最終章 ドラゴンとの果てに
彼らドラゴンバスターズはまずファイアードラゴン討伐に向かった。
むろんこのドラゴンに強い恨みを持つアレッシュの強い要望があったからに他ならない。
生息地である活火山の多い地域に向かいファイアードラゴンを退治する一行だったが。
初仕事にしてはファイアードラゴンはいささか手強かった。
力押しのドラゴンならまだしもドラゴンとの戦いになれていないセーニャやタイソーは。
炎をかわすのが精一杯でイビルブーストをまだ使えないフローラも同様であった。
その中で有利にことを進めていたのは鎧に断熱材を用いていたアレッシュと全属性を有する上級ドラゴンのオーロラだった。
だがアレッシュは己の復讐だけに戦う男である。
その為アレッシュは戦闘時度々我を忘れる。
ドラゴンとの戦い方はおろかファイアードラゴンとの戦い方もろくに知らぬ仲間はピンチに陥り自分ことで精一杯だった。
そして優位にたっていたはずのオーロラも弱点であるマリーンを狙われだし、劣勢になってしまった。
マリーン自体は回復系の魔法が使える以外はそこらとこどもとかわらないのである。
オーロラもマリーンを庇いながらでは戦いにくい。
いかに上級ドラゴンと言えど満身創痍になってしまう。
さしものオーロラも追い詰められてしまった。
だが、もしもオーロラがマリーンを守るつもりがないのならば逃げることも敵を倒すこともたやすいだろうに。
しかし、オーロラはけっしてそうはしない。
はじめからそんな選択肢は無いかのごとく依然としてマリーンを守り続けている。
回りの敵を殲滅し、あたりを見回すアレッシュ。
するとマリーンを庇うドラゴンの姿を目の当たりにする。
その姿を目撃し、アレッシュは目からうろこが落ちる思いだった。
「俺はいったいなにをやっているのだ!」
「性別的にも年齢的にも守ってやらねばいけないような少女をほっぽって・・・」
「しかもその少女を守り続けているというのに!」
「忌むべきドラゴンか・・・」
「自分は最低だ!」
アレッシュはすぐさまマリーンを守り続けるドラゴンの前に躍り出て敵を一蹴した。
そしてマリーンを背に乗せながらオーロラとともに戦い残りのファイアードラゴンをも殲滅して言った。
辛くも初勝利を味わった一行だが傷ついた者も少なくはなかった。
オーロラも含め傷ついたものはひとりずつ
マリーンに回復魔法をかけてもらい、近くの街に宿を求めることにした。
オーロラはどこかへ飛び去ったがマリーンが呼べばすぐさまやってくるらしい。
5つの部屋を取り各自自室で休むことにしたがアレッシュの部屋にマリーンがやってきた。
「ありがと!」
それだけ言うと立ち去ろうとしたがアレッシュは引き止めた。
「礼を言うのはこっちのほうだ!」
「すまなかった!」
と深々と頭を下げた。
「???」
マリーンはわけもわからずキョトンとしていたがアレッシュはかまわず続けた。
「俺はファイアードラゴンを憎むあまりに人としての心を失っていた!」
「だが、いたいけな少女を庇うドラゴンの姿を目の当たりにしたとき!」
「俺の心に燃え続けていた復讐の炎は消えてしまった!」
「みせてごらん!」
マリーンは身を乗り出しアレッシュの甲冑を外そうとする。
「ファイアードラゴンの炎にやられたの?」
「そうだ!」
だがアレッシュは拒絶した。
アレッシュの火傷の痕は幼い少女に見せるにはしのびないほどひどかった。
「いたっ!」
しかしマリーンは無理に外そうとして手で引っかいてしまう。
「仕方ない!」
アレッシュは仮面や甲冑を全て外し、全身に渡る火傷の痕をマリーンに疲労した。
「痛そう!」
マリーンはすこし顔をしかめたがすぐさまアレッシュに回復魔法をかけ始めた。
だがアレッシュとて回復魔法をかけてもらったことはあるが火傷は治らなかった。
しかし、回復魔法にもいろいろある。
たとえばライフというのは自分の魔法力を他人に分け与え体力を回復させる魔法。
ヒールというのは人間の治癒能力を極限まで高め傷などを瞬く間にふさぐ魔法。
今マリーンがかけているのはリターンという魔法で火傷や傷などを負った皮膚の下から新たな綺麗な皮膚を生み出す魔法であった。
この魔法は医学と魔法の両方の知識が相当に高くなければ思いもつかない高等魔法でおそらくこれを教えたフレイヤとマリーン以外には使える者がいたかどうかは定かではない。
そして回復魔法をかけおわったあとには火傷が全快したアレッシュの姿があった。
人間らしい心を取り戻したアレッシュはその日のうちに体に負った傷さえも治ったのであった。
ここに一人呪縛から解き放たれた人物がいるというのに同じ日に呪縛にとらわれた者がいた。
フローラである。
フローラは戦乱のさなかアレッシュが倒したドラゴンのうちの1匹に対しイビルブーストを用いファイアードラゴンと化する術を手に入れていた。
その後も夜中にこっそり宿を抜け出し、ファイアードラゴンに変身出来るかどうか試していた。
問題なく変身は出来るものどうやらその度にフローラの体にうろこが数枚出来てしまう。
いつしか完全にドラゴンとなってしまうだろう。
だがフローラは後悔はしていなかった。
それから幾度となくドラゴン退治に向かった一行は徐々に腕を上げていった。
ウォータードラゴン、スカイドラゴン、ブラックドラゴンまでも倒した。
フローラはドラゴンと化して戦うまでもいかなかったが隠れてイビルブーストを使い続け今やファイアードラゴン、スカイドラゴン、ブラックドラゴン、ウォータードラゴンのどのドラゴンにも自由に変身することが出来た。
そのあとゴールドドラゴンとも一行は対面したがオーロラが居たこともあり戦わずにすんだ。
そして一行は最強最悪の名高い三つの首をもつドラゴンとの戦いを迎えた。
ブラックドラゴン、ゴールドドラゴン、メタルドラゴンの首を持つそのドラゴンはドラゴンの王としてキングドラゴンと呼ばれた。
ちなみにメタルドラゴンとは近頃発見された新種のドラゴンで好物はレアメタルで金属で出来たような硬い鱗が特徴のドラゴンだ。
そのため今回ばかりは念密な作戦が立てられた。
このドラゴンは三つの首により三つのドラゴンの能力を全て有している。
すなわち、ブラックドラゴンの凶暴さと怪力、ゴールドドラゴンの知恵、そしてメタルドラゴンの強固な鱗であった。
だが首だけはそれぞれのドラゴンのままなのでまず最初にブラックドラゴン、そしてゴールドドラゴン、そしてメタルドラゴンの順に首を討つことにした。
フォーメーションとしてはセーニャとアレッシュ、マリーンを背中に乗せたオーロラ(以前の反省から背中にマリーンの乗れる鐙のような物をとりつけた)とタイソーが前衛でフローラだけ後方支援だった。
首を三つ持っている上にいくつかの属性を兼ね備えているとはいえ複数のドラゴンとやりあったこともある一行は有利に事を進めていた。
そしてセーニャとアレッシュがブラックドラゴンの首を落とそうとしたときに何かが起こった。
ゴールドドラゴンである首がブラックドラゴンの首を庇ったためゴールドドラゴンの首が落ちてしまったのだ。
「駄目よ!」
「みんな離れて!」慌てて声を発したのは首を狙う順番を決めたフローラだった。
実はこのドラゴンは不完全なドラゴンだった。
残虐性を秘めたブラックドラゴンと知恵と理性を司るゴールドドラゴンという相反する二つの属性が重なっていたためその力は何分の一にもなっていた。
一同は皆唖然としている。
それほどまでに荒れ狂うドラゴンは凄まじかった。
だがたった一人フローラだけは笑っていた。
「この時をまっていたのよ!」
「いまこそこの力を解放せん!」
「チェンジングドラゴン、ブラックフォーム」
そう叫ぶとフローラの姿はまたたくまにブラックドラゴンになった。
しかしその姿は他のドラゴンと違いどことなく憂いを帯びているように見えた。
だがそのドラゴンの力は凄まじく瞬く間にキングドラゴンを倒してしまった。
そしてそのまま元の姿にも戻らず一行に襲い掛かってきた。
マリーンとオーロラは後方で見守っていたがアレッシュ、タイソー、セーニャの三人は立ち向かった。
三人とも本気で先程までフローラだったドラゴンを倒そうとしている。
だが三人の攻撃が当たる瞬間、そのドラゴンはわざと動きを止めた。
だがそんなことはお構いなしに三人の攻撃はドラゴンを撃つ。
だが、すんでのところでバスターが剣身をずらしアレッシュの剣身に思い切りぶつかった。
あらぬ方向からの衝撃によりアレッシュははじかれタイソーにぶつかってしまう。
そして三人とも攻撃をはずしてしまった。
「やっぱりフリね!」
いつの間にかオーロラに乗ったマリーンがフローラドラゴンの眼前まで迫ってきていた。
マリーンはすかさずフローラドラゴンに飛び移ると回復魔法をかけた。
悪しき心や悪しき呪い。
そんなおぞましいものから清らかな心、清らかな身に回復させる究極の回復魔法リフレッシュをすさまじい光にあたり一面にが包まれそして光の中からひとつの影が浮かび上がった。
そうそれは紛れもなく人の形をしていた。
マリーンのかけた魔法は成功しのろいの力は打ち消されたのだ。
フローラの体からは数枚のうろこがこぼれ落ち、なにもなかったかのごとく呪いは消えた。
かくして今回の戦いは幕を閉じたかに見えた。
しかし・・・先程倒したはずのドラゴンが蘇った。
スカルドラゴンだ。ゴールドドラゴンがなにか仕組んでいたに違いない。
骨格だけのドラゴンで攻撃によりその骨を崩しても瞬く間に元通りになってしまう。
このドラゴンには剣攻撃や魔法攻撃もまったく効かない。
咄嗟の判断でフローラは全員を囲む大きなバリアを張った。
バリアで全員は身を守られているがスカルドラゴンの放つ強烈な炎のためバリア内の温度はどんどん上昇していく、全員が高熱の為意識がもうろうとし。
もはやこれまでかと思われた。
そしてフローラはフレイヤとの思い出を走馬灯のなかで見る。
「ねえねえ、フローラ!」
「私、凄いこと発見しちゃった!」
「アンデット系のモンスターがもし現れたら!」
「回復魔法が効くのよ!」
懐かしいフレイヤの姿が思い起こされる。
「そうね、私だけならともかく!」
「みんなを死なすわけには・・・」
フレイヤは傍らのマリーンに。
「スカルドラゴンの放つ炎の途切れた瞬間にバリアを一瞬だけ解くから!」
「ありったけの回復魔法をあのドラゴンに・・・」
最後のほうは押し出すような声だった。
マリーンは意味は解らなかったがその姿にどことなくフレイヤの姿を重ね合わせ従った。
「恐怖でおかしくなるはずはない!」
「フレイヤだったらなんとかしてくれるはずだから・・・」
マリーンは言われるまま一瞬の隙を突いて残っている全ての回復魔法をスカルドラゴンにお見舞いした。
するとフローラの思惑どうりにドラゴンはバラバラになり、二度と動かなくなった。
「フッ!」
「まだまだあんたにはかなわないわね」
亡き友に贈る皮肉にも似た呟きを放つとフローラは気を失ったが、その言葉とは裏腹にフローラの顔は晴れやかであった。