あやかし退治
天上千里の言っていた仕事を終え、彼女の仕事場兼家に帰った。
冷蔵庫にある大量のパンを食べることでお腹を満たした。
天上千里「さて、本題に入ろうか。準備は良い?Are you ready?」
さっそく、天上千里は話を切り出した。
天上千里「私の名前は天上千里。千里さんとでも呼んでくれ。いや、千里姉さんでもいいか。先生でもいいのか。まあ好きに呼んでくれ、まつり君。」
天神まつり「じゃあ、千里さんで。」
天上千里「姉さんでもいいんだよ!?」
天神まつり「千里さんで。それよりも、はやく本題に入ってください。」
淡々と天神まつりは天上千里に言葉を告げた。
知られてはいけない情報なのか。天上千里は話をはぐらかすかのように自己紹介を行うこ
とに天神まつり嫌悪感を覚えた。
しかし、仕事と称し命の危機にさらしたのだ。
その情報を知る権利を天神まつりは持っている。
天上千里は観念したかのように、声を低くし、言葉を綴った。
これまでの、彼女ではないような感じがした。
天上千里「まずは、私のことについて教えようか。もちろん、君が知りたいと思っていることを話そう。私の名前は天上千里。現代の日本において、3人しか存在せず、あやかし退治を生業とした人物の1人が天上千里だ。」
彼女の発した言葉を飲み込むための時間に、数十秒を要した。
あやかし退治。聞こえはいい。多くの小説や漫画などでその言葉を聞いたことはある。
むしろ、想像したことさえある言葉の綴り。いや、妄想と言った方が正しいだろう。
それだけに、この言葉の非現実感がぬぐえない。
困惑しているまつりの様子を見たからなのか、天上千里はさらに深堀りを続けた。
天上千里「わかりやすく例えると、幽霊退治みたいなもん。」
天神まつり「少なくとも幽霊は理解できますけど、あれは退治する対象なんですか?いやいや、そもそも存在するものなんですか?」
疑問に感じたことをそのまま、天上千里にぶつける。幽霊は理解できる。テレビ番組など
において、幽霊の写った写真や心霊スポットを取り上げたものを見たことがあるからだ。
見たことがあるからと言って、幽霊の存在自体を信じているわけではないが。
反対に、信じていない側に属するといっていいだろう。
百歩譲って、宇宙人は存在することは信じたとしても、幽霊はいないだろうと思ってい
る。
それだけに、彼女の言葉を疑わずにはいられなかった。
天上千里「ああ、存在する。幽霊こと妖はなにも、非科学的なものではないんだよ。そして、非現実的なものではない。人間、、、というか感情を持ち合わせる動物ないし、、、物でもいい。今述べた感情という概念が存在し続ける限り妖も存在し得る存在になる。ここまでOK?」
そんな、天神まつりの疑念を無視するように、天上千里は話を続けた。
さらに難しい話になり、まつりはますます困惑に陥った。
天神まつり「感情の概念があまり理解できないんですけど、もうちょっとわかりやすく教えてくれませんか?」
天上千里「ふう、、、、君は注文が多いな。だから、甘やかされて育った子供は嫌いなんだよ。」
天上千里はため息をついた。
少し、愚痴をこぼしながら、外をながめ、こちらを向いた天上千里の眼に少し恐怖を感じ
た。しかし、この恐怖は天神まつりに向けられたものではない。
そう、天神まつりは感じた。
天上千里「人間を含め、大きく分類して四つの感情がこの世界には実在する。喜びを得たとき。怒りを得たとき。哀しみを得たとき。楽しさを得たとき。つまり、喜怒哀楽だ。大雑把には、この四つだ。そして、この喜怒哀楽の感情が最も大きく高ぶるとき、その溢れ出した感情が主体となって妖が誕生する。」
天神まつり「それが、どう妖退治と繋がるんですか?」
天上千里「大抵の場合、妖は人間含め、生きているものに対して悪さはしない。まあ、視認できるものでもないしね。まあ、直接的な攻撃をされたとしても、誰もその行為の主体が妖だとは思わないし、思うことができない。稀に、妖の類を視認することができる人もいるけど。君みたいに。でも、ほとんどのケースにおいて、妖は害がない存在と言っていい。」
それならばと、感じたことをそのまま天神まつりは天上千里にぶつけた。
天神まつり「じゃあ、退治する必要もないんじゃ?」
そう考えるのは当然ではないか。
行為自体の主体を認識することができなければ、幽霊の存在自体を立証することはできない。
加えて、害はないときた。
視認ができず、認識もできない。
ならば、幽霊を無理に退治する必要もない。
天神まつりはそう考えた。
天上千里「バッドアンサーだ。少年よ。ほとんど害はないと言ったが、それはほとんどの場合でしかない。ほとんどの場合でしかないということは、ごく一部において害を振り撒く妖もいるということだ。意識的にも無意識的にも。そして妖は何かに憑依して害を振り撒く。それは人間に関わらず、他の動物であったり、物に対しても同じ。そして、それは姿形を変える。さっきみたいな巨大な猫のように。まあ、あの猫は自身で固有の世界を形成してたから、現実世界に仇をなす悪性のものではないといっていいんだけれど。」
その言葉で、さっきまでの疑問に答えを得ることができた。
巨大な猫との対峙の際に感じた違和感の答え。
天神まつり「だから、あそこの世界には、千里さんと自分しかいなかった。」
天上千里「そゆこと。だから本来は放っておいてもよかったんだけど、おばあちゃんに頼まれたからね。愛猫がいなくなったから、探してほしいって。」
天神まつり「じゃあ、あの猫には何かが、憑依してたってことですか?それに、固有世界の形成って、意味が分からないんですが。」
天上千里「それが、、、わからなかった。わからなくても、喜怒哀楽の感情を読み取れるはずなのに、なにも感じなかった。まぁ、一部の例外だと思うほかない。例外は常に存在するし。そして、固有世界の形成。あれも、年季のある妖か上位の妖でないと持ち合わせない類のものだった。ただの猫一匹にあれは不可能だ。あれも、少し調べないといけないな。」
後半の天上千里の言葉は独り言のようだった。
ぼそぼそと言葉を続け、こちらを見ない天上千里の態度。
それほどまでに、今回の件は重要なものであろう。
そんなことは、まつりには全く理解できないものであるが。
話を変えるように、天神まつりは一人世界に没頭している天上千里に質問を投げかけた
天神まつり「あの水はなんだったんですか?」
あの水とは、巨大な猫の頭上に降り注いだ大量の水の事だ。
上空に川や湖、海があれば、あの現象は起こりうるのだろう。
滝のような雨が降れば、それも叶うのだろう。
しかし、あの世界いやあの空間においてそれは不可能だ。
そう天神まつりは思っている。
そして、何もないところから現れた巨大な水の塊。
量だけでいえば、そこらの川の何倍もあることが理解できる水の量。
そして、そんな水の後に、天上千里は降ってきた。
普通に考えれば、あの水は天上千里によるものだろう。
普通に考えればなどと、普通には考え難いことだが。
あの水の現象の要因は天上千里、彼女には違いない。
そんな疑念とは裏腹に、彼女は何も隠すことなく、すべてを話してくれた。
天上千里「うん?ああ、、あれか。あれは、私の能力というか、力というか、もらったものというか、継承されたものなんだけど。実際に見てもらったほうが早いか。外に行こうか。」
そして、近くの空き地へと向かうこととなった。
彼女の能力は信じがたいものだったが、それ以上に驚くべきことがあった。