【13】クレアとの出会い
――――ここは既に宵闇の六神の遊戯場だ。
草むらを掻き分け現れた男は獣人のようだがどこか違和感がある。しかしその手には手斧。
「……えっ、何で森に幼女……」
彼は真っ先に私を見て固まった……その隙に。
「くらえやぁっ!」
「ぎゃーっ!?」
ジェームスの急襲に陥落、ジェシーが素早く縛り上げる。因みにロープはハーフエルフたちから分けてもらったものだ。
そして……またひとり。
「え、幼女?」
「隙あり!」
「ぎゃーっ!?」
「何で幼女!?幻覚!?」
「もう一発!」
「どぎゃーっ!?」
「幼女成分ーっ」
「ロリコンは滅べ!」
「無念っ」
「なら私もいいかしら」
そこに混ざってきたのは紫の髪に金色の瞳。褐色の肌。耳は長くいわゆるダークエルフとおぼしき女性だ。え、立候補?
「クレアと言うの。よろしくね」
いや、自己紹介されてしまったのだが、クレアも何らかの罪でここにいるのだろうか。それとも種族を理由にした冤罪か。
「一応縛るが」
「ええ。よろしくね」
彼女のやけにゆったりとした様子にジェシーは拍子抜けしつつもクレアの手首にロープを巻く。
「しっかし……これでいいのか?」
ジェームスがラシャを振り返る。
「ああ。いいぞ。アーベンが昨日告げた遊戯のルールでは互いに命を賭けさせると言ったろう?なら相対して命を奪わず捕らえていたらさすがに遊戯の妨害。宵闇は楽しめない。ならば怒ってやって来るだろう」
「どんだけ広いフィールドかも分からない。ならいっそ誘き寄せようって魂胆か」
「そう言うこと。普通ならトリックスターでも仕掛けてきそうだが、俺がいるなら……来るよ。六神は必ず」
遊戯を面白く転換させるために罠を仕込むのではなく、ほんにんがやって来る。
その言葉に不安そうな表情を浮かべる囚われたものたち。
「ねえ、クレアは宵闇の六神を知ってる?」
そんな中でも相変わらず穏やかな表情を浮かべているクレアに話し掛ける。
「そうね。むしろここにいる罪人たちもみな知っているでしょう。宵闇の六神は森に踏み入れたものに直々に遊戯を説明するのよ。みなこの死の遊戯に強制参加させられ逃げようとも周囲の区画からは追い出される。逃げ場もなく、力なきものは餌食になるのみよ」
「やはり六神ってのは」
彼女の言葉にジェームスがラシャを見る。
「だからこそ本質が邪なんだ。宵闇は最初はそうではなかったはずだが」
それはどういう意味なのだろうか?
「あら、あなたは詳しいの?魔族のお兄さん」
「ラシャでいい。それに俺の方が年下かも知れないぞ」
「あら、長命種同士でも年齢を気にしすぎるのは失礼よ」
と言うことはダークエルフも長命種と言うことだ。
「……」
しかし今まで緩やかに微笑んでいたクレアが途端に真剣な表情に変わる。思えばほかのみんなも!
「ひとではない。あれは……魔物だ」
ラシャの言葉とともに草むらを掻き分け現れたのはどす黒い闇の魔物だ。
「ラシャ、核の場所は!」
「任せろ、今繋げる」
ジェームスの片目が光れば、その瞬間魔物の急所を付くように刃を突き刺す。
断末魔をあげる魔物が崩れ落ち、纏っていた闇が消え失せる。良かった……今回も無事に勝てた。
「あの魔物を」
「倒した……?」
捕縛した彼らがどよめく。
「さすがは魔族ね。六神の邪気を帯びた魔物も倒すなんて」
六神の……?てことはもしかしてあの魔物たちの闇の力は六神が招いたもの?
「俺ひとりじゃ無理だよ。光魔法か物理がなければ。魔族は多属性持ちだが光だけは持たない」
「ダークエルフもだわ。光はエルフか人間に多い。逆もまたしかり。でも……物理で核を壊す作戦で行くなんて。仕留めた彼もすごいわ」
クレアがジェームスを見る。
「だてに修羅場はくぐってねぇよ」
平気そうに告げるジェームス。しかし……あれ?
「ジェームス、腕から血がっ!」
「ああ、これか?魔物の爪にでも引っ掛かれたか……傷は浅い。そのうち止まる」
「でも化膿したら……」
闇を帯びていた魔物の爪。RPGで言ったら実は爪に毒があるとかお約束だもの!
「何か覆うものは……」
ハーフエルフたちに少しなら布をもらってきた。急いで布を充てるが、毒とかないよね?大丈夫だよね。無事に治りますように……と願いを込める。
――――その時だった。
周囲がパアァッと明るくなる。え……どうして?恐る恐る充てていた布を取り去れば、そこには傷ひとつないジェームスの腕があった。
【……れが、あなたの……じょの力】
脳内にまた女性の声が響いた。




