高校まるごと異世界召喚
高校一年生、一学期終わりの昼休み。
廊下側の教室の席に座ってパンを食べた後、未来に希望を持った同級生達の声を聴きながら、机の上で仮眠をとることにした。
中学の時と変わらず、つまらない日々を過ごしている。
どこの部活に入るでもなく、授業を受けて、帰って、適当に動画配信を流して、寝るだけの生活。
友達は誰もいない。
クラスメートと会話することもない。
この先、会社に就職したら仕事上で人と話すことはあっても、私的な会話をすることはないだろう。
他人に興味がなさすぎて、友達を作りたいとも思わない。
いてもいなくても大して変わらない存在。
それが俺だ。
生きていることさえ苦行に感じる。
かと言って、自殺する勇気もない。
早く寿命が訪れてほしいと切に願うばかりだ。
もしくは――
なんて考えていると、教室の外が光った。
教室が激しく揺れる。
校舎が崩れるのではないか、というくらい大きな揺れだ。
「何が起きた!?」
男子の一人が声を上げると、異変に気付いた人達が窓側に集まる。
「なんだよ、これ……」
こんな状況でも仮眠をとっていた俺には彼らが何に驚いているか理解できない。
俺が理解したところで何もできないから、動くつもりがないのだ。
「皆、大丈夫? 怪我してない?」
教育実習生の女が教室のドアを開けて入ってきた。
担任のじいさんと一緒に安否確認する。
「薄井くん」
「はい」
「薄井くん、薄井達郎くんはいるー? いたら返事してくださーい!」
俺は席から動かず、手を挙げ、返事をしたはずだ。
声が小さかっただろうか。
「ここにいます!!」
「いないの? 誰か薄井くん知っている人いますかー?」
「知ってますけど、教室にはいません」
女子生徒の一人がそう答えた。
は? いるんだが?
「じゃあ次――」
そこでようやく、違和感に気付いた。
俺という存在が、誰にも認識されていないことに。
午前中の授業では教師に名指しで質問され、回答できていたのに。
いてもいなくてもいい存在から、いても誰にも気づかれない存在になってしまったようだ。
本当に? 何をしても認識されないのか、確かめてみようか。
教育実習生の女の左肩を後ろから叩いてみた。
「誰? 今、誰か私の肩を叩いた?」
彼女は後ろを振り返ったが、まったく気づいていない。
目の前に俺がいるというのに。
「気のせい?」
彼女は安否確認に戻った。
今ので証明されてしまった。
何をしても俺の存在が誰にも認識されないという、恐ろしい事実が。
俺以外が席につく中、俺は窓の外の景色を見た。
「あ、あ……」
三階から見えた光景。
砦と、その向こう側にある城。
こちら側に向かって何の言語で叫んでいるかわからない兵士達。
これってまさか……。
異世界召喚なのか!?
「くひっ」
思わず、声が漏れた。
だが、それは絶望の声ではない。
「ああああああああああああああああ! ああ!! しゃああああああああああああああああ!!!」
校舎ごと異世界召喚され、いきなり得たチート能力。
喜ばずにはいられない。
誰にも気づかれないなら、何をしてもいいということだよな?
絶望しかないこの人生に、初めて希望と思える出来事がこの身に起こった。
さあ、まずは何をしようか?
ちょっとずつ書き進めていきます。
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