第95話
魔法陣に飛び込んだニムファは、闇の中を漂っていた。
巨狼の牙を脱し、グレシオフィの砦に移転するはずが、いつまで経っても闇から抜け出せない。正しく魔法陣が発動したのならば瞬時に移動は完了し、闇を漂うなどということは起こり得ないはずだった。
このまま闇に飲み込まれ、二度と現実世界に戻れないのではないかという恐怖に、ニムファは苛まれ続けていた。
その恐怖の中で、ニムファは全てに対し怨嗟の呪詛を吐き散らしている。
何もかもが思い通りにならなかった。このような境遇に落とされたことへの、全世界に対する怨嗟がニムファの中に渦巻いていた。何から何まで、自分に敵意を持っているとしか、ニムファには思えなくなっていた。
唐突に、闇の中に鈍く光る球体が現れ、ニムファに接近してきた。
球体は闇に浮遊し、ニムファの周囲を漂っている。やがて球体は明滅を繰り返しながら変形を始め、人様の姿となってニムファの前で静止した。しかし、その頭部には二本の角を有し、両肩の背後には巨大な翼を広げている。相貌は角を備えることに違和感のない草食獣のそれであり、両腕こそ人間と同じではあるが、下肢は相貌に釣り合う蹄を持つ草食獣のものだった。
だが、とてつもない違和感を、踵がない両足は醸し出していた。
「あなた様は、神、様?」
自室にあった神像を思いだし、ニムファは黒山羊の頭を持つ異形に問いかけた。
「我はそなたらが崇める者
ニムファよ、そなたは何と戦う?」
低い声が答えた。
「私は、私の生きたいように生きたかっただけにございます。
それを、誰もが邪魔立てし、私を、女王たる私を蔑ろにっ!
私は、私を蔑ろにした者を赦しとうございません!
私に楯突く全てを打ちのめし、平伏させ、全世界を我が物に!
どうか、私に今以上の力を、力をお与えくださいまし!」
幼い頃は、全てが思い通りだった。
蝶よ花よと育てられ、人の命以外であれば、欲しいと思った物は全て手に入ってきた。
それがいつからだろう。慎ましく、控え目であることが求められ始め、欲しい物は最低限の物に抑えられ始めた。何かを言えばすぐ手に入るが、決まって両親から叱責された。やりたいことも我慢させられ、玉座の横に控え、笑みを絶やさないことを求められた。巡幸の合間に垣間見る庶民の子供たちが、道具は粗末でも楽しそうに遊ぶ姿が羨ましかった。
両親に遊びに行きたいと訴えても、立場を弁えろと一言で切り捨てられていた。
もちろん、ニムファだけが特別厳しく育てられたわけではない。
ラシアスに限らず、どの王家も同じようなものだ。王や王族の一言や無配慮な仕草一つで、使用人の首が物理的に飛ぶ世界だ。何かを欲しがり入手できなければ、食事が口に合わず僅かでも顔をしかめれば、担当者が次の朝を迎えることはない。
それ故、王族には厳しい自制心が要求され、分別がつき始める年齢に達すると、まずそこから徹底的に叩き込まれるのだった。
国のため、民のため、王家のため。
全てが自分以外のためとされ、望みも夢も通り過ぎていく。幼心に刷り込まれた次期女王としての自覚が、ニムファの心を徐々に、当人すら気付かないうちに歪ませていった。家臣に気遣い、民を思いやる、慎み深い王女という評判が南大陸に広まるにつれ、自分を抑え、個を殺し、全てを諦めなければならなかった。
私は違うと叫ぶ自分の存在は、少しずつ心の中に育っていた。
最北の地に魔王が降臨したと聞かされたとき、勇者を召喚しようと思い立ったのは、純粋に民を想う心からだったと今でも信じている。
だが、魔王を滅したあと、勇者と契り合えば世界が手にはいると、考えていなかったとは言い切れなかった。魔王すら倒せる勇者の力を以ってすれば、世界を手中に収めるなど雑作もない。そう考えていなかったとは言い切れなかった。いや、それを望んでいた。そうなれば、何かを誰かに望む必要などなくなる。全てが自分のものだからだ。
だがそれは、自身が新たな魔王となるということに、ニムファは気付いていなかった。
「そなたは、我に何を望む?
全ての生きとし生けるものの殺戮か?
この世の破壊か?」
感情というものを、一切感じさせない瞳がニムファに問いかける。
「力を。
誰にも負けない力を!
私の前に全てが平伏す力をっ!」
ニムファが叫んだ。
「ほう、力か?
我に願えば、そなたの手を汚すことなくこの世を滅ぼせるものを。
そなたは力を望むか?」
それまで感情が表れることがなかった瞳に、興味深そうな光が浮かんだ。
「私を、私を蔑ろになどさせない。
全ての民が、私の前に平伏す力をお与えください!
永遠に、この世界に君臨できる力を、私にお与えくださいっ!」
ニムファの両目から血の涙が滴っている。
怨みを晴らしたい、全てを己がものとしたい、永遠に君臨し、褒め称えられたい。ニムファは満たされなかった想いを吐き出していた。それは、純粋な欲望の塊だった。
「面白い。
これは、面白い。
そなたに力を与えよう。
これからは、我の力を以って、そなたの思い通りにするが良い。
陽の光を恐れる必要もない。
そなたと共に、絶望を喰らい尽くそうぞ」
黒山羊の頭を持つ異形が腕を一振りする。
ニムファを赤い光が包み込み、全身に力が漲っていくのが感じられ、異形の姿が朧になり、ニムファの意識が止みに包まれていく。
――精霊にだけは気を付けろ。我を封じることが能う者は精霊のみ。
闇が意識を包み込む寸前に異形の言葉が脳裏に響き、その直後ニムファの意識は暗転した。
「あ~びっくりしたわ、本当に。
でも、一回くらい死んでみるもんね、あなたが号泣するところなんて、めったに見られるもんじゃないもの」
ラーニャにある仮住居の一室で、他人事のようにティアが言った。
蘇生が成ったからこそ言えることではあるが、それにしても軽い物言いだった。
「ティア、それを言ってくれるな。
一世一代の不覚。
恥だっ!」
床に手を付かんばかりの落ち込みようで、バードンが呻く。
「あのときの、バードンさんの取り乱し様といったら。
もう見てらんなかったよね、ルティ」
ティアの口調につられたように、アービィが応じた。
「狼、言うなぁっ!」
アービィの茶化しにバードンは跳ね起き、怒気を孕んで剣を抜いて突き付ける。
アービィは脱兎の如く切っ先を逃れ、そのままルティの影に隠れた。
「あんまりからかわないの、二人とも。
生き返れたから良いようなものの、あたしが呪文をしくじっていたらと思うと、今でも冷や汗が出ちゃいそうなんだから」
最も精神力をすり減らしたであろうルティが、アービィを小突きながら窘める。
その物言いは随分と軽いものだったが、ルティだけでなく、アービィもティアも、バードンも表情は冴えない。石化し、消滅してしまった少女のことを思うと、心が重くなってしまう。無理矢理明るく振る舞っているようにしか見えなかった。
アービィたちは当初の計画を大きく変更し、ラーニャに留まっていた。
元々、今回は偵察だけに留めるはずだった。だが、ティアを蘇生させたあと、巨狼が押し寄せてきた不死者を殲滅してしまい、結果的にラーニャは陥落してしまった。ウェンディロフとニムファの暴虐に辟易としていた生者たちが、不死者による支配そのものに疑問を抱いてしまったこともあり、不死者によるくびきが外れたことで、ラーニャを守っていた生者が全員投降してきたのだった。
そこで大きな問題が持ち上がった。
投降してきた生者たちは捕虜として扱うしかないのだが、アービィたちだけでは管理しきれない。
最北の民がラーニャ奪回に動いたとき、捕虜たちの動向まで気を配る余裕はないからだ。恭順を誓うと言われても、簡単に信じるわけにもいかなかった。状況を察知したエンドラーズと十人のピラムの民が応援に駆けつけていたが、正式な軍務の訓練や教練を受けていないアービィたちでは、緊急時に捕虜を管理するなど無理な相談だった。たとえ最北の蛮族が襲ってこなくとも、食糧の配給、捕虜たちの健康管理、精神的なケア、慰撫、果ては屋舎の整理整頓までを含めた管理と、やらなければならないことが多すぎる。
結局、投降してきた生者たちは、補給部隊に託してターバへ送り届けるしか方法がないのだ。
幸いなことに、ラーニャに配置された生者たちの冬篭もりのため、備蓄してあった食糧にはかなりの余裕があった。
百人からの備蓄量は、ターバまでの道中、生者と補給部隊の糧秣として運び出しても、アービィたち五人であれば冬の間喰うに困らないほどだった。さらに、食料の生産者がいなくなったとはいえ、畑には収穫を待つ作物も残されている。河川を輸送に使えない現状では大部隊を展開させることは無理であっても、アービィたちがラーニャに留まることは不可能ではない。だが、アービィたちまで撤収してしまっては、今回の戦訓を鑑み、ラーニャが要塞化される危険性があり、そうなっては再度の攻略が困難になる。百名からの生者が、一気に失われたのだ。最北の地に残された生者の人数は多くなく、そう簡単に生者の戦力は再編できない。合成魔獣や不死者だけの襲来であれば、却ってアービィが獣化していれば対処が容易だ。
そのためにも、アービィたちはラーニャに留まる必要があったのだ。
そして、当初の規定から大きく外れ、全体の計画で修正しなければならなくなった点はそれだけではない。
まず、シャーラ以北に進出する予定のなかった補給部隊をラーニャに呼び寄せ、捕虜となった生者たちの後送護衛と糧秣輸送の人手を確保しなければならない。そして、シャーラに残る神官たちとピラムの民も、ラーニャに進出する。片道分の食料だけを、それも自分たちの分だけ持ってくれば良いので、輸送部隊や神官たち、ピラムの民のラーニャ到着は、通常の行軍より早く八日程度と見積もられていた。ラーニャとシャーラ間の連絡は、エンドラーズと神官たちの精霊を介した交感が常時繋がっているため、数秒のラグもなく可能だった。このおかげで輸送部隊の指揮官は、状況の変動に即応することができた。
臨時にラーニャまでの輸送部隊を編成し、残っているピラムの民を帯同し、その日の内にシャーラを発っていた。
後送輸送部隊が到着するまで、アービィたちと先発していたピラムの民は、捕虜となった生者たちと積極的に情報を得ようと努力していた。
ピラムの民も、今回の任務は一人でも多くの協力者を作り出すことであると理解しているため、過去の経緯に囚われず、虐げられてきた怨みや怒りを抑え、捕虜たちに間に分け入っていくことができたのだった。もちろん、勝者と敗者という立場の違いがピラムの民に優越感を覚えさせ、鷹揚に振る舞うことを可能にさせていた。さらには戦後処理で優位な立場を確保しようという、打算があったことも確かだった。
しかし、たとえ打算があるにせよ、ピラムの民の働きが大きく戦局に寄与することは間違いない。
不死者を殲滅した直後から、ルティは投降してきた生者に、何故ターバにいるはずの少女がラーニャにいて、石と化していたのか聞いて回っていた。
この事情を知りたい。知ってどうなるわけでもないのだが、知らずにはいられなかった。ターバで捕虜となっていた最北の民から六人が選抜され、グレシオフィに付き従う生者の離反工作に派遣されるという噂は、アービィたちも事実確認はしていないが聞き及んでいる。しかし、捕虜たちの指導者を含め、派遣された者たちは全て大人であろうとアービィたちは考えていた。そのような危険な任務に、少女を担ぎ出すことはないと思われたからだった。しかし、現実には少女は砕かれた石となってそこにいた。ピラムの民にとっても、少女たちを襲った悲劇は他人事ではない。下手をすれば明日は我が身だ。
ルティの思惑とは別に、ピラムの民も捕虜たちを襲った悲劇について、積極的に聞いて回っていた。
少女を含む捕虜たちは、アービィたちがシャーラに結界を敷設する間に追い越し、ラーニャに到達していた。
ラーニャに配置されていた生者たちも、ターバを奪い返されたことは当然承知しており、その際に彼らが殺されていなければ奴隷として使役されているものと認識していた。それがラーニャに独力で辿り着いたのだ。確かに出立時より人数は減っているが、戦闘があったのであれば人員の損耗も不思議ではなかった。しかし、よく見なくとも、誰もが血色も良く、使役されていれば当然肉体に刻み込まれる疲弊など、欠片も感じさせなかった。明らかに、優遇とはいかないまでも、虐待されていたようには見えない。ターバ陥落の際に捕らわれ、捕虜として拘禁されていたとはいえ、北の民の常識では考えられない健康状態だった。
それが脱走し、最北の地へと逃れてきたという。
訝しむ気持ちを抑え、ラーニャに配置されていた生者の責任者は彼らを迎え入れた。
敵の間者と成り果てている危険性は充分に注意し、破壊工作や生者の殺害、不死者の灰化等の敵対行為を防ぐため、行動は制限し常時誰かしらの監視を付けることにしていた。到着時に身体検査をし、護身用の武具以外はもっていないことは確認してあり、その武具も勢力圏内で携帯する必要はないという理由で没収していた。
捕虜たちは特に不満の声を上げることなく、当然の顔をしてその処置に従い、指示された家屋に入り、そこで起居を始めていた。
やがて、ラーニャの責任者は、捕虜たちを呼び出し、敵情に付いての聞き取りを始めた。
しかし、捕虜たちから南北連合の戦略、戦後処理の方針等を聞いたラーニャの責任者は、考え込んでしまう。話半分、いや、話一割に聞いても、このまま不死者に支配され続けるより、南北連合に身を投じた方が利点は大きいと感じられた。最北の地をして世界の頂点となし、グレシオフィにまつろわぬ民全てを膝下に敷くという戦略は、一見して魅力が大きい。だが、南大陸の支配に最北の民が出て行く必要はなく、現地に不死者を大量生産して恐怖で締め上げれば住むことだ。そのうえ、最北の地から生者が出て行ってしまえば、いつ日中に反抗勢力が討ち入るか判ったものではない。
結局、生者である最北の民が、南大陸に出て行く機会は、永遠にない。
一般的な最北の民にしてみれば、世界の制覇より暖かい土地への移住だ。
南の土地へ移り住めると信じてグレシオフィに従っていたが、戦が始まってみるとどうも風向きがおかしかった。不死者へと転生した指導者は、不死者を優遇し生者が省みられることはなくなった。異を唱える生者や、もともと従うことのなかった生者は、問答無用で不死者に転成させられ、それを拒み通せば喰われていった。恐怖に支配され、南大陸の住人や敵対していた北の民を蹂躙することで憂さを晴らしていたが、一向に南下できる気配はなかった。そこへ持ってきて、ターバを脱してきたという捕虜たちの言葉だ。何より、頑なだった少女が誰よりも熱心に、南北連合との共闘を説いたことが決め手になった。
最北の民に対する離反工作であると責任者は気付いたが、それを承知で離反の決意を固めていた。
それからは、いかにしてラーニャを脱し、南北連合の勢力圏まで逃げるかということが、不死者の目を掠めて討議され始めた。
できることなら保障として捕虜たちに同行して欲しい、というのがラーニャに配置された生者たちの希望だが、捕虜たちにはまだ最北の地へ赴くという、重要な任務が残っている。いまここでターバへ戻るということはできなかった。
他にも問題がある。如何にして不死者に気取られぬようにラーニャを脱出するか、それが最も危険で大きな問題だった。下手に気取られたならば、その場で皆殺し、不死者の餌になりかねない。夜陰に乗じて脱出するなど、不死者に見つけてくれというようなものだ。綿密な打ち合わせが繰り返され、持ち出すものは最低限の食料に留め、それもすぐに持ち出せるように纏めて置き、早朝不死者が日光を避けて隠れた直後に脱出すると決められた。
いよいよ、明日にラーニャ脱出を控えた夜、破局が訪れた。
元ラシアス王国贈侯爵ウェンディロフが、ニムファと共にラーニャに送り込まれたのは、捕虜たちが到着した翌日のことだった。
幾多の不死者を無策で失い、オセリファに疎まれていたウェンディロフと、南大陸への足掛かりをぶち壊し、まるでそのことの重大性を理解していないばかりか、オセリファに対して異様な反抗心を剥き出しにしたニムファは、グレシオフィによって最前線で南北連合を討ち返すことを命じられた。汚名返上の機会とばかりに意気込むウェンディロフも、かつての同胞を討ち果たすことで恭順を証明することを求められているニムファも、過剰なまでに気負いが勝っている。
深夜到着するなり、僅かに警備を残して就寝していた生者を集め、南大陸への怨みと己が功名心ばかりを叫び、最北の民の生者を人とも思わない演説をした二体の不死者を、生者たちは厄介な者が来たとしか思わなかった。
人心を掴むことは、作戦や任務遂行のうえで最も重要なことだ。
家臣に傅かれることが当たり前だった二人に、それまで縁もゆかりもなく、王族や貴族の権威などが通じない最北の民相手のそれが最も困難な課題であることは、全く気付くことはなかった。北の民を完全に見下すことでしか己がプライドを満足させられない二人に、北の民を戦友として信頼することなどできるはずもなかった。純粋な力を以って無理矢理彼らを従わせるしか、ラーニャの秩序を維持する方法がなかった。最北の民の反乱を防ぐため、コッカトリスをコントロールするための呼び笛を取り上げた二人は、日中の寝所の近くに常時コッカトリスを待機させ、近寄る者は誰彼構わず石化させるように命じた。
誰も近寄れなくしておいて、ご機嫌伺いのひとつもないと憤り、僅かに侍る知性を有しない不死者に二人とも八つ当たりを繰り返すだけだった。
僅か二日で誰からも省みられることがなくなった二人は、少しでも生者たちを平伏させるためにその力を見せつけることを企んでいた。
最北の生者がいくら死のうと、二人が気に止めることはない。適当な犠牲者を仕立て上げ、それを石化したうえで破壊してみせる。そうすれば圧倒的な力に恐れをなし、残る生者たちは自分たちに平伏すはずと、二人は考えていたのだった。
そして、ラーニャ脱出の最終打ち合わせをしている生者の屋舎に、そのようなことが行われているとは知らずに二人はコッカトリスを連れてやってきた。
「貴様ら、何を話し合っている!?
まさか、脱走か、反乱でも起こそうというわけではないだろうな!」
ウェンディロフの大音声が大気を切り裂いた。
突然の破局に、生者も捕虜も何もすることはできなかった。
不死者の気配を察知することは通常の生者には困難なことであり、二人が乱入するその瞬間まで生者たちはまるで気付いていなかった。打ち合わせに集中し、周囲の警戒を怠ったことも破局を招いた原因になった。
ウェンディロフは当てずっぽうに言っただけだったが、図星を指された格好になった生者たちは、ただその場に固まるだけだった。尊敬の念を欠片も見せない無礼な者たちが集まっていれば、自分たちに対しする悪意のある企みをしているものに違いないと、ウェンディロフは過去の経験から判断していた。南大陸で生者だった頃からそうだったのだ。
あることないこと喚き散らすウェンディロフを、生者も捕虜も呆気に取られ、黙って見ているだけだった。
「まあ、よいではないですか、贈侯爵。
わざわざ集める手間が省けたというものです
それよりも、早く」
ニムファが静かに言った。
「畏まりましてございます、女王様。
魔獣よ、来たれ!」
ニムファに一礼し、ウェンディロフがコッカトリスを呼び出した。
扉をぶち破り、見た者を石に変える能力を持った魔獣が、広間に乱入した。
「誰か、名乗り出よ。
さすれば、残る者どもの命は助けよう!」
コッカトリスを背にニムファが叫んだ。
生者も捕虜も、二人が何を言っているのか理解できなかった。
意味が解らない。あることないこと喚き散らすウェンディロフの言動からは、生者の脱走を捕虜が扇動したと見抜いたようには見えない。誰かが名乗り出ることと、残りの者の命を助けることの因果関係が、全く見えなかった。
いや、理由などなく何人かを血祭りに上げようということだけは、コッカトリスを呼び寄せたことと、二人の冷酷な薄ら笑いから想像できた。
誰もが言葉を失い、生者の屋舎は水を打ったような静けさに包まれた。
誰も名乗り出る気配がない状況に、ウェンディロフが痺れを切らした。
「お前、始めてみる顔だな?
立て。
ちょうど良い」
ウェンディロフがルティに懐いていた少女を指差した。
少女は無言で立ち上がり、ウェンディロフに脅えたような目を向けている。
「我らはターバを脱してきた者にございます!
漸くここまで逃げ果せて来たというのに、一体どういうことでございましょう!?」
捕虜のリーダー格の男が立ち上がり、ウェンディロフに食って掛かった。
「ターバを落とされ、奪い返すこともなく、よくもおめおめと。
貴様らのような役立たずは、この私が処刑してくれよう。
皆も見ているが良い、役立たずがどのような末路を辿るかということをな!」
ウェンディロフは、格好の獲物を発見したとばかりにコッカトリスを嗾けた。
少女を守るように取り囲んだ男たちを嘲笑うかのように、コッカトリスの視線が少女を捕らえ、瞬時に少女を石に変えた。
怒りに我を失った男たちが、素手でコッカトリスとウェンディロフに掴みかかろうとするが、数歩も奔らないうちにコッカトリスの視線が男たちを捉える。ウェンディロフとニムファの嘲笑が響く中、六体の石像が絶望と苦悶の表情で立っている。
生者たちの間で言葉を発する者は、一人もいなかった。
「見よ、我が力をっ!」
呆然と見詰める生者たちを尻目に、ウェンディロフの拳が少女だった石像に繰り出された。
少女たちを襲った悲劇の顛末を聞かされたアービィたちは、ティアが蘇生した喜びや安堵をすっかり消し飛ばされていた。
特にルティの落ち込みようは目も当てられず、その夜は一晩中泣き明かしている。少女を蘇生させようにも、石像が砕かれていた時点でもう無理だった。ルティもティアも、全ての状態異常を回復させることのできる火の白呪文レベル4『全解』を、行使することできるようになっていた。だが、石化を解いた瞬間に首を落とされた状態の生身の身体は、即死する。ティアを生き返らせた『蘇生』を行使しても、身体が打ち砕かれた状態では、『蘇生』が成功した瞬間、再度即死するだけだ。破片を全て拾い集め、一かけらも欠けることなく石膏などで接着した上で『全解』を行使しても、一度破壊された身体が再構成されるわけではなく、引き裂かれた生身に石膏が入り込んだ状態で即死するだけだ。
どう足掻いても、少女たちを生き返らせる術はなかったのだった。
どうすれば償えるか、ターバに残る捕虜たちにどう言えばいいのか、ルティには判らない。
ターバへ送られた生者たちの口から、南大陸の住人が行った非道が伝われば、南北連合が瓦解してしまうかもしれない。だが、いつまでも落ち込んでいられない状況であることも、ルティは理解していた。それ故に努めて明るく振る舞っていたが、何かの折に少女の面影が脳裏に浮かび、その度に打ちひしがれてしまうことを繰り返している。アービィやティア、バードンにしても同じことで、努めて明るく振る舞うように気をつけているが、やはり少女のことを忘れることはできなかった。
一日も早く、少女の仇を討ち、両大陸の諍いを鎮める。ルティは少女に誓っていた。
ラーニャを確保して十日が過ぎた。
配置されていた生者たちは、補給部隊と共にターバへと去っていった。ピラムの民も、全員が最北の地へと旅立っている。秋が深まったラーニャには、アービィ、ルティ、ティア、バードンと、エンドラーズたち神官の十人が残った。アービィたちは交代でラーニャ周辺の哨戒任務に就き、神官たちは畑の手入れや取り残された作物の収穫に勤しんでいる。既にラーニャを囲む結界は、暇を持て余したエンドラーズによって完成していた。平穏な日々が続いていくように思える静かな秋の夕暮れ時が幾度も過ぎていくが、誰も緊張を解くことはない。
最北の蛮族がいつ押し寄せてくるか、これから気の抜けない日々が続くと思われていた。
河川流域の状況は不明だが、一進一退の攻防が続いていると補給部隊の将兵から聞かされていた。
ラーニャが陥落し、最北の地の喉元に剣を突きつけられた状況で、最北の蛮族がどう動くか予想が難しい。シャーラからラーニャを日干しにするため、河川流域の防衛に力を注ぐか、河川流域から戦力を引き上げ一気にラーニャからシャーラを奪い返しにくるか、どちらの可能性も捨て難いものがあった。大規模な会戦こそ生起しないものの小競り合いは頻発し、当事者たちは血みどろの戦いを繰り広げていた。合成魔獣を先頭に立て、日中に拠点結界を破壊してから、夜間不死者が雪崩れ込む戦法は変わらないが、合成魔獣の戦闘力が強くなっているようで効果的な迎撃が困難になっているらしい。そのため、夜間までに結界の補修が間に合わず、不死者の侵入を許すケースが増え、徐々に被害が蓄積しているようだった。
もちろん、南北連合もやられっ放しではない。
ターバまでの舗装が完成し、南大陸からの戦略物資と人員の補充が容易になっていた。
いかに合成魔獣が強大であろうと、数に頼んで押し潰してしまえばそれまでだ。輸送能力の向上に伴い、春には一個師団を維持するのがやっとだった兵力が、今では四個師団まで膨れ上がっている。将兵の補充だけでなく、多くの人々が北の大地に渡ってきていた。ビジネスチャンスを求めてきた商人や、広大に農地に夢を託した農民、一攫千金を狙う鉱山経営者、それに伴う製造加工業を生業とする職人、そして娼館の経営者といった、雑多な人々が流れ込んできた。当然冒険者ギルドも入り込んできており、正規の軍人以外にも河川流域の戦いに身を投じる冒険者が後を絶たない。
ターバ以南は、空前の活況を呈していた。
ラシアスの政変も、却って良い方に転がっていた。
北の大地を侵略しようとしていたニムファが消えたことで、片棒を担いでいた軍務卿が粛清され、コリンボーサが政務と軍務を掌握した。臣籍降下していた第二王子が王籍復帰し、現時点では摂政としてコリンボーサの補佐を受けながら政治を行っている。本来であればコリンボーサも失脚して然るべきなのだが、そうなると政治全般を見渡す戦略眼を持った者がいなくなってしまう。ベルテロイ駐在武官として経験を積んだ第三王子ヘテランテラならば、あるいはと思わせるものがあるが、彼を連合から引き抜くわけにも行かない状況だ。各国の王族武官で構成されている南大陸連合は正式にルムを北大陸代表として迎え入れ、南北大陸連合と名称を変更し、両大陸を上げてラシアスの安定に奔走している。
ラシアスの立場が弱くなっている今、誰に対しても言うべきことを言えるヘテランテラの存在は連合に欠かせない。
併せて騎士団長ラルンクルスが南北連合軍の総司令官を辞し、ラシアス派遣軍の指揮官へと転属したことにより、ラシアス軍の規律が完全に取り戻されていた。
代わって南北連合軍総司令官に就任したそれまでの次席指揮官は、ラルンクルスの方針を堅持し、過渡期の混乱を最小限に食い止める働きを見せている。河川流域制圧に齟齬を来たした理由もそれであったが、ラルンクルスでさえ厳しかった状況を破綻させずに持ちこたえた手腕は、並々ならぬものがあった。いずれは正式に総司令官を任命する予定でいた南北大陸連合は、次席指揮官をそのまま総指揮官に任命することで話が纏まっている。
これまでバラバラだった南北両大陸の歯車が、しっかりと噛み合い動き出していた。
生者たちを伴い、ラーニャを発った補給部隊が二十日ほどの帰路を踏破し、ターバに近付いたとき、それは起こった。
ターバを囲む結界まであと一日となり、それまで最北の民による襲撃も、合成魔獣との遭遇もなかったことから、部隊全体の警戒心が薄れていたことは否めない。最終の野営時、簡易結界を敷いた中に全員が収まり、緊張を維持できるようにと六交替で兵が歩哨に立っていた。不死者の襲撃が最も多いと統計が出ている深夜半までの歩哨を増やし、黎明が近付いた時点で最小限の人数まで減らすという、理に適った警備計画であるはずだった。
だが、襲撃は、それまでの常識を覆す方法で行われた。
まだ夜明けにはしばらくあるが、戦闘状態に突入すれば夜明けまでには収束できないだろうという時刻。
一瞬の風切り音が数度響き、篝火の中に血飛沫が舞った。計画通り員数を減らされた歩哨に立っていた兵は、最も緊張感が鈍り眠気を抑え難い時間帯に当ったことに対して悪態をつきながらも、逆に最も敵襲の少ない時間帯に当ったことに感謝してはいた。周囲の異常に気付いた兵は、全員を起こすための呼子に大きく吸い込んだ息を全力で吹き込もうとした瞬間に、意識が暗転した。水溜りに柔らかいものを投げ落すような水音と鈍い音が響いた後、獣特有の唸り声が耳障りな不協和音を奏で、三頭の合成魔獣、キマイラが野営地に突入した。
僅かに態勢を整えることに成功した歩哨の槍がキマイラに突き刺さるが、手負いの魔獣は却って凶暴性を増し、殺戮の嵐が吹き荒れ始めた。
歩哨の数が減った時間帯を狙った奇襲は、成功しようとしていた。
だが、通常の軍隊生活では、夜明けと共に行動を開始するため、ほとんどの兵が起床しようとしていた時間帯でもあった。多くの兵が異常に気付き、そのうち何人もの自己犠牲の発露と共にろくに武装を整えないまま、キマイラに突撃した。残った兵は冷静に武装を整え、戦友の犠牲を無駄には終わらせるものかと眦を決し、陣を組んでキマイラに迫っていく。補給部隊といえど戦略物資を狙う敵の襲来があれば、武器を取ってこれを撃退することを任務とする将兵の集団だ。他の戦闘部隊と同様の訓練は積んでいる。初撃こそ奇襲を許したが、急速に戦闘態勢を整え、キマイラを包囲していった。
三つの輪が出来上がり、死傷者を出しつつも輸送部隊はキマイラを包囲していた。
このとき、目の前に脅威に気を奪われ、重大な失態を犯したことに輸送部隊の将兵は気付いていなかった。
いつまで経っても合成魔獣に付き物の生者や不死者が姿を現さないことに不審に思う将兵はいたが、余計なことを考えた瞬間には獅子の首が、山羊の首が、蛇の首が迫り、獅子の腕が薙ぎ払い、山羊の肢の蹴りが飛んでくる。戦局は有利に見えていたが、三つの輪は徐々に結界を構成する線に迫り、無意識のうちにそれを踏み壊していた。
破局が訪れた。
結界の消失を待っていたかのように不死者が雪崩込み、かろうじて膠着状態を保っていた戦況は一気に覆る。
多くの将兵が二度目の奇襲になす術もなく打ち倒され、噛み裂かれ、引き倒されて踏みにじられ、絶命する。捕虜として連れてきたラーニャに配置されていた生者に付き従い、貴重な情報源を守ろうとした小隊の防壁も、あっという間に蹴り破られ、命が藁屑のように散っていく。将兵に混じって吹き飛ばされた捕虜の身体をキマイラが銜え、何度も振りたくるうちに首が、腕が、脚が引きちぎれ、元は人間だったとは思えない肉塊を合成魔獣と不死者が奪い合う。
明らかに救い出しに来たとは思えない振る舞いに、捕虜たちの表情が恐怖と絶望で染め上げられた。
戦況の不利を悟った指揮官だが、まもなく黎明が訪れ、その後には太陽が昇ってくる時間であることは冷静に把握している。
あと僅かな時間を凌げば、不死者たちは撤退していくはずだった。行きがけの駄賃に数人が殺害されることはあるだろうが、それでも部隊と捕虜が消滅することはないと、声を枯らして督戦に勤め、自らも剣を振るう。しかし、いくら耐えても不死者が撤退する気配は見られなかった。周囲では疲労の色が濃い部下将兵が、次々に打ち倒され、踏み潰されている。
やがて、周囲が明るくなり始め、東の空に待ち望んでいた曙光がさした。
それまで優勢だった不死者の群れが、動きの過程で灰と化す。
不死者に喰われ、転生していた仲間の将兵の死体も、同時に灰となり崩れていった。しかし、キマイラが消滅することはなく、次々に疲弊したし将兵と捕虜を血祭りに上げ、それまで不死者に奪われた獲物を取り戻すかのように荒れ狂う。指揮官顔が絶望の表情に染め上げられ、どれほどの人々が残るか分からないが最後の戦闘行動に移る命令、つまり逃走の命令を下そうとしたとき、とどめとなる一撃が輸送部隊に襲い掛かる。
鬨の声を上げながら、最北の蛮族の生者が突入してきた。
数刻後、破壊された荷車から引き摺りだした食料を貪った生者たちは、周囲に打ち倒されている将兵や捕虜を一人ずつ覗き込み、丁寧にとどめを刺していく。
やがて、野営地だった場所に動くものは、最北の蛮族の生者のみとなり、空間を埋め尽くしていた呻き声も完全に途切れた。破壊を免れた荷車に、喰い尽くせなかった食料と、原形を留めている死体を積み込むと、何処へと姿をくらました。
河川流域での戦法が、これと同じに変化するのは、翌日からのことだった。
最北の地、グレシオフィの館の地下牢に、二つの影が繋がれている。
片方は、腰まで伸ばした北の民に共通する金髪を一つに纏めた女性で、これも北の民には共通の碧眼に憂いを湛えていた。年の頃は20代半ばだろうか、艶やかな表情は男たちを振り向かせるには充分な魅力に溢れ、少々吊り気味の瞳と適度な高度を持つ鼻梁、控えめな口元はそれぞれが整ったバランスを保っていた。しかし、その表情には疲れが見え、傍らに繋がれるもう一つの影に労わるような視線を向けている。
最北の地に多くの信徒を持つ神に仕える巫女の服装を纏った女性から、労わりの視線を向けられたもう一つの影は、こちらも神官の服を纏っていた。紫を基調とした配色は他の巫女や神官に同じ配色の者はいないことから、最高位の神官であることを伺わせていた。しかし、二人がまとう衣服は薄汚れ、所々に明らかに打撃による破れ目があった。
「猊下、我らの身体は、あとどれくらい現世に留まることが可能でしょうか。
神のお力が消え失せて、もうかなりの時が経ちます。
神のお力なくては、不死の身体も腐敗するのみ。
一体何が起きたというのでしょうか」
両腕を壁から伸びる鎖に捕らわれたオセリファが、同様の姿勢で鎖に繋がれているグレシオフィに言う。
「オセリファよ、おそらくは、あの、女王。
我らよりもどす黒い、あの女王。
我らは、神ではなく、悪魔に魂を、売り、渡していた。
悪魔にとって、我らより、彼の女王のほうが、利用しやすいのであろう」
柔和という言葉を受肉化させたらこうなると思われる、穏やかな表情でグレシオフィは答えた。
既に悟り切った、いや諦め切った表情にも、オセリファには見える。僅かに残っていた北の民の象徴である金髪は、白いものに全て置き換わり、切れ長の眼窩に納められた碧眼からはかつての意志に溢れた力強さは窺えない。弛みが増え、深い皺を刻んだ頬に支えられた高い鼻と、自嘲を湛えた小振りな口元は、これが最北の蛮族を率いた男かと思わせるほどの零落振りだ。
「それは、一体、どういうことでございましょう?
神ではない?
悪魔?
魂を売り渡す?」
オセリファは、混乱の極にあった。
グレシオフィが世界に対して戦乱を引き起こしたのは、民の怨みを晴らすためだった。
だが、数に劣り、体力的にも劣る最北の民が、世界を相手に戦うにはなにかしらの超常的な力を必要としていた。グレシオフィがその力を手に入れるため、どの部族の省みることのなかった神を神話の中から見つけ出し、それに帰依したおかげで不死の身体を手に入れたと誰もが認識していた。
しかし、今、彼の口から、衝撃の事実がオセリファに伝えられていた。
「おそらく、悪魔は我らでは満足できないのであろう。
彼の女王は、怨みだけで動いておるのではない。
欲だ。
世界を手中に収めんとする、欲だ。
全てを己が意のままに動かしたいという、欲だ。
悪魔にとって、これほど魅力的な者は、いない。
我らは捨てられた。
世界を『治めよう』とした、我らは捨てられたのだ」
グレシオフィは、残り少ない力を振り絞り、オセリファに説いた。
オセリファは、己の価値観が崩れて行くことを感じつつ、グレシオフィの言葉に耳を傾け続けていた。
「この世に神など、おらぬ。
全ては、人間が作り出した、幻影。
歴史を紐解いてみよ、オセリファ。
未だかつて、人間に力を貸した神がいただろうか。
おらぬ。
そのような者は、おらぬ。
神などという者は、人間が、倫理を踏み外さぬように作り出した、制御装置に過ぎぬ。
悪魔を神と崇め、不死者などという倫理を踏み外した我らには、もとより未来などあろうはずもなかったのだ。
だが、このままでは、女王と悪魔は互いを利用し合い、この世は闇に包まれよう。
せめてもの罪滅ぼしだ。
行け、オセリファ」
そう言うと、グレシオフィは目を閉じた。
オセリファは、グレシオフィの身体から急速に熱が退き始め、その熱が自らの身体に移行する感覚に包まれた。
主が、その命を、現世に身体を繋ぎ止めるエネルギーを、オセリファに注ぎ込んでいる。それを止めるためオセリファは叫ぼうとしたが、声が発せられる寸前に、オセリファの意識は暗転し、その身体は地下牢から消滅した。