【27】六神キアヴェ
遺跡と言うよりも無人のSF空間を進んでいけば、不意に暗闇で閉ざされた部屋に足を踏み入れる。
そこには月光のような優しい光に照らされた青年がいる。姿は地底種であるがレキたちとは違い髪も肌も抜けるように白い。私たちが目の前に立てば、彼は橙色の瞳をゆっくりと開いた。
「ようこそ……我が主。あなたを待っていた」
「ああ、キアヴェ。待たせたな」
「ええ。我が主がこの地に足を踏み入れてからずっとずっと……心待にしていた。それに……冥界の長のお気に入りとは」
キアヴェはラシャの隣の私を見る。
「キアヴェは月神。冥界の神のシンボルを司る神だ」
だからこそそれを知っていたのだろうか。
「会いに来てくれて嬉しいよ」
そう告げてふんわりと微笑む。
彼はアミナスと同じく平静を保っている六神だ。
「しかしここに来たと言うことは遺跡の封印を解くと言うことだね」
「そうなる」
「ならば主、封印を解けば各階層への行き来が容易になる」
「ああ。かつて魔王国の民はそうやって誰でも行き来ができた。これも暗闇大陸を元に戻すため。そして最上層に行くためでもある」
「けれど同時に最上層も下層に下る。白昼は黎明を下層に向かわせるだろう。さらには主が暗闇大陸に帰還したのなら外界に懸念するものは何もない。白昼は……魔神は今度こそ世界を滅ぼすよ」
魔神……?一番上にいる六神とはまるで魔族の神のような名である。
「まずは黎明を差し向けてくるだろう。最上層に行くにはまず黎明を止めなければならない」
「止めるって……今までみたいにラシャが説得するんじゃダメなのかな」
「アイツは……魔王についてきたわけじゃない」
え……?
「黎明は魔神についてきた」
「魔神がここにいるからこそ、黎明は大人しくしていた。しかし魔神が荒ぶり世界を滅ぼそうとするのならそれに従う。それと……」
「キアヴェ……?」
「魔神は主を求めている。主さえ手に入ればそれでいい。だが黎明は違う」
「アイツは……きっと魔神の一番になりたいだろうな」
うん……?まさかとは思うけどこれって……。
「黎明はラシャさまに猛烈な嫉妬を抱いている」
キハダさんが告げる。あ……だからこそ……ヤンデレでブラコン。
「つまり勝たねばならない」
キアヴェが重々しい口調で告げる。でなければラシャも、私たちも……それから世界すら滅ぶ。
「黎明の地に大量の魔核が生じたのを感じた」
「魔物が生まれたってことか」
「おい、ラシャ。それって……」
「あの闇属性の魔物か!?」
ジェームスもジェシーもその恐ろしさを知っている。あれが大量に来るってこと!?
「アリーシャは光属性。しかし治癒向きだ。戦闘用の光魔法の使い手は勇者」
つまり勇者が生まれない世界では大多数を相手には勝てない……?
「魔核を破壊するにしても同時に何人とも視覚を共有するのは……」
「地底種はスキルが異なりますし俺が加わってもそう長く視覚を共有することはできません」
とキハダさん。
「アビスの力を借りるんだ。アビスなら生き物の急所を見破れるしそれを明らかにできる」
「視覚を共有しなくても見えるようになるのか」
「そうだよ、主。それからアーベンも呼んだ方がいい。仮に神を縛れるとしたらアーベンだけだ」
「アイツは裁神だから、創世神の決めた理に反するのなら拘束や足止めができる。しかしアーベンだけじゃ黎明は倒せないだろう」
「そこは五柱目。我らが長が手をお持ちだ」
「最後は冥界の長頼みになるってことだ」
「しかし足りない。それだけでは圧倒的に足りない。アミナスの破壊の力は暗闇大陸では使えない。それどころか世界が逆に滅んでしまう。我ら六神のほかに戦うものたちが必要だ」
「まさか……それって」
「そうだ。アリーシャよ。この暗闇大陸で生き延びてきた彼らなら……何よりも心強い味方となろう」
「ま、戦わなきゃどのみち世界が滅ぶんだろ?」
「ならやるしかない」
「そうね。私も賛成よ。地底種たちも外だけど来てくれるかしら」
「ええ、明るいところは苦手ですが世界の危機とあれば地中に引きこもるわけにも参りません。我々も出来る限り戦います。これでも人類の天敵枠でしたので」
とレキも頷いてくれる。
「では世界樹の階層も加わります。後はアビスとアーベンの階層の……」
「そうだな。まずは通信を繋ごう」
キハダさんの言葉にラシャが頷く。
「世界樹の導きを使うこともできるが、大勢では負担がかかるし余力は非戦闘員の避難に使ってもらいたい。増援に使うなら『ゲート』だ」
さっき言っていたゲートか。使えるようになったらあきらかに便利だよね。
そのためにもラシャと向かったのは大きなモニターの前だった。




