈する魔境だそうだ」
いや、ジェームスみたいなって。
「でもジェームスはどこからそんなことを聞いたの?」
「噂ってのは回ってくるもんだ。どこから回って来たのか、真実なのかは分からない。だが実際に帝国が【暗闇大陸】と名付けたのならそこは本当の暗闇か、もしくは恐ろしいと植え付けるためのフェイクか分からない。だが大罪人が流される流刑地に変わりはない」
「つまりは恐ろしい場所……か」
そう呟くラシャはどこか悲しげだった。
「あとどのくらいで着くんだろう」
「一晩」
「え、近くない!?」
世界の果てとかにあるんじゃないの!?名称的にラスボスステージじゃない!
「罪人の護送のために専用の転移ポータルを使うんだよ」
そんなものがあったことすら知らない。しかし魔法のある世界だ。あり得ないことじゃない。
もしかしたら兄さまたちもそうやって与えられた国に行くのかも。そうでなくては広大な帝国だ。各地への行き来も大変だろう。
「魔力やら魔石やらコストはかかるが、確実な護送のためなら仕方がないんだろうさ」
そうまでして暗闇大陸に確実に送らなくてはならない。それは安全のためもあるのだろうが、何故だか気になる。
「けれど転移した後は、大陸へ渡る橋へは暫くかかるんだったか」
とラシャ。
「そうだな。暗闇大陸に入れば出てこられないと言われるが万が一のため。それから無関係の者たちが出入りしないように検問や砦が敷かれてんだ」
そのために時間がかかると言うことだ。
「寝ていてもいいぞ。あちらに着けば寝ている時間があるとは限らない」
まさに未知の土地。不安も渦を巻くように押し寄せる。同時にまだ見ぬ地への興奮と探究心も相成って、寝られるかどうか。
しかし身体は幼女。何だか疲れてきた。
「大陸と言ったって、どのくらいの広さなんだか」
「さて……大陸の中を行き来はしていたが全貌を見てきたわけじゃない」
ジェームスとラシャの会話が次第に遠くなっていく。
「……神の、……が」
「六……」
「今は……なってるか……」
あまり、聞き取れなくなってきた。うとうととジェームスに身体を預けながら、私は知らぬ間に寝落ちてしまっていた。