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【1】幼女は暗闇を恐れない



――――世界のほぼ全てを統治下に置く帝国。その帝国には5人の皇子と5人の皇女がいる。

帝国は皇族を8つの属国に派遣し現地の王族と婚姻し統治させることで、その勢力を確固たるものにしていた。


そしてその日、一番下の第5皇女が8つになった年。皇帝は皇太子以外の皇子皇女たちに国を与えた。


――――しかしながら国は8つ。第5皇女の分がひとつ足りなかった。


そこで皇女が与えられたのは……。


「第5皇女アリーシャには暗闇大陸を与える」

暗闇大陸……っ!?名前は恐ろしげなのに、どうしてだろう。この魂に刻まれた何かが激しく高揚する……!


「あの暗闇大陸へ?」

「流刑地じゃないの!」

「ひとりだけ国ですらないなんて、お笑いものだな!」

しかしながら私の壮大なロマンを横から邪魔するのはケラケラと笑う年上の皇女や皇子たち。私の淡い水色の髪や珍しいピンクの瞳をいつも笑ってくるから、幼女はもはやそんなものには動じない。しかしながら私が相手にしないことで面白くなさそうに諦める前に、皇太子に睨まれ慌ててその口を塞ぐ。皇帝の前でその態度は……さぞ図太い為政者になりそうなことで。そんなことよりも……まずは。


「暗闇大陸……何だかカッコいいです!」

先程流刑地だの何だのきな臭い言葉が聞こえた気はするが、RPGで言えばまるで最後のトリとか盛り上がりところで導入される冒険心をくすぐる名だ。そう、私アリーシャはただの8歳ではない。私は転生者であった。ならば暗闇大陸と聞いて思い描くのはひとつ……転生者冥利に尽きる壮大な冒険の予感だ!


「……ふっ、面白い」

その時そう漏らした皇太子アレックスに驚く。今まで話したこともない雲の上の相手。プラチナブロンドにアメジストの瞳を細めた皇太子がにこりと笑む。


「だが、暗闇大陸は罪人も脅える恐怖の流刑地。そのような流刑地に同行する騎士も侍女もいないだろう。そんなところに共に来いと言われたら一緒に死ねと言っているようなもの」

そんなに……危険なところなんだ。私も皇女だから侍女や騎士はいる。しかし私に仕えているわけではない。私の同母の兄さまが命じるから仕えているだけ。彼ら彼女らも兄さまと行きたいに決まっている。

私の兄さま……第4皇子ジルは悔しげに俯く。ここで皇帝に歯向かったら私もろとも……いや自分に従うものたちも謀反として殺されてしまうかもしれない。兄さまの判断は正しい。私も兄さまが死ぬのは嫌だ。


「なら、流刑地に向かう罪人はどうです?」

「ほう……罪人を供につけると」

その言葉に嘲笑を浮かべるのは私をライバル視する第4皇女のビビアンや皇后の息子だって言うだけで私を見下す第5皇子ロン。皇太子とはえらい違いね。


「それならば……」

皇太子は皇帝と何か話をしているようだ。


「では、アリーシャ。お前に同行する罪人には恩赦を与えよう。しかし暗闇大陸から逃げ出した罪人はその場で処刑する」

つまりその恐怖の流刑地には必ず連れていかないといけない。温情で釈放のために連れていき暗闇大陸に入る前に逃がす……なんてことはできない。

それはもしかしたら私を利用して、危害を加えることで不正に逃げようとする罪人を抑止するかのようだ。


「分かりました。私は……私に付いて来てくれる供のものを選びます!」


「そんなもの……いるわけがない」

ビビアンが鼻で笑う。


「ではお前は陛下の意思に反すると?それでは夢の国に行く前にお前を反逆者として処刑することになる」

皇太子の容赦のない言葉にビビアンがサアアッと顔を青くして俯く。ええと……ビビアンがもらったのは花が溢れる美しい王子さまのいる国……だったっけ。私はお伽話のような国よりも冒険心をくすぐられる暗闇大陸の方が楽しみだわ!


「出発の準備は各々進めることとなる。アリーシャも供のものを選び早速暗闇大陸へと出発するがいい。あそこには護送走路がある。行きだけは送りが出る」

うーん、なら行く方法は問題ないわね。

こうしてそれぞれの国と、私だけ大陸を与えられ皇子皇女たちは皇帝の前から退出する。


そして玉座の間から出るなり私に駆け寄ってきたのはジル兄さまだ。


「すまない、アリーシャ」

「……ジル兄さま」

そして私をぎうっと抱き締めてくれる。いつも私に愛情を注いでくれるのはジル兄さまだけだ。兄さまの命で私の周りにいる家臣たちは兄さまの命だからと仕方なしに私の側にいるだけ。本当はみんな兄さまと行きたいのだ。たとえ兄さまの与えられた領地がハズレだと言われる砂漠の国であろうと。彼らが選ぶのは兄さまだから。武術のスキルも魔力もなく、魔物と戦う力もなく、ただ幼いだけの私よりも人格者である程度の功績を得ている兄さまを選ぶのは当然だ。


「本当なら8歳のお前をひとりで……それも暗闇大陸になどと」

「いいんです。兄さま。兄さまは正しいです。兄さまは兄さまを慕う家臣たちや兄さまが治める砂漠の国チェリクの民を救ったのですよ」

たとえハズレと言われる国でも、過酷な環境であっても。兄さまが統治するのならば、救われる民がたくさんいる。


「兄さま。私は皇族です。皇女なんです。だからその務めを果たして参ります」

「アリーシャ……」


「だからそんな顔をしないでください。いつかきっと、砂漠の国を緑溢れる国にしてくださると信じています」

「……それは」


「それから……砂漠で採れるメロンはとても美味しいそうですよ」

前世何かの教科書に書いてあった気がする。砂漠の国でメロンを育てる話だ。


「では、私も準備がありますので」

ぺこりと礼をすれば、私に厳しい目を向ける兄さまの騎士たちの表情が目には入る。彼らの中の英雄の弱点である私は……彼らには不要なのだ。兄さまが彼らの英雄であるために。

むしろ暗闇大陸で死ねばいいと思っているのだろうか。実質、死にに行くもの。

兄さまのことは好きだし生き延びてほしい。だが彼らのために死にに行くのはやっぱり何かムカつくのよ。せっかく暗闇大陸に行けるんだ。いっそのことそこに私の国を作るのだ。


そのためにはまずは同行者。王城の牢屋に向かうのよ。私が踵を返して走り去る。兄さまが手を伸ばした気がするが、側近がそれを止めたことくらいは分かった。いいもの。私は私で、取って置きの側近……そうね、国民第1号を見付けるんだから!

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