闇の魔法と、マナの可視化
黒い妖精だ。
とりあえず舐め回してみるか。
「ちょっ!? まっ、よっ、ふっ」
なんという回避力だ。
掴むことすらできないとは。
「ふん、そうかんたんにつかまらないから!」
「お、さっきの奴らよりはちょっとだけ大人っぽいな」
「とーぜんよ! だってあたしは、ぎゃー!?」
ドヤ顔した瞬間に動きが鈍くなったので、今度こそ捕らえることができた。
「は、はなせ、にんげん!」
「暴れるな。食べはしない。ちょっと味見するだけだ」
「なにゆってるの!? なにゆっ」
あむっ。
ん! この味は、ブラックコーヒー!?
「げほっ、げほぉ」
「にゃあああああ! あたしをこんなべとべとにしておいて、よくもきもちわるそうなかおしてくれたわね! ふざけるんじゃないわよ!!」
「あいつらは甘かったから、お前も甘いのかと思って、つい」
「ついじゃないのよ、ついじゃ!」
キーキー騒ぐやかましい妖精を静かにさせるため、もう一度口を開けて黙らせた。
「お前は闇の魔法について知っているか?」
「しらない!」
妖精の上半身をもう一度口の中に入れて、念入りに舐めた。
これぐらいでいいか?
「ぐすっ、ぐすっ、けがされた……」
「話すか?」
「はなすわけ……はなすわよ、バカ……」
よし。
妖精相手に聞く場合はこの方法が一番だな。
「あいてのめをみえなくするのと、きこえなくするのと、うごきをおそくするのと、ねむくするのと、こんらんさせるのと、しびれさせるのと、しゃべれなくするのと……」
「他には?」
「……ないわよ」
「もうちょっと舐めるか」
「あるわ」
あるのかよ。
「あいてをあやつったり、のろったり、しんだものをぐーるにできるわ」
「それで全部か?」
「あたしがしってるのはぜんぶよ」
「俺の目を見て答えろ」
「きもちわるいからみたくな」
あむっ。
まだ心が折れないのか、この妖精。
暴れんな。暴れんなよ。
苦いが、だんだんと癖になってくるな。
「ひぐっ、えっぐ……」
この妖精、ガチ泣きである。
「で、さっきので全部か?」
「かげのせかいに、いけるわ……」
「どうやって行ける?」
「おしえるから、はなして」
「逃げる気か?」
「はなしてくれないと、できないわよ」
「その前に魔法を使うための呪文を教えろ」
「しらないわよ、そんなの」
「また嘘か。また舐められたいのか?」
「だって、あたしたちにはひつようないもの」
「あいつらは呪文を口にしてるじゃないか」
「だから、しらないわよ。にんげんにはまながみえてないから、それをおぎなうためにくちにしてるんじゃないの? たぶんだけど」
ふーん。マナが見えればあんな恥ずかしい詠唱をしなくて済むと。
「どうやったらマナを見ることができる?」
「それはくろをどうみたらしろにみえるか、ときいているのとおなじよ」
「残念だ。それじゃ、俺はマナを見ることができないんだな」
「ほんとうにそうなのかしら?」
「なんだと?」
「あんた、あたしのこと、みえてるじゃない」
「それが何だっていうんだよ」
「つまりあんたは、ただのにんげんじゃないってことよ。ていうか、にんげんじゃないんじゃないの?」
「はあ?」
何を言っているんだ、こいつは。
俺はごく普通の人間だというのに。
「まあ、わかってないならいいわ。まなはそこらへんにいっぱいある。ただ、ありすぎてみえてないのよ。みるほうほうなんてしらないわ。そこにあるだけなんだから」
またもや意味不明なことを言いやがる。
だが、マナを妖精に置き換えたら少し理解できるかもしれない。
こいつらは人間には認識できない存在だ。
ただそこにいるだけなのに、どうしてか認識することができない。
一つ違う点を挙げるなら、いっぱいあるかどうかだ。
ただ、そこに、ある、だけ……。
見て、見て、見て、見る。
「――おえっ」
何かが見えた途端、吐き気がした。
あまりの情報量の多さに気持ち悪くなってしまった。
ていうか少し吐いた。
黒い妖精の上に。
「ぎゃー!? きたない、きたない、きたなーい!」
手の力が抜け、妖精が飛んで行った。
そんなことより、新発見だ。
俺にも、マナとやらが見えたぞ!
ちょっとずつ書き進めていきます。
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