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その掃除機、ジルバ

 俺の名は、清原諾雄(つぐお)という。

 就職のため、故郷を離れて初めての1人暮らしを始めることになったのは、昨年の3月末のことだ。

 その際、購入したロボット掃除機が、実にとんでもないシロモノであった。どうでもいいことだが、掃除機は白物家電に含まれるそうだ。しかし、俺が購入したのは、丸い円盤型の本体は赤色で、黑丸の模様が7つ。テントウムシを模したデザインだった。


 まあ、よくあるバッタもんであろうと思われたが、フローリングの床の上をゆっくり動き回るテントウムシを思い浮かべて、悪くないような気がしてしまった上に、50%オフの値段表示に釣られてしまった。

 後日、それは、バッタもんどころか化けもんだったことが判明した。


 なんと、それは、小さな町工場の工場長が趣味で作ったもので、いろいろあった末に亡くなってしまった工場長が憑依したまま売られていたのだ。

 ロボット掃除機は、掃除がしやすいという理由で、俺のいない時間帯には工場長の姿になっていた。

 結局、その工場長の姿を俺は見てしまったのだが。

 買った店からは、現品限りの返品不可と言われていたし、小さな町工場は既に無く、そこは、2億4千万にフューチャーする地図検索システム、Go-Go-Go ゴー・にっぽ~ん!のビューで確かめたら、駐車場になっていた。


 行き場を失ったロボット掃除機は、そのまま俺の部屋に残って暮らしている。

 働き者で、俺の部屋は、いつ、だれが訪問してきても問題のない部屋として保たれている。ありがたいことではある。


 元工場長は、ロボット掃除機にサンバという名を付けようとしていたようだが、サンバだとなんだか、3婆、元工場長が3倍の年齢になって、しかも3人に増えたりしそうなので、やめさせた。『テントウムシのサンバ』では大人の事情的にもいろいろ問題がありそうだし。が、呼び名が無いのは不便なので、ジルバと呼ぶことにした。


 ジルバは、俺が部屋にいる時にも、元工場長の姿でいることが多くなっていた。正体が知られてしまった以上、隠している意味が無くなったということらしい。そして、部屋の掃除以外にもいろいろとやりたいことがあるようだった。


「あのですね、私だけでは、部屋を綺麗に保つことができないという結論に至りました。」

元工場長の姿でジルバは断言した。

「掃除というのは、上から下へ、奥から手前へ、が基本なのです。しかしながら、私では上から下への方向に動くことができないのです。」


 ジルバは、元工場長の姿になることで、床に落ちている物を拾ったり、引き出しに物を仕舞ったり、といった行動をとることができるのだが、元工場長の背丈より高い場所の掃除はできないという弱点があったのだ。


「高い場所を掃除するためのロボット掃除機を作りたいと思います!」


 いや、作るって、どうやって?


「つきましては、材料を揃えていただきたいのです。必要な物品をメモしましたので、よろしくお願いします。」

ジルバは、いつの間に用意したのか、びっしりと書かれたメモ用紙を数枚手渡してきた。メモ用紙には、ヘリウム入りのマンボウ風船、工作用のモーター、布、配線用コード、更に、一目では何だか分からない様々な材料らしき品というか記号がこまごまと書かれてあった。


 こりゃあ、電気街か、DIYショップにでも行って、詳しそうな店員を捕まえないと揃えられんぞ。


 俺の困惑した表情を見て取ったのか、ジルバは、更にもう1枚、メモ用紙を追加して出してきた。

「ここに連絡をしてください。そうすれば、全て解決すると思います。」


 書かれていたのは、かつて町工場で元工場長の部下だった男の連絡先だった。

 元工場長が作ったロボット掃除機に元工場長が憑依しているなどと聞いても、頭がおかしいと思われるだけだろう。が、いきなり知らないヤツが連絡してきて、メモの通りの材料を揃えてくれなどと言われたら、やっぱり怪しまれるに違いない。


 俺は、メモ用紙は受け取ったが、男には連絡せず、週末の電気街を彷徨い歩く方を選択したのだった。そして、思った以上に困難なミッションであることは、すぐに判明したのだ。仮にも電気街の店ならば、あの意味不明な記号であっても、それが何なのか理解してくれるだろうことを期待していたが、店員たちは首をひねるばかり。俺は俺で、依頼されて来ただけだから、具体的な品が思い浮かばない。


 4件目の店でもやはり、状況は変わらなかった。が、俺が店を後にすると、すぐに1人の若い店員が追いかけてきた。俺を呼び止め、申し訳なさそうに言ったのだった。

「たぶん、『ガラクタチョップ』に行けば、あのメモを理解してくれる店員がいると思います。町工場で物品管理をしていた経歴があるとかで、やたら詳しいんです。店内で教えると、うちの店長から怒られちゃうんで……。」

そう言って、その場で1枚のメモ用紙に、簡単な地図を書いて手渡してくれた。


 俺は、その若い店員に礼を言って、地図を頼りに『ガラクタチョップ』という店を探した。店は案外すぐに見つかった。しかし、そこは、お世辞にも流行っているとは思えない感じの寂れた店で、不安だけが上乗せされることになった。意を決して、店内に入ると、あまり商売する気が無さそうな男が1人、カウンターの内側に座って、何やら組み立て作業をしていた。


「すみません。依頼されて材料を揃えに来たんですけど、俺、自分では工作しないんで、よく分からなくって。他の店の方が、こちらでならって勧められたんで来たんですけど。メモ、見ていただけますか?」

俺が、カウンターに近付いて声をかけると、男は、メモをチラっと見てから、ダイヤル式の黒電話の受話器を持ち上げて、どこかにかけて人を呼び出した。


 黒電話って、まだ現役で使えるんだ。って、ここは、昭和なのか?


 俺は、妙な感慨を覚えた。すると、奥の方から、いかにもな風体の男が現れた。物凄い眼鏡をかけている。牛乳瓶の厚底っていう表現がピッタリのヤツだ。ここは、本当に昭和なのかもしれん。


 牛乳瓶眼鏡の男は、メモを見ると。首を傾げた。

「これ、誰に頼まれたんですか? いや、そんなはずはないよな。あの人はもうこの世にいないんだから。すみません。聞こえなかったことにしてください。あと、今日中に揃えられるか微妙な品が3つほどあるんで、どうしましょうか? 確実に揃えられる品だけお出ししましょうか? 全部揃ってから連絡させていただいた方がいいですか?」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  『ガラクタチョップ』ですか。フフフ!   さて、なにが出来ますやら……
[良い点] あの工場長の魂が憑依したロボット掃除機の後日談なのですね。 工場長の魂も、すっかり新生活に馴染んだ感があって、ホッコリして良いですね。 そして、今回も言葉遊びが面白いですね。 サンバとい…
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