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【14】宵闇の遊戯



――――これが私の……力?謎の声が告げた力。それはジェームスの傷を治した。


「治癒魔法って……」

「アリーシャは魔法が使えたのか?」

ジェームスとジェシーが驚いている。クレアたちもだ。


「私……魔法が使えたの?ずっと使えないって、言われてて……使えなくて……」

魔力もない出来損ない。ジル兄さまが守ってくれなければ生きてこられなかった。……なのに。


「まさか聖女とか言わないよな」

とジェームス。

そんなまさか。勇者も聖女もおとぎ話の……いや、帝国は勇者の末裔の国。アーベンがそう告げたじゃないか。


「けどまだ小さいんだからほどほどにな」

ラシャが告げる。

ラシャはあまり驚いてなさそう?


「あなたひょっとして、気が付いていたのかしら」

ふとクレアがラシャに問う。


「さて……俺もアリーシャから魔力は感じなかった。なのに治癒魔法が使える……まるであの暗闇の壁のようだ」

「アリーシャの魔力が使えなかったのは六神が関わっていると言うことか?」

とジェシー。


「いや……六神を抑えるのは限界とはいえ外にはまだその力は満ちていない。有り得るとしたら……それ以外の似た力。闇を宿す神……とかな」

「邪神ってことか?」

うん、ジェシーと同じことを私も思った。


「邪神ではない闇の神もいる」

「かつては宵闇もそうだったのよね」

そう告げるクレアの言葉にハッとする。邪神は最初から邪神ではなかったと言うこと?思えば勧善懲悪を司るアーベンだって、どこか邪神っぽくはないのだ。

しかしその推測をするクレアの表情がどことなく憐憫を帯びていたのは気のせいだろうか。


ひとまずジェームスが無害な獣となった肉を裁いてくれて、食事の準備を始める。


「よし、お前たちも飯だ」

そう言うとジェームスやジェシーがクレアたちの縄を解いていく。


「あら、いいの?」

クレアと同様にほかのものたちも驚いているようだ。


「逃げたら今後飯は抜きだ」

ジェームスの迫力にクレア以外のものたちがびくんとなる。


「まぁ逃げたら逃げたで六神が襲ってきても知らねぇぞ」

ラシャがそう告げればみなの表情が固くなる。


「少なくともあなたは彼と話ができる魔族と言うことね」

とクレア。アーベンもラシャに対しては特別な感情を持っていたようだもの。


「そう言うことだ」

にこりと笑うラシャ。ほかのひとびとも何か特別なものを感じ取ったのか不思議な様子でラシャを見る。


「まあ何はともあれ……飯にしようか」

ラシャが告げれば、私もジェシーと一緒にお手伝いだ。途中からクレアも手伝ってくれる。


「……なあ、姉さん。アンタは本当に遊戯の参加者なのか?」

その時ジェームスがクレアにふと問う。


「らしくないって?でも私も罪人よ。罪状は詐欺。男をだまくらかしたってね。こちとら住む森も国籍も失ったってのに身体売ってまで生にしがみついた。けど都合が悪くなれば罪人として島流しよ」

にこり、と微笑むクレアはおよそその話の内容とは不釣り合いだ。けれどその瞳はまるでその現状に負けはしないと言う彼女の強さを帯びている。


「へぇ。遊戯に妙にきれいな姉さんがいると思ったら……俺は盗っ人で捕まったんだ。盗まなきゃ暮らしていけない。混ざりもので働くなんてできるはずもない」

そう告げた男は人間と獣人の混ざりものなのだろう。頭には狐のような耳を持つが尾はない。


「俺は詐欺。騙されて負債を背負わされたんだ。こっちが被害者だってのに。混ざりものだからさ」

「ふぅん、俺は他人に言えないようなことはたくさんしてきたが」

そう答える彼もおとなしくお肉を口に運ぶ。


「へぇ、聞いてやろうか」

とジェームス。いやその、煽ってる!?

「いい。アンタの目ぇみりゃ分かる。でもガキの前だ」

「はは、そりゃぁお互い様だ」

何だか仲良くなってない?しかし彼らが私を見て幼女と驚愕しつつも気を遣ってくれる分には……根は優しいのだろうな。ただそう生きるしかなかっただけで。まだただの幼女だけど、私にもできることはないだろうか。


「そう言えば、クレアも南方の出身だろう?」

ふとジェシーがクレアと会話する声が聞こえてくる。


「ええ。ダークエルフだから南方の森に暮らしていたの。けれど森を奪われ森は消え、私たちの多くは犯罪奴隷となったわ。女は娼婦に、男は鉱山労働者に。もう私たちが帰る国も森もない」

ただそこで暮らしていただけなのに彼女たちは追い出され、奴隷にされてしまうだなんて酷すぎる。ジル兄さまが国主だったのなら絶対にそんなことは許さなかったはずなのに。


「あなたも南部の生まれなのね。何となく分かっていたわ」

「ああ。私も……暮らすことができなくなった。かろうじて残っている獣人族はいるだろうが……あそこにはもう家族も誰もいない」

クレアもジェシーも寂しそうな表情を見せる。


「……クレア、あのね。私が国を作ったら、みんな私の国の国民になる?」


『えっ!?』

一同がぽかんとする。


「私は帝国の第5皇女アリーシャで、暗闇大陸に国を作るためにここに来たの!」

クレアたちになら言ってもいいと思った。

いや、彼女たちを国民にスカウトするのならここで前に出ないでどうする!


「確かにみんな罪を犯したかもしれない。冤罪もそうじゃない罪も。でもこれから真面目に生きていきたいって思っているなら、私がみんなが生きやすい国を作るよ!ね、ラシャ」

「……アリーシャがそう言うのなら賛成だ。俺も監獄に収監されていた身、恩赦を与えられてここまで戻ってきた。ジェームスもジェシーもそうだ。クレアたちも。やり直すチャンスは誰にでもある。魔族は長い時を生きる。だからこそ今、何をするかどう生きるかが一番大事なんだ」

長命種だからこその考え方。でもそれは長命種でも短命種でも変わらず大切なことなのではと思う。


「けど……本当にそんなことが可能なのか」

「そうだ。ここは六神の狩り場だ」

「こう言っちゃなんだが……みなここに来て数ヶ月……それ以上滞在しているのは……」

つまり別の区画に逃げ延びているか丸ごと入れ替わっている。夕暮れの地にはハーフエルフの彼女たちしかいないようだった。だとしたらその奥か……もしくは遊戯で全滅している。


「ルール上は互いに命を賭けさせる。勝利したものは宵闇を楽しませられれば生かされ、そうでなければ神の裁きを浴びる。選択肢には勝利したものしかいない」

とラシャ。つまり敗者は全員……。


「生かされたものがいるかも分からないがな」

少なくともここには誰も証人がいないのだ。


重々しい空気になるその場に、数人が何かを感じたようにハッとする。ジェームスもだ。


「あの、どうか……」

したの?その問いを出しきる前に、ラシャが私を背後に庇う。え……何?

みな立ち上がり不穏な何かに身構える。


――――そしてそれは、現れた。


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