殺害、捕縛、隷属
異世界召喚時に能力を与えられる際は女神に会えるものと思っていただけに、会えなかったのは残念だ。
転生だったら女神に会えるかもしれない。
女神がいるかどうかも不明だがな。
ステータスウィンドウは開きそうにない。
開き方がわからないだけかもしれない。
レベルは存在するのだろうか?
経験値稼ぎなんて面倒なことはしたくないので、ないとありがたい。
外でガラスを割る音がした。
校舎の正面、一階の昇降口に突入してくる異邦人達が見える。
「……私たち、どうなっちゃうの?」
不安そうに一人の女子が声を上げると、マイナスな感情がクラス全体に伝播していく。
「死にたくない! 死にたくないよ!」
「バリケードだ! ドアの前に机と椅子を置くぞ!」
教室のドアの内側から鍵がかけられた。
逃げるという考えをどれだけ持った人がいるかわからないが、何人かがドアの前を塞いでしまえば誰も逃げることはできない。
「~~~~~」
わけのわからない奴らがわけのわからないことを叫びながらドアを叩いてくる。
もう三階まで来たのか。
一階、二階の奴らはどうなったのだろうか。
他人のことより、まずは自分の身を守らないとな。
侵略者はドアをしばらく叩いた後、鈍器か何かでドアを破壊し始めた。
斧の刃がこちらに見えるほど突き刺さった。
直後、あちこちから悲鳴が上がる。
逃げ場を求めたクラスメイトが窓際に集まっていく。
この状況、どの場所にいるのが一番安全なのか?
俺は廊下側の掃除用具入れの中――に入らず、横に立った。
数分でドアが荒々しく破られた。
バリケードも簡単に崩壊した。
「~~~~~」
異世界、せめて言語くらいは自動翻訳してくれ。
言語覚えるなんてしんどいぞ。
兵士の一人が教壇を通り、止まった。
教壇の机の下に誰かいるらしい。
「いぎゃあああああ!」
兵士は躊躇わずに剣を突き刺した。
何かを刺した剣が引き抜かれると、べっとりと血がついている。
クラスメイトの連中は唖然とした後、これまでで一番大きい悲鳴を上げた。
「来るな! 来るんじゃねぇ!」
男子の何人かが椅子を持ち上げて兵士達に投げた。
兵士達は剣で受け止め、クラスメイトへと剣を振った。
一人、二人、三人――
次々と、クラスメイトが倒れ伏していく。
殺されたのかと思いきや、斬られてはいないようだ。
俺を除いた生徒全員が昏倒させられた。
兵士が生徒達に黒い腕輪をはめていった。
わざわざ全員にはめるのだから、ただの腕輪ってことはないだろう。
奴隷に使うようなアイテムだろうな。
「~~~~~」
兵士達はそれぞれ二人ずつ抱えながら教室を出て行った。
連れて行かれなかったのは、殺された一人と認識されない俺のみ。
殺されたのは担任のじいさんだけだ。
かわいそうに、と思うまい。
生徒を守ろうともせず、自分の身を守るだけのクズ、とも思わない。
ただ、運がなかったな、と思うだけだ。
なむ。
せめて一人くらい黙祷するやつがいてもいいだろう。
教室を出て、三階、二階、一階の部屋を全て見て回った。
隠れてやり過ごせた奴は一人も見つからない。
仮に誰かいたとして、声をかけても気づかれない俺に反応しろというのは無理な話だ。
異邦人が何を考えてこんなことをしてきたのかは不明だが、おかしな共通点がある。
どの教室でも大人である担任が全員殺されているのだ。
教育実習生や生徒だけが連れ去られている。
これはなぜだろうな?
ぞろぞろと校舎から出ていく兵士達の後を付いていくことにした。
拉致されたのは約六百人。
数人ならまだしも、日本国内ではありえない数字だな。
到着した先は城。
門からずっと歩いて城の中にまで入ってきたが、この世界の人間でも俺の存在に気付くものがいない。
やりたい放題できそうで何よりだ。
城内の王の間に数百人が寝転がされた。
「~~~~~」
王様らしき男が何か命令し、兵士達が次々と生徒達を蹴飛ばして起こしていく。
「うう、痛い……」
「俺達は一体どうなったんだ?」
真っ赤なドレスを着た金髪美少女が水晶を天に掲げると、光った。
うおっ、まぶしっ!?
光が収まった後、その女は言った。
「ようこそ、クシャトリヤへ。あなた達を奴隷として歓迎するわ」
ちょっとずつ書き進めていきます。
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