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【16】神の懺悔



――――響いた声に激昂するのはアビスである。


「偽物の主どもに荷担すると!?」


『それは違う。私は過度にこの世に干渉できない。あなたはこの世に絶望し私の干渉を拒んだ。できるとすれば、この世に彷徨う亡者たち、転生者』

その瞬間、泉の水面に立つ美女が現れた。

シルバーブロンドに闇を映す瞳。肌は抜けるように白い。


「冥界の長」

ラシャの言葉にハッとする。だから私に声を……?


「転生者?そんなものは……まさかっ」

アビスが私を見る。


『ひとは死せば再び地上に魂を送るために必ず冥界を通る』

「だから私の魂も……?」

『そうね……だけど私はあなたに意地悪をした』

それはなんだろう……?全く思い当たるふしがない。


『あなたの聖なる力を封じたのは私。勇者の魂を欠けさせて勇者として目覚めさせぬようにしたのも私。闇に堕ちたアビスのために……でも、それは何の意味もなかった』

「そ……そんなことないよ!だって長さんは私たちのこと助けてくれたもん!聖なる力だったっけ……多分私がそれを持っていたらここに来られたか分からない」

「聖女として祭り上げられるのは確実だ」

ラシャの言葉にゾクリとする。もしかしたら神殿に囲われジル兄さまとも離ればなれになった。帝国の有力者に嫁がされるために暗闇大陸を与えられることなく囲い込まれたかも。そうしたら……ラシャたちと出会えなかった。ラシャをここに還してあげることができなかった。


『あなたは強くて優しい。異界の記憶を持つ聖女。あなたの暗闇大陸での強さと優しさの行く末を私も見たいと思ったのです』

「うん!私もみんなととってもすごい国にして見せるよ!そしたら……長さんも……」

私が転生者ならまた会えるだろうか。


『私もあなたたち転生者を見守っている。あなたたちがこの世界に吹かせる新たな風はひどく新鮮でどこか心地よい。だから……アビス。あなたの遊戯は終わりです。亡者は冥界へ還りなさい』

そう言うとアンデッドたちが呻きながら消滅していく。さらにその中で見覚えのある顔があった気がするのだが。


『冥界へ還ればその罪を問われ裁かれる。あれも同じ』

その言葉の通り、消滅する瞬間何か見えないものに脅えるように顔がひきつり跡形もなく消えていく。


『さぁ次はアビス、あなたです』

「こんなもの……認められるか!我ら冥界の神々が地上のものどもにどんな仕打ちを受けたか忘れたか!」

もしかしてアビスが邪神となったことに関係している……?


『長命種を羨み不老不死を望む短命種たちが、我らさえいなければと冥界神を悪者にし、死者を弔うことの大切な信仰を忘れ、多くの神々が邪神とされました』

「そうだ!だからこそこれは地上への復讐!そしてやがてこの復讐は暗闇大陸から世界を呑み込む!」

アーベンの言っていた限界。アビスからすれば地上の短命種たちへの怨みと言うことか。


「けれど、忘れてしまったのはあなたもではなくて?」

クレア……?

「貴様……いつの間にか紛れ込んだダークエルフめ」

「私たちは忘れていない。信仰の森はもうない。けれど、だからこそ暗闇大陸に冥界神のあなたがいることは私たちの希望なのよ」


「……ラシャ、もしかしてダークエルフって」

「彼女たちは女神ではなく……いや天界の女神ではなく冥界の女神を祀るんだ。だからこそ悪だと誤解を受けやすい」


「私たちは祖霊に感謝し、彼らが眠る鎮守の森を守っていたのよ」

クレアが寂しげに告げる。


『だからこそ私は信徒を嫌わないでくれたあなたに感謝してる。アリーシャ』

「長さん……っ。嫌うだなんてとんでもない!私はクレアのことが大好きだよ!」

出会ったばかりだけど、いろんなことを知っていて優しくて、大人びたところも。


「……あら、嬉しいわ。ね、森神さま。私はアリーシャの作る国なら大歓迎よ。あなたは興味なぁい?」

クレアはまるで誘うように軽快に告げる。

「……魔族の国を捨てろと」


「違うよ!ラシャと私が結婚して、魔族の国を再興するんだよ。でもね、種族とか関係なくみんなで明るく暮らせる国にするの!」


『私は見てみたい。アビス、あなたはどう?』

「……まだ完全にお前たちを赦したわけではない。だが……嫌ではない」

これってつまり、和解できたってことだよね?


「アイツ、割りとツンデレだろ?」

ラシャがクスクスと笑うとアビスはふんと顔をそらす。


「……これで一件落着ね。でも……ラシャさん。アリーシャと結婚ってどう言うことかしら」

クレアの背後からゴゴゴ……とぐぅちゃんたちの大行進のような地鳴りがした気がした。



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