【37】キアヴェの事情
朝陽が昇り、陽が沈む。そんな当たり前の日常が大陸に降り注いだのは約700年ぶりだ。
まだ最上層が残っているから油断はできないのだけど。それでも激闘を勝ち抜いたみんなにはゆっくりと休養を取ってもらっている。
「特に温泉は大人気。下層でも作りたいって声があるんだって」
「確かに疲れはとれるかもなぁ」
ラシャと何気ない会話をしつつも、私もお手伝い。タオルを畳んだりお使いをこなしたりと簡単なものだが。こうしてラシャたちも様子を見に来てくれる。
「魔族のみなさんはどう?」
「温泉は気に入ったらしい。キハダのやつが温泉に対して熱弁してたからな」
やっぱり同じ元日本人だから分かる。お風呂、暖かい湯船、温泉最高。
「黎明の地にも少しずつ戻ってるんだよね」
「ああ。洗脳も解けて今は旧友をあたためあったり、元の生活に戻れるよう復興作業中」
魔族のみなさんの中にはラシャと顔を合わせ涙を流しているひともいた。地底種やキハダさんも知り合いらしく再会を喜んでいた。
「あれ……生き残った魔族たちはあそこに集められていたのに、どうしてキハダさんだけ……?」
「アイツは世界樹の番人だ。連れていかれたら困るからせめてアイツだけでも隠したんだろうさ。それに気が付かず、封印の扉も閉じられた。けどそのお陰で助かった部分も多い」
「そうだね。森の精たちもかわいいもん」
世界樹の階層に避難していたひとたちも戻ってきたが相変わらずこちらはある意味危険だからとあちらにいるのだ。
「そうだ……それとアリーシャ。みんなもだいぶ落ち着いてきたところだ」
ゲートがあるから出入りは自由自在で夕暮れの地や宵闇の地の住民たちも好きに行き来できるし物資の交換やら、復興作業への人手も協力し合っている。
「シャムスのところに行こうか」
「そうだね。最上層のことも聞きたいもの」
ラシャに頷き、午後はお手伝いを中断しシャムスが隔離されている部屋へと向かう。一応悪いことをしちゃった反省中と言うこともあるし、本人も少しひとりになりたいってところがあるらしい。
向かっている途中、地底種たちを見かける。レキとキアヴェ、数人の地底種たちだ。
「どうしよう……もう何日もアリーシャの顔をまともに見てない」
とキアヴェ。そう言えば最近姿を見せていない。ラシャは平気だと言っていたけど、どこか調子が悪いのかな。
「緊急事態だったとはいえ……手だけじゃなく、ぎゅむーまでしてしまった!わ……私はイエス、ロリコン教団の教祖を引退する!」
そう言えばキアヴェもロリコンだったっけ。むしろそれならいっそのこと教団を解体してくれないかな?
「そんなっ、非常事態だったのですから誰もキアヴェさまを責めませんよ」
とレキ。
「むしろ幼女の健やかなる成長を守ることこそ我らの種の存在意義!」
「そうですよ!」
ほかの地底種たちが援護する。いや地底種の存在意義って最強の捕食者では。でも今は違うのだから別の……。いや、それだとロリコン教団しか出てこない!
「別に私怒ってないよ?むしろありがとう」
そうキアヴェに告げれば、キアヴェはピタリと固まったのち【ツーッ】と鼻血を出しぶっ倒れた。
「キアヴェさまが幼女萌えされましたね。幸せそうなので暫くこのままにしておきましょう」
とレキ。
――――いや、幼女萌えって。




