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【11】魔族の王族



――――夕暮れの地に座す六神アーベンは柔和に微笑みラシャを主と呼ぶ。やはりラシャは六神たちと特に関わり深い魔族種だと言うことか。


「久しいな。アーベン」

「ええ。まさか主がご帰還されるとは。しかしここに国とは。帝国は我が主の国を滅ぼしておいて再び皇女を寄越すとは」

帝国が暗闇大陸にあった国を滅ぼした……?ここには元々国があったの!?


「ほかの六神が知れば怒り狂って牙を剥くやもしれません」

アーベンの眼光が私の目を射貫く。

表情は穏やかなのにその眼光は人智の外にあるような桁違いの圧を抱く。


「やめろ。アリーシャに手を出すことは許さない。それはほかの六神たちにも同様だ」

「ならば我らは主の御心に従うのみ」


「……本当にそれだけならいいが。暗闇大陸のこの有り様を見ればそう簡単には行かぬことくらい分かる」


「ふふっ。確かに。恐らくこれより奥の六神たちは……」

アーベンが言葉を濁す。


「……我々の本来の本質があらわになりつつあるのです。主なき我らは主に出会う前の我らでしかないのですよ。女神も手を妬きここから出さないことに必死です」

彼らの本質ってどういう意味……?それから女神さまはこの地上を守る代表的な神である。


「そのための贄か」

にえ……って生け贄!?何故だかとても嫌な予感がする。


「女神は黙認しています。六神をここで大人しくさせるために、我らのうさを晴らせるよう罪人を生け贄として送ることを」

ここはただの流刑地じゃない。元々は六神を大人しくさせるために人間をここに送れれば良かった。ハーフエルフたちのように冤罪でも六神たちがここから出ないようにするための抑止として。


「六神って……何なの?」

疑問として生まれるのはそこである。ラシャも先程言っていた。彼らは救いの神ではない。女神さまがここから出ないようにさせている。六神たちもまたここで大人しくする代わりに生け贄たちを逃がさない。そのための暗闇の壁、夕暮れの地の彼女たち。


「アリーシャ、六神と言うのは……元々は全員邪神とされた世界の異物だ」

邪神……っ!?


「主に寄って理性を保ってきた。だから主を失えば狂う」


「そう。ですが我らは限界です。もう我慢できなくなってしまいそうだ」

そう告げにんまりと口角を吊り上げたアーベンにゾクリと背筋が震える。彼はただの親切な六神なのではない。本質が邪でありその邪の部分が増幅していくような愉悦の笑み。女神さまが黙認してきた世界のシステムが壊れかけようとしている。私がここを与えられたのは偶然だったのだろうか……?


「だが俺が帰ってきた以上、必ずどうにかしてみせる」

「国を作るのですか。魔族の国の再興ではなく、帝国の……勇者の末裔の国を」

勇者?魔族のいる世界にはほぼ勇者や聖女がいる。確か昔ジル兄さまに読んでもらった絵本にもいた……かも。しかし帝国が勇者の末裔の国……?そんなこと初めて知った。


「あ、あのっ」

「アリーシャ?」


「その魔族の国ってここに元々あった国?」

「……そうだよ」

ラシャは悲しげに答える。ひょっとしてあの時のラシャの涙は一度国を失ったからなのではないか。そしてそこに私が国を作ると言ったから。


「その魔族の国はいろんな種族が暮らせる国?」

「魔族以外はそれほど多くはないが、魔族も元々種系が豊かな種族。移住を望むのなら聖女でもダークエルフでも拒みはしない」

聖女……魔族とは正反対すぎる存在なのに。


「それなら……その、全く同じではないけど、再興してみない!?」

「……再興?」


「そうだよ。そうすればラシャの国が帰ってくるよ。そしてみんなの新しい故郷にもなるんだよ。それってすっごく素敵じゃない?」

「アリーシャはそれでいいのか?」


「もちろんだよ!あ……でも」

「どうした?」


「そうなると、私は皇女だから魔族の国の王族のひとと結婚しないといけないの!」

『ぶはっ』

ジェームスとジェシーが盛大に吹き出す。えと……変なこと言ったかな?確かジル兄さまは女性皇族が領地を与えられたら現地の王族と結婚するんだって言ってた。

皇子は奥さんや婚約者がまだいなかったら現地のお姫さまと結婚するんだよね。


「あ……アリーシャにはまだ早いんじゃ……」

「だがジェームス、アリーシャも皇女……いやでも、8歳の幼女……幼女」


「あ、安心して、2人とも!私は皇女だもん!できれば年齢は近い方が嬉しいけど……優しい人なら……」

定年間際の男性が来られても困るけど……いや、だけど皇女の身の上。


「その心配はない」

しかしラシャがそう言ってくる。


「アリーシャの夫になるのはこの俺だ」

「ラシャが……?」

と言うことはラシャは元々の魔族の国の王族にならないだろうか。ぐぅちゃんの主であり六神たちの主。それは王族だったから……。


「アリーシャは嫌か?」

「ううん、嫌じゃないよ!」

ラシャはジル兄さまと同じくらい。私の2倍……だが優しくて強くて頼りになるもの!


「でもよ、ラシャ。魔族って長命種だったよな」

「一応聞くけど、何歳だ?」

ジェームスとジェシーの視線が集中し、さらには武装を解除し遠巻きにこちらを見ていたハーフエルフたちもだ。


「……済まないな。長い監獄生活でもう忘れた」

濁した?いや、忘れるほど監獄にいたと言うこと?


「だ、大丈夫だよ!ラシャはロリコンとかじゃないもの!信頼してるからね!」

「ロリ……ぶほっ」

ラシャが吹いた。


「言っておくが……成人前に手ぇだしたら承知しねぇぞ」

ジェームスが武器を構える。ええと、喧嘩ではないのだが……何だかジェームスの凄味が増している。


「……これを、持っていってくれ」

そして何故かハーフエルフたちが装備品や武器、物資を分けてくれる。


「良かったですね、我が主。次の目的地は宵闇。危険も多少伴うので魔族ではない彼らには装備は必須でしょう」

「……そうだな。だが……その過程が納得いかない」

そうかな?私は彼女たちと少し仲良くなれたかなと思ったのだが。しかし次の宵闇の地。果たしてそこでは何が待ち構えているのだろうか。



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