【32】夜明けの雪原
夕闇から闇に包まれたこの大陸で初めて夜明けと言うものを見た。ほんの少し空の向こう側が白んでいる。そう、雪明かりの地の上には空がある。まっ黒な夜空だが月が輝くのは月神の力か、アビスの加護か。
「寒くない?アリーシャ」
「うん、クレア」
私たちは外套に身を包む。前衛は動きやすさを加味すればそうは行かず装備や動きやすい短めの防寒具で身を包む。私たちは後方にいるが、前衛を守る彼らとそしてバリケードに守られている。けど、私も彼らを守るために頑張らなくちゃ。
それからぐぅちゃんも巨大化してバリケードの前にスタンバイしてくれている。
「主がメインシステムを立ち上げ、最初のゲートを開けば私の封印も解ける。この地は闇を剥がし黎明に照らされる。それが合図だよ」
「キアヴェ……その、大丈夫かな」
「私も手助けをしよう。かつての聖女が示した道を」
そう言うとキアヴェの手が私の手に重なる。
それと同時に空がぐぐっと白み、決戦の時が開ける。
響くのは恐ろしげな獣の咆哮、戦士たちの雄叫び、悲鳴。いや……恐くない。
恐がっちゃダメだ。前世は平和な国で育ったけどその年数分、きっと私を強くしてくれる。
「落ち着いて」
キアヴェの告げた通り深呼吸をする。
「聖女の力を込めて」
両掌に温かい光が灯る。
「それを……地脈に向かって、そっと」
地脈がどこかは分からないが地面に両掌を向ければキアヴェが導いてくれた気がした。
「これから、味方に回復フィールドを展開する。味方のHPや外傷が一定で回復するが回復した分聖女の負担は増える」
「苦しくなったら無理はしないで。すぐにエルフの子たちも来る。聖女が倒れたらこの手はもう使えない」
「分かった、クレア!」
せめてそれまでは……持ちこたえて。
※※※
――――side:ラシャ
遺跡のメインシステムを立ち上げる。俺の魔力を流し込めばそれは既に起動した。
「よし、まずは夕暮れの地にゲートを……」
しかしその時だった。
「システムエラー!?」
全てが停止前の状態で保存されていたはずの遺跡が……そんな。しかしメインシステムを立ち上げれば自ずと二柱の六神が俺の魔力を探知する。
メンテナンスなんてものも立ち上げなければできないほど遺跡は休眠していたのだ。
「魔神はともかく黎明のは……確実に俺を殺しに来る!そうなれば増援を得られずに負ける」
俺が即座に戦線に向かわなければいけないのもそれが理由だ。あちらにはまだアビスとキアヴェがいる。
急いで配線や破損箇所を確認し、ゲートシステムを稼働させる。
「早く、夕暮れと宵闇に……」
ゲートを開くよう信号を送る。
――――しかしその時。
「捉えたぞ、憎き魔王」
この世界で最も俺を憎む声が響いた。




