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BACK HAND  作者: 空月メア
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天上千里の仕事

彼女、いや、天上千里は何も言わず、歩いていく。

時間帯は夜で、とても強く風は吹く。

しかし、昨日よりは寒さを感じなかった。

天上千里のジャケットをきているからだ。

彼女の着ている服は薄手だ。寒くないのだろうか。


天神まつり「それで、仕事ってなんですか?」


天上千里に尋ねる。

彼女は仕事を手伝えと言っていた。

何も知らない状態で、何も知らない彼女についていく。

彼女はこちらに振り向くことなく、言葉を発した。


天上千里「探し物を探す仕事。」


淡々と答える。


天神まつり「探しものって何ですか?」


彼女の言葉に、続けて質問をぶつける。


天上ちさと「迷子猫さ。」


天神まつり「迷子猫?」


天上千里「そう、迷子猫。あるおばあちゃんの家で飼っている猫が迷子になっちゃったらしくて。それを探す仕事だよ。」


天神まつり「それって、仕事っていうんですか?」


仕事を手伝えと、外に連れ出し、その仕事は猫探し。

拍子抜けしてしまった。

てっきり、怪しく、危ない仕事をさせられると思っていた。

しかし、太陽も沈み、わざわざ夜に行う仕事が猫探しとは。

しかし、まつりの問に、天上千里は何も答えなかった。


天神まつり「で、その猫の特徴ってなんですか?毛並みとか猫の種類とか。」


猫探しに必要な情報を知っておくのが重要だ。

その猫の特徴を天上千里に質問した。

彼女は振り向かず、言葉を発した。


天上千里「大丈夫。すぐにわかるから。」


するどい言葉のように感じた。

緊張感が伝わってくるような、心に刺さるようなそんな言葉だった。


天神まつり「すぐにわかると言われましても………」


その瞬間だった。

これまでに感じたこともない、強い風が吹いた。

その風の強さから、腕全体を使って、顔を覆った。

そうでもしなければ、目も開けることができなかったからだ。

そして、目を開けた先にいたのは、信じがたい光景だった。

おそらく、誰に言っても信じてもらえないような光景。

この世のものとは思うことができない光景。

そんな光景だった。

まつりの目に映っていたのは、巨大な猫だった。

おそらくこちらには気づいていない。

白くて大きな、巨大な猫。

全身が白色の巨大猫。

首にぶら下げてある鈴が、大きな音を鳴らす。

そんな音で、耳が壊れそうになる。

思わず、耳をふさぐ。

これが探していた猫なのか。

しかし、おばあちゃんがこの猫を飼っているとは思えない。

猫の大きさは家よりも大きく、二階建てを超えている。

この猫の存在は現実なのか。立て続けに、幻覚を見ていたからだろうか。

彼女、天上千里に聞くしかない。

彼女の方をむいた瞬間だった。


天上千里「それじゃあ、囮よろしく!!!」


そう天上千里はその言葉とともに、大きな音を立てた。

そして、その音とともに、彼女の姿は見えなくなっていた。

彼女の姿が消えたと同時に、巨大な猫がこちらへ振り向く。

そして、巨大な猫は前足で天神まつりに攻撃を仕掛けた。

いや、これは攻撃ではない。

ただ、遊んでいるだけだ。

猫がレーザーポインターを追いかけるように、猫がテレビのサッカー中継にうつるボールを追いかけるように、動くものを捉えようとする。そんな猫の動きだ。

間一髪で猫の手を交わす。

しかし、次に巨大猫は空いている前足でまつりをつぶすことを試みる。

まつりはその場から走った。

背を向けて走った。

命の危険を感じる。

命の終わりを感じる。

命のきしむ音がする。

家と家の間の路地に入り、身を隠す。

巨大猫は見失ったようだ。

あたりをキョロキョロと見回している。

口を手で押さえ、言葉が出るのを防ぐ。

囮とはなんなのだろうか。

天上千里の意図が全く分からない。

そこで違和感を覚えた。

家の中に人がいる様子が全くない。

それも一軒だけではない。

全ての家に対して、人のいる様子がない。生活が行われている様子もない。

ここに今、まつりと千里以外の人間はいないのだ。

その天上千里の姿も見えない。

巨大猫は、まつりをさがすように家々をつぶしていく。

このままでは、まつりの隠れている家もつぶされてしまうだろう。

そして、家がつぶされてしまえば、まつりの姿は野ざらしになってしまう。

いちかばちかで、この状況を打破するしかない。

まず、巨大猫に勝てる可能性はない。

それを前提に作戦を考える。

そして、天上千里は囮になれと言っていた。

その囮は俺でなくてもいい。

すぐそこに転がっていた石を拾い、放り投げその場から急いで離れる。

しかし、巨大猫は投げられた石を見るも興味を示すことはなかった。

そして、巨大猫は走って逃げるまつりを追いかける。

「くそっ」と悪態をつきながら、猫から逃げる。

そして、行き止まりへと追いやられる。

猫に追いかけられる鼠の気持ちとはこのことだったのかと痛感する。

巨大猫は巨大な前足を振り下ろす。

次の瞬間、猫は大きく悲鳴をあげた。

まつりの手にはナイフが握られていた。果物用のナイフだ。

ジャケットの内側のポケットに入っていた果物用ナイフ。

これで巨大猫、化物猫に反撃をした。

窮鼠猫を嚙むを実現した気分だ。

しかし、もうこれ以外に武器はない。

巨大猫に通用する武器はない。

万事休すだ。

一日も経たないうちに、こんなにも死を覚悟しなければならないのは初めての経験だ。

そして、次の猫の一手。

その時だった。

巨大猫の頭上から光があらわれた。

正確には光ではなかった。

大量の水が巨大猫の頭上に落ちてきたのだ。

暗闇の中の大量の水が光に見えたのだ。

しかし、巨大猫は動きが鈍くなっただけで、その力は失われていない。

そして、大量の水が降りそそぎ終わったその瞬間、人が降ってきた。

さらに次の瞬間、巨大猫は一瞬にして溶けるように消えた。

その後、巨大猫がいたであろう残骸から、天上千里があらわれた。

天上千里の腕の中にはさきほどまで巨大であった猫が小さくなって抱かれていた。


天上千里「very good.いい囮だったよ。最初の仕事にしてはいい働きだった。」


大量の水でずぶぬれになったまつりを見て、天上千里は笑顔で声をかけた。

「ははは…。」とまつりは笑うしかなかった。


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